eco people file:045

キモノが奏でるハーモニー

ラジオDJ/ナレーター 守乃ブナさんにお話を伺いました。

かつて「鈴木万由香」という名前で守乃ブナさんがDJをしていた頃、B’zと出演するラジオ番組の収録に立合わせて頂いた事がある。たくさんの機械に囲まれたFM局のスタジオで、和服姿にヘッドホンを着け番組を盛上げていく光景が印象的だった。もちろんその出で立ちは日本を代表するロックスターの2人をも魅了し、彼らからベタ褒めされていた。

同じように多くの人が着物姿をどこかで目にすれば、“あ、いいな!”と思うはずだ。お正月、成人式、結婚式…。街なかですれ違うだけで思わず目を奪われてしまう。なのに自分で着ようと思うかというと、また別問題だ。そんな我が身を恥じながら投げかけた質問に守乃さんは優しい眼差しで答えてくれた。
「値段の問題もあるけれど、人間は慣れているものに寄って行く習性がありますよね。出掛ける時、ジーンズ履いてTシャツ着て飛び出せば5分もかからない。でもこの着物だって慣れれば10分で着られちゃうんですよ。」
この“5分の差”を大きいと感じるか感じないか…である。現代人にとっては感じないくらいの方が、実はいいのかもしれない。
「ムダがない生活を求め過ぎなのかもしれませんね。服にもスローがあってもいいんじゃないかなって思うんです。」
スロー・ファッションとでも呼べばいいのだろうか。その5分を惜しむ事をやめて着物を着る機会を持つようになると、生活はこう変化してくるらしい。例えば、アイロンのかかっていないハンカチ、バサバサの髪の毛…そんなのが合わないことに気がつく。そうして身なりを整えていく結果、「毎日を丁寧に過ごしたいと思う」ようになるのだと。
「それに和服を着ると、自分がぶれなくなるんです。疲れが溜まって姿勢が悪くなると、その“ズレ”がまず着物を崩してしまう。それに着物は中心線がハッキリ出る服…左右の襟を合わせた位置や帯締の結び目などポイントが真ん中に揃うものだし、背中側も縫い目が真ん中にくるように着る。だから姿勢を真っ直ぐに…となると、気持ちを真っ直ぐに持つ事が自然と必要になってくるんですね。」

そんな守乃さんも、着付け講師や着物カウンセリング/スタイリング・アドバイザーといった着物に関する活動を始めたのはここ数年のことである。それまでには「着物なんて古くさい、鬱陶しい」と毛嫌いした学生時代もあったそうだ。しかし、そもそも子供時代は祖父母に育てられたため「着物がそばにある生活が当たり前だった」。そんな女の子がやがて、どんなお婆さんになりたいかを考える大人になった時「自分のお婆さんのような着物が似合う女性に…」という想いから今の道が開け始めた。
「最初は30年計画のつもりでゆっくりやるはずだったのが、アッという間にのめり込んじゃって…。例えば着物には色々な生地がある。で、どこの産地の生地にはどういう特徴があるなんて事を知ると、今度はその土地の地理や歴史も知りたくなる。そういうのってお酒とか音楽とかでも一緒じゃないですか。ロックが好きだ〜って追究していくうちにアメリカを通り越してアフリカまで行っちゃう…みたいな。」
そして今や、時には和服姿でスタジオに現れる「DJ・守乃ブナ」や「ナレーター・守乃ブナ」がいるのである。
「家にお爺ちゃん・お婆ちゃんの着物がある…という人は、まずそれを出してみるだけで着物への第一歩が始まるはず。無いという人は一度呉服屋さんに行ってみて下さい。いい呉服屋さんほど実は敷居が低いんです。着物が初めてというお客さんこそ大事にしてくれますから。」


045morino_icon.jpg
新年を迎えて「和」の良さを再認識する季節でもある。そして「和の暮らし」こそがエコロジーだと言われるようになって久しい。でも守乃さんは「着物=和とは考えていない」と言う。
「“和”っていうと“The日本”みたいに考えられがちだけど、“和”は世界のものだと思っています。同じ“わ”の音を持つ他の文字を考えてみると、環・輪・話…など周囲にある物や人と繋がっていく言葉が出て来ますよね。よい“環”境の中で私達は“輪”を作って交流が生まれ、そこで色々な“話”が語られて“和”を創り出す…そんな事全てを想像していくと、“和”って“ハーモニー”だと思うんです。たまたまそういう事に敏感だった民族の一つが日本人だったというだけで…」
「自分がそこに組合せを見つければ、それが何であれ“和”が生まれる」という守乃さんの言葉に、ちょっと自信を貰った気がする。まずは何でもいいから新しくやってみたいと思った事に一歩踏み出してみればいい。それが必ず自分自身とのハーモニーを生み、私達一人ひとりを和の暮らしに導いてくれる違いない。

( 取材:宮崎 伸勝 写真:織田紘

バックナンバー

プロフィール:

守乃 ブナ( もりのぶな)さん

本名・鈴木万由子。1966年神奈川県鎌倉市出身。
1989年「鈴木万由香(すずきまゆこ)」の名でラジオDJとしてのキャリアをスタート。以後、全国のFM局にて数多くの番組を担当。2002年(財)民族衣装文化普及協会推薦京都きものコンサルタント協会・一級師範及び国際ライセンス取得。着付け講師及びキモノに関するカウンセリング&スタイリング・アドバイザーなど活動の場を拡げ、2007年「守乃ブナ」へ改名。