太陽光発電で奏でるロック! 「THE SOLAR BUDOKAN」開催 

 太陽光から生まれた電力のみを使用したロックフェス「THE SOLAR BUDOKAN (ソーラー武道館)」が12月20日、東京・九段下の日本武道館で開催される。発起人はロックバンド「THEATRE BROOK」の佐藤タイジさん。震災後、「太陽光だけで武道館ライブを!」と立ち上がったタイジさんの想いに、多くのアーティストが賛同し、実現する運びとなった。ライブ本番を4日後に控え、リハーサルも佳境を迎えるなか、ソーラー武道館プロデューサーの松葉泰明さんに、前例のないソーラーフェス実現までの道のりや苦労、そして注目の電力システムの全容について話をうかがった。

 


――「THE SOLAR BUDOKAN」を開催するまでのいきさつを教えてください。

 

松葉:タイジさんとは古くからの知り合いだったのですが、僕はラジオやコンサートの制作を行う側の立場として、これまでは仕事上での付き合いがほとんどでした。それが震災が起きたことで、震災復興について原発問題についてなど、以前にも増してよく話すようになったんです。そこで太陽光で武道館ライブをやりたいというビジョンがあることも聞いていました。そんななか昨年の6月9日、ロックの日にUstream中継も行なっていたライブイベントで、2012年12月に太陽光発電ライブを武道館でやるとタイジさん自ら宣言したんですね。さぞ大きなサポーターがすでに付いているんだろうって思って聞いたら、「そんなのないよ。太陽光のこともほとんどわからないから、松葉くん手伝って」って言うじゃないですか! つまりすべてはタイジさんの思いつきだったのです(笑)。でも当時は日本中が暗くて、希望をどこに持ったらいいかわからないような時期。無謀に思えることでも、目標さえあれば前を向けると考え、一緒にこの夢を現実にしていくことに決めたんです。

 

――しかし過去に太陽光発電のみでライブが行われたという前例がありません。ましてや会場は武道館。実現へのハードルが高いだろうことは容易に想像されます。

 

松葉:そうなんです。太陽光発電だけでライブを行うことがいかに大変なことか、実際に動き出してからわかりました(笑)。でもやると決めたからには、タイジさんを嘘つきにしちゃいけない。そして彼いわく、THE SOLAR BUDOKANのスタンスは、原発反対ではなく、太陽光賛成なんですね。ですから、多くの人が賛成できるだけの太陽光発電のメリットを提示することが僕の仕事なんです。そんなこんなでまず始めたのが、電気を貯めるための蓄電池探しでした。

 

――実際にどんなご苦労がありましたか?

 

松葉:大手の電機メーカーなどには片っ端から声をかけましたが、やはり前例がない企画に乗るのは難しいという答えがほとんどでした。そんななか、手を挙げてくださったのがエリーパワーやエクソル、enenovaといった新興の蓄電池メーカー。そして鉛の蓄電システムを独自に開発しているチーム・RA(ラー)。彼らが提供してくれた、リチウムイオンでありながら発火しない蓄電池や太陽光パネルとバッテリーがセットになっている製品、家庭用ながら6.5kWもの蓄電が可能な大容量電池、そして楽器電源として未来の可能性を強く感じさせる鉛のバッテリーシステムなど、さまざまなメーカーの蓄電池を組み合わせることで約400kWを確保することができました。これにより、楽器を含めたステージ機材、映像送出、一部PAへの電源供給が可能となります。さらに本番当日は、武道館の前にソーラーフロンティア製のCIS太陽電池を50枚並べ、充電を行いながらリハーサルを行う予定です。そして照明はバイオディーゼル発電でまかないます。本イベントのスーパーバイザー・金沢工業大学の鈴木康允教授によると、バイオディーゼル燃料は植物などを原料としていて、植物は太陽光を浴びてエネルギーを蓄えることから、バイオディーゼルも一種のソーラーパワーなのだそうです。このほか、どうしても蓄電池だけではまかないきれない空調などの会場電源やフロントスピーカー部分については、2000kWh分のグリーン電力証書を購入しました。

 

