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eco people file no.26

とんがった映画にメッセージをのせて 映画『ミラクルバナナ』 錦織良成監督にお話を伺ってきました。

「バナナの木から紙を漉く、ただそれだけの話なんです」と、錦織良成監督は言う。今年9月16日に全国公開になる映画『ミラクルバナナ』のことだ。
 主人公は普通の女の子。ちょっとした間違いから、カリブ海に浮かぶ小国ハイチ共和国に赴任することになってしまった大使館派遣員だ。西半球一の最貧国といわれるハイチの治安の悪さと貧しさにとまどいながらも、たくましく現地にとけ込んでいく。そして強く想う。「彼らを、彼らのこの国をどうにかしてしあわせにしたい」。そんな想いを実現させたのが、ふとしたことをきっかけに知ったバナナの木から紙をつくるというプロジェクトだった。プロジェクトを成功させるために奮闘する主人公。熱意に巻き込まれ、プロジェクトに関わっていくことになるたくさんの人々。試練を乗り越えてみんなのベクトルが同じ方向を指したとき、念願のバナナペーパーが完成する。
 監督の言うように、バナナの木から紙をつくる、ただそれだけのストーリーではある。しかしそこには、心の奥がぽっとあたたかくなる何かがあった。

:: 大切なのは、人がどう生きてどう死ぬか

 きっかけは、たまたま書店で見かけた絵本。バナナの木でできた紙に綴られていた。
「最初は、バナナの木から紙ができるなんておもしろいなと思っただけなんです。でも実際にハイチに行って、どんどん見方が変わっていきました」と、当時を振り返る監督。その変化していった視点で、帰国後いっきに脚本を書き上げた。
 ハイチ共和国といってもあまりなじみのない人が大半だろう。ドミニカ共和国と同じイスパニョーラ島西側にある小さな国。しかし、観光で栄えるドミニカとは違い、治安や情勢が不安定でスラム街では毎晩銃撃戦が起きている。当然死者も出る。貧しさのため子どもたちは学校に通うこともできず、たとえ通えたとしてもノートすら買うことができない。日本なら助かるような簡単な病気でも、十分な治療が受けられないために命を落としてしまう人が少なくない。ハイチはそんな国だ。
 「なんて恐ろしくてひもじい国なんだと思いますよね? でも、日本でも毎日のように殺人は起きています。交通事故でも毎日多くの人が死んでいます。戦争が起きているわけでもないのに。それで、日本人のほうがよっぽど死んでるぞと気づいたんです」
 映画の中に描かれているハイチの人々は、明るく生命力に満ちている。これは、事前調査のために現地に行って感じたことそのままだという。豊かゆえに、いま目の前にある危機を感じなくなり生命力までも低下してしまった私たち日本人。現地の人々と触れ合ううち、この「人間がどう生きて死ぬか」というもっとも大切な根っこの問題を映画の大きなテーマに据えようと決めたのだ。

::  マイノリティーであり続ける

ハイチをはじめ世界の貧しい国々の山にはハゲ山が多い。森林伐採の大きな原因は、住宅用の木材や紙の資源にされることではなく、貧しさから。そこに生きる人々が、きょうを生きるために木を切り出して燃料としているのだ。こうした問題は政府に責任の一端があると監督は言う。100万人が声を荒げてもどうにもならないもの、それを変えられるのは政治でしかないのだと。ハイチも日本も同じ。全体のパラダイムが変わっていくことが何よりも大事だということを、渦中のハイチで痛感した。
「日本での話ですが、森林を間伐しているのを観た小学生が、森林伐採だ!と作業者を非難したという話を聞きました。でも、間伐の必要性やその理由を教師も説明できない。根は相当深いですよ」
こうしたことを声高に訴えても人々の関心をひくことはできないかもしれない。しかし、見せ方ひとつで上手な導入にもなり得るのが、映画をはじめとするエンターテインメントの良さといえるだろう。監督は、それを巧みにスクリーン上で表現するすべを知っている。

そういえば、前々回作の『ハート・オブ・ザ・シー』、前回作の『白い船』と、少しずつエコロジーよりになっていると感じる監督の作品。何か変化があってのことなのだろうか。
「世間やマスコミがあまり見ていないところにスポットをあてていった結果かもしれません。知人が、『ミラクルバナナ』をすごくとんがった映画だと言ってくれました。20年前の豊かで安定した頃なら、自らを滅ぼすような映画がとんがっていたのかもしれません。でも、いまはそういうことが現実にあふれています。いいコメを食べて心が豊かな暮らしをすることがいまはマイノリティーですからね」
単なる娯楽映画ももちろん必要だ。だが、全てがその方向に流れていくのは怖いことでもある。監督は、視聴率や観客動員数というビジネス面ばかりが優先されるこの世の中で、何らかのメッセージが入ってこそ映画だと考えている。10人が白と言う中で1人だけ黒と言えることの大切さを知っている監督は、自身もそんな人であり続けようとしているようだ。

これからしばらくの間、錦織監督がつくり出す映画は柔らかくもとんがった作品、ということになるのだろうか。全国公開を目前にした『ミラクルバナナ』に加え、すでに制作に入っているという次回作からも目が離せない。

LINK

映画『ミラクルバナナ』公式サイト www.miracle-banana.com/



錦織良成(にしこおり よしなり)さん

1962年島根県出雲市生まれ。高校時代に演劇に熱中し舞台演出家を志す。1999年、菅野美穂主演の青春映画『守ってあげたい!』を監督、一躍脚光をあびる。2002年、故郷の島根を舞台にした『白い船』では、単館系の公開ながら10万人を超える動員を記録して映画ファンから熱い注目を受けた。


 



 

 

 

 

 

 

 






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