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普通の人の「生物多様性」

生物多様性のホットスポットでいま何が!? 私たちの暮らしと密接な関係にあるボルネオの森


画像提供:BCT-Japan

チョコレートはお好き?

みなさんは、チョコレートは好きだろうか? 筆者は好んでよく食べる。朝、起きたてに口に放り込むことも多く、濃厚な甘さとなめらかな舌触りが口の中に広がると、頭が次第に目覚めてくる...ような気がする。
そんなチョコレートが、太平洋に浮かぶ緑豊かな島々の姿を一変させてしまっているらしい。チョコレートの原料はもちろんカカオや糖分だが、チョコレートコーティングなどのなめらかな舌触りと光沢を実現させているのが「植物油脂」。なかでも近年急激に需要を拡大している「パーム油」の生産が、赤道直下に位置するボルネオ島の生き物の命を脅かしているというのだ。
いま、現地で何が起きているのか。ボルネオ保全トラスト・ジャパン(以下BCT-Japan)事務局長の森井真理子さんにお話を伺った。


「パーム油はとても重宝するオイルです。サクサクする食感を出したり、とろみを付けたりするのに欠かないうえ、安価というメリットも兼ね備えているため、チョコレートだけでなくマーガリンやカップ麺、カレールーなどのレトルト食品、スナック菓子、ドーナツ、コーヒー用ミルク、ひいては化粧品や洗剤などの日用品にまで実に幅広く使われています。私たちはもうパーム油なしの暮らしは難しいのではないかと思うほどです」(森井さん)

2008年時点、パーム油の生産量は年間4300万トン。植物油の生産量では大豆油を抜いて世界第1位だ。一方で、原料となるアブラヤシの栽培適地は赤道をはさんだ緯度10度以内という狭い地域に限られ、総生産量の約85%がインドネシアとマレーシアに集中している。当然のように、両国にまたがるボルネオ島でも開発が加速しているのだ。

ボルネオ島画像提供:BCT-Japan

ボルネオ島は、北部をマレーシアとブルネイ王国、南部をインドネシアが有する世界で3番目に大きな島だ。島の熱帯雨林は世界最古のジャングルのひとつともいわれ、北部のマレーシア・サラワク州には石灰棚が隆起してできたジャングル「グヌン・ムル」が広がる。地下に横たわる巨大洞窟群と水路は世界遺産にも指定されている貴重な場所だ。こうした地質学的にも希な構造と気候がボルネオ島に湿潤で肥沃な大地をもたらし、いまや多様な動植物を育む世界でも有数のホットスポットとなっている。

「アブラヤシのプランテーション拡大によって、1950年代にはサバ州の86%を覆っていた熱帯雨林が2005年には60%にまで減少しました。原生林はわずか5~10%しか残っていません。結果、絶滅危惧種のボルネオオランウータンや、ボルネオ固有種のテングザル、ボルネオ北東部にしか生息していないボルネオゾウ、その他多くの生き物が行き場を失い個体数が激減しています。熱帯雨林は地表の約7%にしか過ぎませんが、地球上の50~90%もの生物が生息するといわれ、生物多様性のもっとも豊かな場所なのです」(森井さん)

ボルネオゾウ画像提供:サラヤ株式会社

熱帯雨林はまた、炭素を効率よく固定させることもわかっている。そのため熱帯雨林の消失は、生物多様性を喪失させてしまうだけでなく、CO2の吸収鈍化によって地球温暖化を加速させ私たち人間にとっても大きなデメリットとなるのだ。

「緑の回廊」でボルネオの森を救え!

私たちの豊かで便利な暮らしの裏側で深刻な問題が起きている...では、私たちはパーム油の利用を減らすことができるのだろうか?

