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「小笠原航路の世界最高速客船、燃料高騰で就航断念」。この事実に反する読売新聞の記事によって、小笠原の経済は深刻な状況に追い込まれている。そんな中、地元小笠原のNGO法人が廃油をリサイクルしたバイオディーゼル燃料で運行コストを下げ、この船の就航を具体化しようと立ち上がった。バイオディーゼルは地球にやさしい燃料であり、排ガス汚染や海洋汚染問題の解決にも期待が持たれる。

国家プロジェクトとして開発された世界最高速船のスーパーライナーオガサワラ(TSL)は今年11月に東京と父島の間で就航する予定だった。ところが、昨年夏以来の原油高騰のあおりを受け、運行コストの大幅アップは避けられず、就航すれば年間20億円の赤字が見込まれることが明らかに。このため6月、TSLの保有・管理会社テクノ・シーウェイズからこの船を借り受けて就航させる予定だった小笠原海運は、契約を白紙に戻す考えを示した。

TSL就航に暗雲が立ちこめる中、7月25日に上記の記事が1面トップに。しかし、同日の記者会見で国土交通省の岩村敬事務次官は、島民の利便性の向上や観光需要の喚起、経済活性化などのメリットから、小笠原海運への助成も含めた支援を東京都などと共に協議していることを明らかにした。運行は4月に延期との発表もあった。8月に入ってからはTSLの海上公試運転が紀伊水道沖で実施されている。「就航断念」は誤報ともいうべき報道だったのだ。

小笠原では、公共事業の減少に加えて、日本経済全体の不況の余波から観光収入も半減。ここ2、3年、経済状態が悪化し深刻な状況が続いている。島の経済を立て直すには、恵まれた自然環境を生かしたエコツーリズム事業で観光需要を拡大することが最重要課題。25時間半かかっている島への所要時間を17時間に短縮できるTSLは、救世主ともいうべき存在だ。

実際、TSL就航により現況2万人の旅客者数が5倍の10万人に達するという国の試算もある。村は就航後のインフラの整備のため、旅館や土産物店などの観光業者へ利子補給などの特別融資を行ってきた。旅行客の増加を見込んで融資を受け、事業の拡大に着手した観光業者も少なくない。ところが、この読売新聞の報道によって、金融業者からの融資の撤回も一部出ている。今、村は騒然としている状態だ。執行部は早急に回避策を示さなければ訴訟問題に発展するおそれも出てきた。

そうした中、NGO団体小笠原自然観察指導員連絡会は、国、都、村、小笠原海運などの関係機関に、天ぷら油等の食用廃油を利用したTSLの代替燃料供給プランを提案した。

TSLは重油より高い軽油を使うため、現在運行しているおがさわら丸の約2〜3倍のコストがかかる。そこでこの軽油を、天ぷら油などのリサイクル油を利用したバイオディーゼルに変えることによって燃料費を下げようというのが、このプランの趣旨だ。廃油のリサイクルをするバイオディーゼル精製工場を東京に作ることによって、下水道汚染、ひいては海洋汚染の原因の1つである廃油排出量も低減でき、東京都の環境政策にもつながる。バイオディーゼルは植物性なので有害化学物質の含有量が少なく、黒煙や硫黄酸化物(NOx)が出ない。CO2の排出量もゼロカウントで、地球温暖化抑制にも寄与できる。

環境負荷が少ない分の憂虞処置として東京都独自のバイオディーゼル優遇税などの対策をとれば運行コストの削減にもつながるだろう。バイオディーゼルはドイツを中心としたEUやアメリカ・カリフォルニア州では積極的に使われている。ドイツではバイオディーゼルの燃料スタンドが1,100箇所もあり、このため、ガソリン車よりもディーゼル車のほうが環境に配慮した車として認知されているほどだ。日本でも環境にやさしい燃料ということで、昨年からバイオディーゼル燃料車の開発・普及促進が国交省によって実施されている。

内地から1,000kmも離れている小笠原では、週に1度の船便が生活物資を届ける唯一の交通手段だ。それだけに、いずれは枯渇する化石燃料にいつまでも依存しているわけにはいかない。一日も早く化石燃料に頼った現状から脱却しなければ、島の未来はない。

今、船の燃料をバイオディーゼルに転換することによって、将来にわたる島のピンチをチャンスに変えられる。環境問題の解決にもつながり、世界遺産に認められる可能性も高まる。

バイオディーゼル精製工場の運営は、地域住民の手でやっていくことに意義がある。PFI事業(民間の資金、経営の能力、技術を活用して公共事業を行うこと)として、村の人たちが会社を興して実施していきたい。食用廃油は冷凍食品会社や揚げ物工場、ファーストフードチェーン、ホテルなど大量消費をしている工場などから供給を受けることを考えている」と同連絡会渉外担当理事の友永成太氏は語る。

クリーンで低燃費な高速艇の航行が話題を集めることは必至。廃油の供給先企業と提携を結ぶことにより、TSLを広告宣伝媒体として利用したいという企業もたくさん出てくることが見込まれる。広告収入をTSLの運航費の一部に充てられるのではないかとの見方もある。また、いずれは一般家庭からの食用廃油をリサイクルすることも検討しており、回収対価としてグリーンマネーを発行することも視野に入れられている。「修学旅行生などを対象に『食用廃油を集めて、小笠原へ行こう』etc….という夢のあるキャンペーンも展開できるだろう。廃油が船や自動車を動かせる、廃油の下水汚染で困っている東京都を救えるという。環境保護体験学習などと組み合わせるなどして、いろんな仕掛けができると思う」と友永氏。

課題となるのは、東京ー小笠原間で1往復552キロリットル軽油ベースで必要となる燃料を精製するための具体的な廃油回収システムの検討だ。回収は民間の運送会社と提携して実施する計画だが、村民たちの情熱が問われる。

「バイオディーゼルの精製技術は確立しているので、都やこの事業に関連している企業の方達に土地や資金の援助を受けられれば、ローコストで精製工場はできる。バイオディーゼルは、軽油と混ぜることによっても燃費が上がり、排ガスも減る。まずは燃料の一部だけでも供給できるめどをつけたい。当面、TSLへの供給だけを目的とし、食用油の廃油を効率良くローコストで集められる独自の回収システムを構築することで、リッター35〜45円で精製可能と試算している」と友永氏。

このプランの反響は大きく、特に国土交通省、TSLの保有会社、三井造船内部では、すぐにできることではないが、良いアイデアだと高い評価を受けている。原油価格の高騰に左右されず、クリーンエネルギーで走る世界一環境にやさしく低燃費な船。国家プロジェクトとして開発されてきたスーパーライナーオガサワラ(TSL)は、持続可能で環境保全に役立つエネルギーで走ることによって、世界からの注目も集めるだろう。就航予定の4月に向けて、小笠原では地域住民の間で活発な動きが見られそうだ。


九冨 真理子 (クトミ マリコ)

1959年、千葉生まれ。量販店、マーケティング会社での勤務を経て、フリーのライターに。環境、福祉、医療、教育の4分野を中心に著作活動を行って十数年。ぐーたら虫の主婦(?)ゆえに、息をするように無理のないエコロジーがモットー。今春、夫がガンで亡くなったことをきっかけにメディカル・ソーシャル・ワーカーになることを決意。真に患者がいきいきと自分らしく過ごせるためのサポーターになるのが目下の夢



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