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EOLフライブルクレポート
緑の街と緑の人びと
第九回

「目的地までいかに速く、大量に、快適に辿り着くか」ということが近代交通の目標でした。しかしそれを達成する手段であったはずのマイカーが普及したことで、渋滞、事故、そして環境破壊と本来の目標を達成することもままならず、新たな問題さえ生み出しています(交通事故では昨年に7千人以上の方が亡くなられましたし、運輸部門のCO2排出量は2003年度で京都議定書の基準年90年に対して19.8%増加しています)。また移動の際に最も大切だったはずの「快適さ・楽しみ」も忘れ去られてしまったようです。車の車内がいかに快適になったとはいえ、ドイツの平均的な男性が渋滞の中で過ごす時間(年間67時間)の方が、セックスする時間(年間40時間)よりも長くなっている現状は正常とはいえなさそうです。この現実が私たちの生活の質を物語っています。

ところで今回はフライブルク市の公共交通機関について。フライブルクには路面電車とバスの交通網が、文字どおり網の目のように広がっています。人口20万人規模の日本の地方都市とは比較になりません。フライブルク市内どこでもマイカーなしで辿り着くことができるのです。また公共交通の場合、「なんとか目的地に辿り着くことができる」のではなく、「辿り着くことができて当たり前」でなければ誰も利用しません。フライブルク市の公共交通の場合はもちろん後者で、「快適に」「不便なく」目的地に辿り着くことができるのです。

時刻表の密度に注目してみると、日中の路面電車や主要なバスに至っては、時刻表を見ることなく利用することが可能です。5分間隔は当たり前。こうでなければ利用者はマイカーを移動手段として優先させてしまいます。

また料金システムも画期的です。通常の1回券は高額で、1日乗り放題の24時間券や回数券もそれほど魅力的ではありません。しかしフライブルクには「レギオカルテ(地域定期券)」と呼ばれる、一定区間(フライブルク市と周りの市町村を合わせた2,200キロ平方メートルのエリアで使い放題!)、1ヶ月間乗り放題の定期券があるのです。線の定期ではなく、面の定期券は、もちろん自治体の補助によって実現しています。現在の値段は1ヵ月5,000円で、いわゆる交通弱者でも誰でも自由にフライブルク市内、または郊外まで移動できるのです。

もちろん近距離交通機関は、フライブルク市のように成功していても採算が取れていません。レギオカルテなどのサービスを充実させるためには、税金からの助成が、つまり政治的な意志が必要となるのです。しかし考えてみると、フライブルク市が1984年に環境定期券(当時はそう呼ばれていましたが、現在は地域定期券)を導入し、近距離交通機関に力を入れてからの利用者数は3倍に増加していますし、2004年度は年間延べ6,860万人が利用しました。フライブルク市と周辺には人口23万人が住んでいますから、平均して1人が年間298回も公共交通を利用していることになるのです。

これに対して使われた税金は1,140万ユーロ。これは公共交通運営費総額の20%以下です。全費用の80%以上が利用者が支払う料金などによって賄われています。自動車の開発援助や道路にだけ税金を使うのではなく、子供もお年寄りも、弱者も強者も利用できるものに税金を投入する。ここが民主主義の重要なポイントではないでしょうか。またマイカーからバスや電車に乗り換えた場合、同じ移動距離でも環境負荷は少なくとも10分の1に削減されることも覚えておくと良いでしょう。環境破壊の「つけ」は、最終的に子供たちが支払う税金で賄われるのでしょうから。


つづく

 




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村上 敦  (ムラカミ アツシ)

1971年生まれ。岐阜高専土木工学課を卒業後、ゼネコンに入社。東京湾埋立工事 などにおいての環境破壊の惨状に疑問を感じ、ドイツ・フライブルクへ留学。フライブルク大学独文科に在籍しつつ、ドイツの環境政治・行政を学ぶ。途中ドイツ人女性と結婚し、休学。その後、フライブルク地方市役所・建設局に勤務し、 現在は日本の環境機器メーカーのアドバイザー、兼主夫。HP(www.geocities.jp/freiburg2004report/)でフライブルクの行政についての分析を行う。」


フライブルク基本情報

■市名/Freiburg im Breisgau

■位置/ドイツの南西部。フランス、スイスの国境に近い。

■気候/平地は乾燥して暖かいシュヴァルツヴァルトでは風が強く寒い。

■人口/約20万人

■面積/約103平方キロメートル(うち3分の1が森)

■特徴/ドイツ南西部「黒い森」のふもとに位置する中世の趣を残した大学都市。

1972年に隣接した地域に原子力発電所の建設が予定され、町をあげての反対運動で阻止。
これをきっかけに、市民と行政の両者が積極的に環境保護に取り組むようになり、1992年に「環境首都」(=自然と環境の保全に最も貢献した自治体)の称号を与えられた。



 

 



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