固定価格買取制度の改正議論と再生可能エネルギー普及のビジョン

 前回は固定価格買取制度を巡る課題などについて取り上げましたが、今回はそのような状況を踏まえて、現在進められている固定価格買取制度の改正議論と、今後再生可能エネルギーを普及させていくために何をすべきかについて整理してみます。

【改正議論のポイント】

 固定価格買取制度の根拠法となっている「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」の附則第十条2には、制度の見直しについての規定があります。ここでは「エネルギー基本計画が変更されるごと又は少なくとも三年ごと」に、法律の施行状況について検討し必要な措置を講ずるものとされています。

 現在は固定価格買取制度が開始されてからちょうど三年度目にあたり、制度の見直しを行う時期に入りました。


 制度の見直し議論は経済産業省の新エネルギー小委員会で行われていますが、その中で現在の固定価格買取制度において問題とされている点を整理すると、

 ①太陽光発電への導入量の偏り

 ②設備認定を受けた発電所の運転開始率の低さ

 ③送電網への接続問題と運用改善

 ④将来的な消費者負担額の見通し

以上が主要な論点になっています。


 太陽光発電設備の新設が全国各地で急増しており、それに伴って送電網の接続可能量が逼迫し、制度設計の問題から実態を伴わない設備認定や接続申込みが多発し、大量の認定取消も発生、加えて設備認定を受けている太陽光発電所が全て稼働すれば消費者負担が増加する恐れが取り沙汰される、といった形になっています。

 更に、太陽光発電増加による送電網への接続可能量逼迫によって、太陽光発電以外の再生可能エネルギー発電導入が阻害されているという面もあります。九州電力を始めとする電力各社のいわゆる「回答保留問題」が、太陽光発電の設備認定急増を理由としているため、太陽光発電の制度上の扱いをどうするか?というところにも議論の重点が置かれています。

 対策案として、電力の需給バランスが崩れそうな日に発電所の稼働を停止する出力抑制の拡大、蓄電池設置による負担平準化、地域間連系線の活用、広域的な送配電管理など様々な手段が検討されており、年内には一定の方向性が示される見込みです。


【制度設計に不備はあったのか】

 2012年7月の固定価格買取制度開始以来、太陽光発電の急増という形で再生可能エネルギーの増加が進められてきましたが、増加量として取り上げられる数字は経済産業省による設備認定を受けた案件の数です。太陽光発電では事業計画の実態を伴わない設備認定申請が多いことが問題視され、経済産業省が事業者に対して報告徴収を行い、実態のない計画への認定取消を進めています。

 それでも太陽光発電の計画・導入量が圧倒的なのは事実で、背景には太陽光発電が取り組みやすい再生可能エネルギー源であること、国内でも長い間少しずつ普及が進んできた身近なエネルギー源であることが関係していると考えられます。

 1993年に国内で住宅用太陽光発電設備の販売が始まってから、かれこれ20年以上が経過しています。住宅や公共施設の屋根やソーラー街灯などが少しずつ増え、2009年には住宅用太陽光発電の余剰電力買取制度が導入されたことで一層の増加に転じました。

 そのような状況下で、固定価格買取制度で初年度の非住宅用太陽光発電の買取価格が40円/kWh(税抜き)に設定されたことから、人々が太陽光発電にまず取り組んだこと自体はおかしなことではありません。制度の目的自体が、事業者に有利な収益性を担保することで投資を促進することにあるわけですから、見事に目論見が当たったことになります。

 惜しむらくは、系統連系や設備認定に対する制度設計の甘さ、そして状況に合わせて制度を変更していくような柔軟さが不足していたことが、混乱の原因の一つと言えるでしょう。各地で大規模な太陽光発電事業が次々と立ち上がり、時には地域との軋轢も生じさせながら、多くの発電所が建設されてきました。


【地域エネルギーとしての再生可能エネルギー】

 現在の固定価格買取制度と再生可能エネルギー発電を巡る議論の中では、送電網増強のための社会的費用負担の問題や、買取制度における消費者負担金の増加など負の側面が強調されがちです。そこでは、再生可能エネルギーの普及がもたらす社会的なメリットへの視点が不足しています。

 再生可能エネルギーは、小規模な設備でも必要なエネルギーを得やすい、分散型のエネルギー源であることが特徴です。再生可能エネルギーの普及によって得られる社会的便益には、地域の所得向上、直接的・間接的な雇用創出、農林漁業など第一次産業への波及効果、エネルギー自給率の向上、防災への貢献、燃料費の削減、二酸化炭素の削減を含む環境負荷の低減、エネルギーの輸送コストの低減、省エネルギーへの関心向上などが挙げられます。

 そして、再生可能エネルギーは地域に存在する自然環境の中からエネルギーを取り出すものですから、その土地に密着した「地域エネルギー」としての性質を有しています。化石燃料や核燃料から得られるエネルギーは大規模なプラントから地域へと供給されていきますが、再生可能エネルギーを利用することによって、食料と同様にエネルギーも地産地消という視点を持たせることができ、収益も地域に還元されるようになります。

 各地で再生可能エネルギーを利用したエネルギー事業を立ち上げ、更にその事業を軸として地域に新たな産業を生み出し、活性化していくようなサイクルを広めていくために、固定価格買取制度の見直しにあたっては地域エネルギーの視点を積極的に取り入れていくべきです。

 

【将来を見据えた議論のために】

 太陽光発電の急増に目を奪われてしまい、どの再生可能エネルギー源を・いつまでに・どれだけ増やすのかといった政策目標も曖昧です。現在、国内の発電所の合計認可出力(2014年9月末時点)は、停止中の原子力発電所を含めて2億3,347万kWです。もし、既に設備認定を受けている7,000万kW以上の再生可能エネルギー発電設備が全て稼働すれば、単純に積算しても20%以上の構成比率になり、既存の発電所に置き換わるとすると30%近くになります。

 2010年に経済産業省が公表した「2030年のエネルギー需給の姿」では、大規模水力発電まで含めた再生可能エネルギー等全体で、2030年度に2007年度比で7,000万kWの設備容量増加というビジョンを提示していました。このまま順調に再生可能エネルギーの導入が進めば、過去の政府目標はかなり前倒しで達成される見通しとなります、もちろん、一年間に導入できる設備量には限界がありますし、送電網の増強という課題もあるので、段階的な導入目標については再度検討を行う必要があります。

 また、農林水産省が農山漁村再生可能エネルギー法を制定し、再生可能エネルギーによる農林漁業の活性化を進めようとするなど、エネルギー以外の政策分野で地域活性化と再生可能エネルギーの組み合わせを模索する動きが活発化しています。

 

 更に、2016年度には電力の完全小売自由化、2018年度以降は発送電分離といった大きな制度改革が予定されており、わが国は戦後復興期の1940年代後半以来、70年ぶりにエネルギー政策の大転換期に突入します。

 この転換期の中で、私たちは再生可能エネルギーを使うことによって、どのような社会を実現したいのか?という問いかけへの答えをしっかりと考え、将来のビジョンを描いていかなければなりません。


<前回の記事>

【SCJ】固定価格買取制度導入から2年 再生可能エネルギーを取り巻く現状


千葉エコ・エネルギー株式会社

代表取締役 馬上 丈司

Blog:ちばえこ日和 [http://cee.hatenablog.jp/]




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