「せっかく預けた郵便貯金が、地球環境を破壊する事業の資金源になっている」。そんな懸念から誕生したのが“未来バンク”だ。「環境問題を解決するには、お金が環境に配慮した事業に使われるための“金融のしくみ”をつくる必要がある」。未来バンク事業組合理事長の田中優さんは指摘する。
田中さんは、地域の仲間たちと、生活に身近な環境問題に取り組んでいた。“ごみとリサイクル”の問題を調べるうち、リサイクルが進まないのは、「新品の方が価格が安いから」という当たり前の理由に気づく。つまり「新品の材料になる資源が安すぎる」ことが問題だった。そこには、巨大な経済のしくみが背景にあり、世界の資源が安く輸入される構図ができあがっていた。
「環境破壊に反対しても、郵貯に貯金し続けると、モグラ叩きゲームをやり続けることになる」と田中さんは語る。モグラという環境問題が出てくる→叩く→郵貯というコインを入れる→どこかでモグラが出てくる→叩く、の繰り返しになってしまうのだ。では、どこにお金を預けたらいいのか?その問題を解決すべく「環境と金融の研究会」という勉強会をつくり、1994年に未来バンクを設立した。融資をする対象は、「市民事業」「環境にいいこと」「福祉」の3つ。3%という低利の固定金利、単利でスタートした。毎年、どんどん出資者が増え、この3月末で1億5000万円以上が集まっている。融資先は、当初は自宅に太陽光発電を設置する資金など、個人向けが多かったが、現在は、NPO法ができたことから、自然エネルギーの普及事業などNPOへの融資が大半を占めている。これまでに、累計6億4000万円、250件を融資し、貸し倒れは1件もない。
今後は、「各地域で市民が自分たちに有利な金融のしくみをつくることが望ましい」と田中さん。「お金が各地に分散されれば、地域への投資が増え、事業や雇用が生まれ、地域が活性化される」と話す。その期待に応えるように、最近は各地でNPOバンクのような市民バンクができ始め、エコロジーファンドなどの動きも出てきた。ミュージシャンの櫻井和寿、小林武史、坂本龍一の3人が出資した融資機関“ap
bank”も、未来バンクの活動を知ったことがきっかけで設立された。
もう一つ、田中さんが地域で取り組んでいる環境活動に、NPO法人の“足元から地球温暖化を考える市民ネット江戸川”(通称“足温(そくおん)ネット”)がある。地球温暖化防止のために、省エネ家電への買い替え資金を融資する活動などを行っている団体だ。ここで田中さんは、政府が出した「地球温暖化対策推進大綱」のように「個々のライフスタイルの改善を強いる手法は普及しない」と活動を展開している。具体的には、人々が普通にできる「家電を省エネ製品に買い替えてCO2を削減すること」を提案している。例えば、400リットル冷蔵庫の場合、7年前の製品の消費電力は1200kWhだが、現在は180kWhになっている。買い替えるとCO2排出量を削減できるばかりでなく、年間約2万3000円も電気料金が安くなる。購入価格10万円を払っても、5年間で元が取れる計算だ。この購入資金10万円を主に個人向けに融資している。イニシャルコスト(初期費用)をランニングコスト(維持費用)の節減で補うこのしくみを、冷蔵庫以外のエコロジー製品にも広げていこうと計画中だ。
環境問題を解決するために、常に社会の新しいしくみづくりの先駆者であり続ける田中さん。次はどんなことを仕掛けるのか、注目していきたい。
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