08/8/07

森を育む家づくり

2目指すは森林・林業日本一

岩手県の東南部に位置する住田町は、町の面積の90%を森林が占める典型的な山村だ。平成16年ごろの町有林面積は日本一を誇り、かつては林業が財政基盤を支えていた。東京オリンピックのころは「町民から税金を徴収しない町になる」と言われるほどだ。

住田町の多田欣一町長は、「現在の貨幣価値に換算すると約25億円の財産収入があり、当時は東京と名古屋に次いで、地方交付税の不交付団体になる予定だった」と語る。多田町長も生家の林のうち0.5ha分のスギを売り、それによって4年間の大学生活を送ったそうだ。

しかし、外材の普及は住田町にも影を落とした。スギの値段は一向に上がらないのに、林業従事者の人件費は、東京オリンピックのころと比べて約20倍に跳ね上がった。機械化により人件費を抑える方法もあるが、機械化に必要な林道の整備を国に求めても、首を縦に振ってくれない。運び出せるところから運び出しても、運賃を乗せると採算割れになった。

それでも多田町長は、林業をあきらめることができなかった。

「先人が血と涙と汗を流して40年、60年と育てた木が、いま、何の価値のないものとして捨てられようとしているのは許されないんです。森が無くなっていくのを黙って見過ごさず、先人の思いを価値のあるものに結び付けるのが、我々の役目なんです」。

こうした考えには、多田町長自身の体験が大きくかかわっている。学生時代、夏休みに帰ってくると、1週間から10日ほど、下草刈りに行かされたそうだ。

「水はない、のどは乾く、鎌は切れない、ハチやマムシは出てくる。そういうところで一日中重労働です。この作業をやるつもりになれば、どんな仕事でもやり遂げられると思いましたね。それぐらいきつい作業でした」。

体験に裏打ちされた“林業復興”への思いは、やがて全国でも類を見ない取り組みへとつながっていく。これまでに森林整備から、製材、プレカット、木材加工までの一環システムの確立を図ってきた。そして、平成16年10月には、10カ年に及ぶ総合計画、「森林・林業日本一のまちづくり」を策定し、林業の再生や、林業をベースとした町づくりに取り組んでいる。


下草刈り
植えた苗木が雑草に覆われないよう、周囲の雑草を刈り取る作業。

プレカット
建築に使う構造材をあらかじめ工場で加工しておくこと。現場で使いやすいサイズや形にしておく。

(取材:岩間 敏彦  イラスト :小池 隆夫