理想を言えばYesだが、世界経済のどん欲さを考えれば限りなくNoに近い。そのうえ今後は、中国やインドなど新興国の台頭でパーム油の需要は減るどころか増加の一途をたどるとみられている。また現地では、アブラヤシの栽培で生計を立てている人たちが数多くいることも事実。不買活動などによる極度な生産調整が起これば、いたずらに生活困窮者を増やすことになるだろう。多くの人がパーム油の恩恵にあずかりながら、ボルネオ島の森や生き物を守るにはどうすればいいのか...。

2006年10月、マレーシア・サバ州政府が免税団体として認可したボルネオ保全トラスト(BCT:本部はコタキナバル)では、プランテーション化によって生息地が分断化された野生動物のために、残された森と保護区を結ぶ土地を購入・寄付・返還などの形で確保して「ボルネオ緑の回廊」をつくる活動を行っている。※BCT-Japanはそのための募金活動を実施。現地での土地取得はBCTが実行する。

ボルネオ緑の回廊画像提供:BCT-Japan

「サバ州北東部を流れるキナバタンガン川周辺の土地を少しずつ購入し、今は3号地パールの森(20ha)を獲得すべく募金活動をしています。ここがつながると、LOT1(保護区)とパンギの森を野生動物たちは自由に行き来できるようになります。7月には、以前取得した1号地で、子ゾウを連れたゾウの群れが見られたんですよ。ただ、緑の回廊の目標総面積は2万haで、まだまだこれからです。2004年にオランウータンの頭数調査がありましたが、それ以降また減っているという報告もあり、時間がないことも実感しています。ここで緑の回廊が実現したら、生物多様性保全の実践例としてモデルケースになると思います」(森井さん)

いつもの買い物でできる保全
サラヤ株式会社「ヤシノミ洗剤」

詰め替えパック画像提供:サラヤ株式会社ボルネオを守る「ヤシノミ洗剤」シリーズ 詰め替えパック

BCTをサポートする企業として活発に活動しているのが、サラヤ株式会社だ。自社製品『ヤシノミ洗剤』の売上げの1%をBCTに送金するという活動を2007年から行っている。
サラヤの広報宣伝部部長で、BCT-Japan理事でもある代島裕世さんによれば、サラヤがボルネオ保全に関わり始めたきっかけは、2004年に放送されたある番組からの取材だったという。

「当社では1971年以来、植物油を原料にした『ヤシノミ洗剤』を販売しています。パーム油の使用量は製品全体のごくわずかですが、同じヤシ油ということで、『素敵な宇宙船地球号』という番組から、ボルネオ島で起きている野生動物の現状についてどう思っているのかと取材を受けたのです。現地から直接パーム油を買い付けていたわけではなく、何が起きているかを知らずにいたので驚きました。同時に、知ってしまった以上は行動を起こさずにはいられませんでした。そこで、サバ州野生生物局に資金協力してボルネオゾウの救出活動を行ったり、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」という国際会議で提言したりするうちに、生物多様性保全の本格的な試みが必要だと感じてBCTの設立に携わったという経緯があるのです」(代島さん)

現地の状況を知り、「生物多様性を守ることも企業の役割」と考えたサラヤ。そんな想いを担った『ヤシノミ洗剤』は、1%キャンペーンを始めてから大きくではないが確実に売上げも伸びていると代島さんは言う。

「お客様が私たちの活動を理解してくださっている証しだと思っています。また個人のお客様以外にも、活動に賛同・協力してくださる企業が増えています。全国展開している料理教室『ABC Cooking Studio』さんとのコラボでは、スタジオで使う洗剤に『ヤシノミ洗剤』を採用していただいています。スタジオの生徒さんたちに、パーム油の問題をキッチンから考えてもらうことを目的にしていますが、好評のようです」

ヤシノミ洗剤ABCボトル画像提供:ABC Cooking Studio
「ヤシノミ洗剤ABCボトル」

洗剤を含め、暮らしに欠かせない生活用品はいわば消耗品でもある。価格や品質に大きな違いがないのであれば、「いつもの商品」から「より環境負荷の少ない商品」「積極的に環境保全できる商品」にシフトすることは消費者にとって難しいことではない。むしろ、物があふれている現代だからこそ、選択基準のひとつとなり歓迎すべきものといえるだろう。

