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普通の人の「生物多様性」

生物多様性って?


 最近、よく見聞きするようになってきた「生物多様性」という言葉。多様な生物の種の存在やそのつながりをあらわすものだが、この言葉や概念が世界的にも注目されはじめている。日本もつい先日、養老孟司さんなどをメンバーとする「地球いきもの応援団」を結成し生物多様性の重要性を一般に広く訴え始めた。
 ただ、「生物の多様性が大事」と言われても、実際どうすればいいかわからないというのが正直なところだ。地球温暖化問題ほどわかりやすくもなく、派手さもない。家庭レベルではもちろんのこと、企業の中にも戸惑いの声が多いと聞く。
 そこでEOLフォーカスでは、「普通の人の生物多様性」と題して、このテーマをさまざまな角度からチェック。生物多様性のもつ本当の意味を探っていきたいと思う。
 第1回目の今回は、生物多様性の現状について。まずは、多様性がどれほど失われつつあるのか、そしてなぜ「今」生物多様性なのかを考えてみよう。

生き物であふれている地球。でも......

 あらためて言うまでもないことだが、地球上にはたくさんの生物が存在する。現在確認されている生物種は約150万種。まだ知らない種はそれより圧倒的に多いと考えられていて、その数1000万とも3000万とも推測されている。膨大すぎて想像すらつかないが、いずれにしても、地球という1つの惑星にみんなでギュッと身を寄せ合って生きていることだけは確かなようだ。

IUCN(国際自然保護連合)のwebサイトIUCN(国際自然保護連合)のwebサイト。レッドリストについて調べる時はココへ。

 そんな多様な種の多くが絶滅の危機にある。それもかなり深刻だ。IUCN(国際自然保護連合)が発表した『レッドリスト2008』には、絶滅危機の象徴的な生き物としてクローズアップされることの多いホッキョクグマをはじめ、ゾウ、ゴリラ、トラ、カバ、パンダなど、子どものころから見知っている生き物たちの名がズラリ。調査の対象にしたのは約4万5千種で、そのうち約1万7千種に絶滅の危険性があるとしている。つまり3分の1以上が「クロ」ということだ。これは少々驚きの数字ではないだろうか?

 彼らを絶滅の危機に追いやっているのは人間だ。森林や干潟など生息地の破壊、有害物質やごみの不適正処理による汚染、乱獲、外来種、地球温暖化などが主な原因とされている。
 過去に地球では、大規模な火山活動やそれによる大気成分の変化、大きな隕石の衝突による気温低下などを原因に5回の大量絶滅が起きたことがわかっている。今回は6回目の大量絶滅の過程にある。過去の5回と比べて絶滅スピードは1000倍にもなると言われているのだ。

なぜ今? 注目される生き物の多様性

 ではなぜ、今になって生物多様性にスポットが当たっているのか。絶滅スピードがとてつもなく速いから? 人の手による絶滅で倫理的に好ましくないから? もちろんそれらも理由のひとつだが、重要な点は3つあると思っている。

 1つは、私たち人間のあり方自体が左右されるから、という理由。私たちの暮らしは、生物多様性とそれがもたらす自然の恵みによって成り立っている。野菜などの生産物や食品、家の柱などの住宅建材は言うに及ばず、本、衣類、抗がん剤のような直接生死を左右する医薬品にも今や生物資源は欠かせないものとなっている。生物多様性の崩壊によってその根底が崩れたら...? 今の暮らしが大きくかわってしまう可能性も秘めているのだ。

 2つ目は、生物そのものの利用がビジネスになるという理由だ。わかりやすいのはオワンクラゲの例だろう。オワンクラゲのもつ蛍光たんぱく質の発見・精製に成功した生物学者・下村脩氏が2008年にノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しい。だが、その研究結果が3000億円もの市場規模になっていることはあまり知られていない。生体内のたんぱく質の動きを観察するマーカーとして医療分野で活用されるなど、今や生化学には欠かせない物質となっている。

オワンクラゲオワンクラゲ(画像提供:鶴岡市立加茂水族館)

 生物多様性にスポットがあたっている3つ目の理由は、2010年に名古屋で開催予定の「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」の存在だ。
 実は国際的な取り組みは1992年に既に始まっていて、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで行われた「気候変動枠組条約」とともに「生物の多様性に関する条約」が採択されている。その際、「生物多様性の保全」「構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から発生する利益の公正な配分」の3つが掲げられた。その後、回を重ね、2002年にオランダのハーグで開催されたCOP6では「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という目標が加わった。
 注目を集める来年開催のCOP10。焦点のひとつは「枠組みづくり」といわれている。CO2排出権でもあるまいし、生物多様性のどんな枠組みを決めるのかと思えば、生物のもつゲノムなどの遺伝資源やそれにまつわる知的財産の利用分配のことを指すという。ヒトゲノムの解析こそアメリカに負けてしまったが、世界でも類を見ないほど生物が多様な日本は遺伝資源については長年の蓄積をもつトップランナー。こうした、知財がビジネスに化ける可能性をいち早く察知した企業や国が、にわかに生物多様性に注目し始めているのだ。

持続可能な社会を目指して

 私たちが日々の暮らしで恩恵を受け、経済を成り立たせている生物資源は、石油などの化石燃料と違って「持続可能」だ。ただ忘れてはいけないのは、破壊的に搾取するこれまでのやり方では、自然破壊や大量絶滅を引き起こしてきた過ちを繰り返してしまうということ。そうした視点も忘れずに、私たちの暮らしと生物多様性の関係について、第2回の連載からは具体的な事例を紹介していくつもりだ。

中島 まゆみ
なかじままゆみ

エコロジカルなライフスタイルの提案を中心に、
自然環境保全、循環型社会、環境教育、環境ビジネスなど
幅広い分野で取材・執筆活動を展開中。
「エコは、ムリせず、楽しく、スマートに!」がモットー。

http://www3.ocn.ne.jp/~mayu3/index.html
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