eco people file:039

緑の鎖で街をつなぐ

株式会社チームネット 代表取締役の甲斐徹郎さんにお話を伺いしました。

グリーン・パワーで夏を快適に

場所は世田谷区。小田急線経堂駅から歩いてしばらくの住宅街に、ひっそりと佇む緑の建物がある。大小さまざまな樹木、建物を覆い尽くす植物。周囲の住居とは一線を画したこの建物の一部が、甲斐さんのオフィス兼住宅である。
オフィスに入ると、外から見る風景とは様子が変わり、緑が幾重にも重なる景色が窓の先に広がる。森の中の隠れ家、そんな言葉がぴったりの空間は、空気もひんやりと清々しい。
「これが植物のチカラです。暑さは、太陽からの直射と、地面や建物などからの放射によって決まります。緑で日陰をつくれば、直射と放射の両方を遮って温度を下げることに加えて、葉から気化する水分が周囲の温度も奪っていくのでより涼しさを体感できるというわけです。天然の水の壁のようなものですね。外気温が35、6℃の時でも、クーラーなしで室内は28℃くらいと、外気との温度差は5℃以上になりますよ」
植物のチカラ…なんとなく涼しげなこの響きが、これほどまでに快適なものだったとは。まさに、百聞は一“感”にしかず、である。

体感重視の価値観へ

快適な空間を生み出す植物。上手に建物に取り込むことができるはずなのに、なぜ、そうした建物をほとんど見かけることがないのだろう。
「世の中のパラダイムがそうだからです。私たちは、“快適さ”を数値で表すようになった瞬間から、感覚の世界を置き去りにしてきました。技術やデータを駆使して最高のものをつくっても、快適さの表し方そのものが正しくないとすれば、おかしなことになってしまいます」
例えば、室温25℃の部屋で、木製のテーブルとスチール製のテーブルにそれぞれ手を当ててみるとよくわかる。木製はぬるく、スチール製は冷たい。しかし驚くことに、両者の温度はほぼ同じ25℃を示す。つまり、数値だけでははかれない“体感”が快適さを表す上で重要であるにもかかわらず、現代社会はこの体感部分を完全に切り捨ててしまっているのである。
そんなパラダイムにも、近年、変化が表れているという。千葉県流山市でのプロジェクトがその例だ。宅地開発に緑の効果を加えて快適な街づくりを推進しようというもので、企業、行政、甲斐さんが事務局長を務めるグリーンチェーン推進ネットワークが連携して取り組んできた。お互いの敷地を緑でつなげることで、涼を呼ぶだけでなく家としての付加価値をも上げることに成功した例である。

細胞レベルの欲求に素直になる

流山市のプロジェクトをきっかけに設立されたグリーンチェーン推進ネットワークでは、インターネットを通じて自宅での緑を使った取り組みを報告し合う参加型サイト『緑の楽園都市moni』もスタートさせた。参加者が取り組みを報告すると、サイトに描かれた街並みに少しずつ緑が増えていく仕組みだ。住宅メーカーなども協賛に名を連ね、参加者の取り組みを見守っている。
「一般の人たちの取り組みと、企業の取り組みが、より大きな相乗効果を生み出す」と、甲斐さん。グリーンチェーン推進ネットワークの会員にも、建築士やハウスメーカー職員、リフォーム会社職員など住宅にたずさわる人たちが増えている。同ネットワークが開く体感講座に参加者する人々のまなざしもまた、真剣そのものだ。
「会員の方たちは企業体の中の“個”でしかありませんが、企業にそういう考え方の人が増えていくことに期待しています。便利さを追求して完全に個が孤立してしまった今、そのことに不自然さを覚えたDNAが動き出したのでしょう。みんなもっと、細胞がワクワクするような貪欲さに忠実になればいいんだろうと思います。他人へのつながりも、価値を変えてしまうくらいの貪欲さを持つと、絶対にその街は良くなります」と、力をこめる。

“つながる”ことが大きな価値を生む

「豊かに暮らしたいのなら不便を我慢して田舎に、便利さを求めるなら豊かさをあきらめて都心に…それしか選択肢がないというのは違うと思っています。両方ほしいのにあきらめるのは悔しいですから」
そう言って、不可能と思われるようなことにも貪欲に取り組み、解決してきた甲斐さん。
たしかに、映画やアニメなどでよく描かれる、高層ビルや機械で制御された近未来の都市像ではあまりにも寂しすぎる。
「要は、つながりを価値にするということです。私たちは今、便利さを求めたのになぜ幸福になれないのか、という矛盾した世界にいます。便利さと豊かさのハイブリッドこそが本当の贅沢。私たちがこれまで経験したことのない新しい価値が、つながることの先には必ずあります」
脱自然でも、昔への回帰でもない、便利さを手に入れながらも豊かで快適な暮らしを求めようとする甲斐さんの取り組みは、私たちの進むべき方向をあらためて考えさせてくれるものだった。

( 取材:中島 まゆみ 写真:黒須 一彦

バックナンバー

PROFILE:

甲斐 徹郎( かい てつろう)さん

1959年東京都生まれ。千葉大学文学部行動科学科(社会学専攻)卒業。マーケティング専門会社にて建材や住宅を中心に、市場調査、事業戦略立案、店舗開発、商品開発、セールスプロモーションなど、幅広くマーケティング実務を担当。1995年、「環境共生」を専門分野とした「住まいづくり」および「街づくり」のマーケティング・コンサルタント会社として「チームネット」を設立。環境共生型コーポラティブ住宅「経堂の杜」(2000年3月竣工)、「欅ハウス」(2003年9月竣工)、「風の杜」(2006年9月竣工)の企画・コーディネイトなど、「環境共生」を専門分野としたマーケティング・コンサルタント業務に従事。1996年からは「エコロジー住宅市民学校」を開校し、一般市民を対象に環境共生手法の普及啓発活動を続け、個人住宅における環境共生の実現にも力を注ぐ一方、2002年に環境共生型分譲マンション「ザ・ステイツ平和台」の実現に関与し、企業とのタイアップによる環境共生事業の可能性を追求。マーケティングの視点から、「環境共生」を企業にとっての事業戦略として提案し、市場を通じて「環境共生住宅」を普及させることに尽力している。住まいづくりに留まらず、「個」と「個」の関係性を連鎖させることによる、緑豊かな街づくりの実現に向け、「グリーンチェーン推進ネットワーク」の事務局長を務める。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科非常勤講師、都留文科大学地域社会論講師。著書に『自分のためのエコロジー』(筑摩書房)などがある。