保全や博愛を身につける
ハンティング ワールド ジャパン「チャリティーグッズ」

「ボルネオ緑の回廊」に協力している企業をもうひとつ紹介しよう。牙のない仔ゾウがブランドモチーフのハンティング・ワールドだ。
ハンティング ワールド ジャパン株式会社PRの井上大輔さんによれば、「社名から単純な野生動物の狩猟などと誤解されることもあるが、実はその根底に、野生動物や環境の保護という考え方が根強くながれている」のだという。

創設者のロバート・M・リー(通称ボブ・リー)は、建築家、冒険家、探検家、作家、環境保護主義者など多彩な顔をもち、アフリカ旅行で得た経験から「フィールドで強いバッグをつくろう」と1965年に同社を設立。また、アフリカ奥地で大型動物が密漁のために殺害されている事実を世界に知らしめ、密猟者たちをガイドとして雇うことで野生動物を保護・管理する仕組みを構築した人物でもある。こうした精神は、彼が一線から退いた今でもハンティング・ワールドの社是としてしっかり根付いているようだ。

「BCTへの支援は、現BCT事業執行責任者の坪内さんやサラヤさんより、ボルネオの実情や緑の回廊計画をご案内いただいたのがきっかけです。ゾウをシンボルマークに掲げるブランドとして"自然との共生"という使命を大切にしつつ、当社製品を支持してくださるお客様と一緒に活動できる取り組みとして2008年2月よりチャリティーバッグとTシャツの販売をスタート。売上げの1%をBCTへサポートしています」(井上さん)

ボルネオチャリティーバッグ画像提供:ハンティング ワールド ジャパン「ボルネオチャリティーバッグ」

とはいえ、同社の製品は消耗していく生活用品とは違い高価なブランド品だ。そこにチャリティー要素を付加することが市場でどの程度受け入れられるかは未知数。加えてこの活動は、ハンティング・ワールド全体でスタートしたものではなく、日本を起点にスタートしたプロジェクトという驚くべき経緯もある。ボランティアや博愛の精神が欧米ほど定着していないといわれる日本で支持を得られるのか、手探りでのスタートだったというが、結果はいかに...。

「はじめてみたら予想を上回る反響で、予定していた販売数は即完売。広報活動は一切なし、店頭とクチコミだけの販売だったので、驚きました。その後は販売数も増やして、新作発表のある春と秋の年2回、新作を発表し続けています。今秋は9月に第4弾を発売する予定です。活動も今では世界各国のハンティング・ワールドへと広がり、全社をあげてBCTを応援するまでになりました」(井上さん)

チャリティーグッズの反響に確かな手応えを感じている井上さん。今春、自身もボルネオ島に渡り、現地の様子をその目で確かめてきたという。延々と広がるアブラヤシ・プランテーションを目の当たりにした衝撃や、そのすぐそばで、普段なかなか出会うことのできないオランウータンやボルネオゾウに遭遇した貴重な体験によって、活動の重要性をより強く実感したようだ。

私たちの暮らしと密接な関係にあるボルネオの森画像提供:BCT-Japan

ハンティング・ワールドもサラヤも、活動による直接的な金銭メリットは決して大きいとはいえない。一部では、企業利益のいくらかを直接活動に寄付すればいいという意見もある。しかし、それではあまりにも短絡的だ。商品をつくるメーカーと、それを使う消費者の両者がきちんと問題を知り、共に解決のためのアクションを起こしていくことにこそ意義がある。消費者にとっては商品の選択肢を広げるきっかけになり、企業にとってはイメージアップによる企業価値の向上が期待できる。そして、このループが大きく広がっていくことが、経済活動を維持しながら生物多様性を保全していくという難題解決にとって何より大切なのだと感じた。

次回予告
普通の人の「生物多様性」vol.3は、9月第2週更新予定

中島 まゆみ
なかじままゆみ

エコロジカルなライフスタイルの提案を中心に、
自然環境保全、循環型社会、環境教育、環境ビジネスなど
幅広い分野で取材・執筆活動を展開中。
「エコは、ムリせず、楽しく、スマートに!」がモットー。

http://www3.ocn.ne.jp/~mayu3/index.html
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