THE SOLAR BUDOKANの電力システム (クリックで拡大します)
THE SOLAR BUDOKANの電力システム (クリックで拡大します)

――購入することで自然エネルギーを使っていると「みなす」ことのできるグリーン電力証書については、免罪符的に使われることへの批判も少なからずあるようです。

 

松葉:もちろんそういった声があるのも知っています。ですから、僕らが「太陽光で」というコンセプトで行うからには、単にグリーン電力証書を使うだけではなく、さらにもう一歩踏み込む必要がありました。そこで何をしたかというと、グリーン電力証書を生み出している長野県飯田市の南信州おひさま発電所を訪ね、ここで生まれた太陽光発電(の環境価値)が、武道館の空調やフロントスピーカーといったインフラ周りに使われるんですよということを、設置者の方々に直接伝えたんですね。そのことを話すと、みなさん非常に喜んでくれました。これが何を意味するのかというと、電気の送り手と受け手が武道館ライブという目的のため、想いを1つにしたんです。実際に使用する電気は送電網を通ってきたものですが、両者の想いが共有された電気というのは、単に持ってくる方法が違うだけで、その場でパネルから蓄電池に貯めた電気と何ら変わらない。僕はそう思うのです。ですから今回のライブでは、決してグリーン電力証書を買って終わりではなく、電気を作る人、使う人の想いを重ねるということを大切にしてきました。

 

――ほかにも飯田市の取り組みには感銘を受けたそうですね。

 

松葉:飯田市の取り組みが特に素晴らしいと感じたのは、敷地のあるところに大資本がメガソーラーを作るのではなく、市民がお金を出しあって地域の家や公共施設の屋根にパネルを付けるという参加型のスタイルなんですね。ここに日本のエネルギーの目指すべき姿のヒントを見た気がします。というのも、これまで私たちは、はるか遠くの発電所で作られた電気をコンセントから使うばかりでしたが、飯田市のように、一人ひとりが地域の自然エネルギー発電に関わることができれば、省エネも含めたエネルギーへの意識は自ずと変わります。そうやってコミュニティレベルで、太陽光発電を広げていこう、自分たちで自然エネルギーを作ってしまおうという機運が高まっていけば、国や行政に頼らずとも、もっとシンプルにエネルギーシフトを進めることができるのではないでしょうか。

 

――最後に、いよいよ木曜日に迫ったライブ本番に向けてメッセージをお願いします。

 

松葉:電気が限られた状態で行うライブというのはおそらく初めてだと思います。当然、音や映像が止まってしまう可能性もゼロではありません。一方で、こうした実験的な試みをミュージシャン自身は楽しんでくれていますし、未来を作るためのライブということで、普段に増して気合も入っています。太陽光の電力のみでライブができるということを証明してやろう、歴史を作ってやろうというチャレンジですから、そんじょそこらのイベントとは違うという自負はあります。必ずや後世まで語り継がれるようなライブになるはずですよ!

 

 

 松葉さんが言うように、「THE SOLAR BUDOKAN」は、初めて太陽光発電のみで行った伝説のライブとして音楽ファンの間で語り草になることは必至だ。2012年12月20日、私たちは歴史的瞬間の目撃者となる。

 

取材・文/加藤 聡

 

THE SOLAR BUDOKAN

【出演】 佐藤タイジプロジェクト(A100%SOLARS / THEATRE BROOK / TAIJI at THE BONNET / The Sunpaulo /インディーズ電力) / 奥田民生 / 加藤登紀子 / 吉川晃司 / 斉藤和義 / 田中和将(GRAPEVINE) / 土屋公平 / 仲井戸"CHABO"麗市 / 浜崎貴司 / 藤井フミヤ / 増子直純(怒髪天) / 屋敷豪太 / 和田唱(TRICERATOPS) / Char / Leyona / LOVE PSYCHEDELICO / Salyu / Decoration by Candle JUNE

【日時】 12月20日(木)17時30分開場 / 18時30分開演

【会場】 日本武道館

【料金】 全席指定6,900円

【URL】 http://solarbudokan.com/

 

«一つ前のページへ戻る