生物多様性ホットスポットで繰り広げられるコーヒーと環境破壊の根深いしがらみを断とう!
文:中島 まゆみ

生き物のホットスポット......赤道を挟んだ南北緯25度、陸地部分のたった2.3%にしか過ぎない非常に狭い場所に、地球上の生き物の約75%というとんでもない数の生き物が生息している。昆虫に至っては、命名はおろか、まだ発見すらされていない種が相当数眠っているとかいないとか。いってみれば、生き物の大都会だ。
このホットスポットとピッタリ重なる地域で生産されているのが、私たちの大好きな嗜好品、コーヒー。今回は、このコーヒーと生物多様性について考えてみたい。
石油に継ぐ巨大なコーヒー産業は、大規模な環境破壊を引き起こしている
たまに「コーヒーが飲めない」という方に出会うが、多くの人にとってコーヒーは、今やなくてはならない飲み物になりつつある。それもそのはず、いつの間にか一次産業では石油に継ぐ巨大産業として経済界に君臨するようになり、日本においては世界で3番目の輸入量をほこる規模にまで成長しているのだ。一人当たり年間338杯、ほぼ1日1杯は口にしている計算だ。かくいう私も大のコーヒー好きで、1日1杯といわず4~5杯飲んで数値を押し上げている一人でもある。
コーヒーはホットスポットでのみ栽培され、その99.99%が発展途上国で生産されるという特徴をもつ。しかし、消費しているのはほぼ先進国だ。買い付けにあたっては日々、株価のように豆の国際相場が変動し、自然環境や生物の多様性を蝕み続けているという、消費者があまり知らない現実がある。カラクリはこうだ。
コーヒー相場の変動により、あるとき高値がついたとする。もしくは、霜害などでコーヒーの木が壊滅的な被害を受けたとする。農家は儲けを期待し、あるいは負債を取り戻すため、森林を伐採して農地を増やす。すると当然収穫量は増え、市場価格は暴落する。
ここまでは一般的な農作物の市場原理と変わりはないが、違う点は、農家がもともと貧困に苦しむ状態で暴落に絶えうる体力がないこと、そして、彼らを救済するセーフティーネットが存在しないことだ。
暴落でさらなる貧困を強いられた農家は、開拓した農地を手放す。土地を買い取った銀行や企業は、手っ取り早く管理できる牧場や宅地へと転用する。こうして森林は次々と壊され、今やホットスポットの実に70%にあたる原生生態系が破壊されてしまったというデータもあるほどだ。
かろうじてコーヒー農地として維持できた場所でも、問題がないとはいえない。コーヒーの木はもともと日陰で育つ性質を持ち、熱帯地域の中でも標高の高い寒冷地で生産された豆ほど品質が高いとされている。よって、コーヒー農地は山間地に多い。そこでコーヒーの木を単一的に栽培すれば、地滑りなどの災害のほか、森林の保水性も落ちて飲料水の減少や水質悪化などの問題が発生する。また、こうした栽培では年を追うごとに土地も痩せ、豆の収穫量・品質が低下するという悪循環に陥ってしまう。
私たちが日々楽しんでいるコーヒーの裏側には、貧困と環境破壊の根深い問題が巣くっているのである。

メインストリームへの浸透なるか!? コーヒー認証制度
これは生産国だけの問題なのだろうか? おいしいコーヒーを飲み続けながら自然環境も守りたいというのは、虫のいい話なのだろうか?
有効な手段のひとつに認証制度がある。「何かというと認証......」と手駒が少々貧弱な気もするが、消費者と生産者が遠く離れて問題が見えづらい関係において、現段階では認証制度が最も有効に働く手段といえるだろう。
コーヒー認証にはいくつかあり、必ずしも環境配慮だけを主眼においたものではないが、ほとんどが「環境」「経済」「社会」の3つの柱を立てている。生産者の生活や地域社会の質を向上させつつ自然環境を破壊から守るという、包括的な取り組みだ。代表的な認証機関では、日本サステイナブルコーヒー協会、レインフォレスト・アライアンス、フェアトレード・ラベル・ジャパン、Good Inside、コンサベーション・インターナショナルなどが知られている。
カエルがトレードマークのレインフォラスト・アライアンスは、コーヒーのほか紅茶やバナナの認証も実施しており、生態系保全、野生生物保護、水域保全、土壌管理および保全などの環境的配慮を行いながら、労働者待遇の改善や地域共同体の健全化、労働者への農園計画指導、廃棄物の組織的管理など、地域の社会的・経済的な配慮も同時に進めている。つまり、国際相場の変動を気にせず栽培に打ち込めるほか、土壌が肥える栽培方法で品質向上と収穫量アップを実現し、家族や地域の生活環境の改善も得られるというわけだ。消費者に対しては、若干価格は高くなるものの、トレーサビリティーの確保や長期的に安全で安定した商品の供給をメリットとして提示。実際、コロンビアで認証制度を導入した農園では生産性が20%も向上し、マクドナルドやリプトンなど大手企業や小売店が商品を購入するなど確実にマーケットも拡大しているという。
フェアトレードで一躍知られるようになったフェアトレード・ラベル・ジャパンでも、「貿易の仕組みを見直して貧困解消を目指す」という目的のもと、コーヒー他全18品目を認証対象産品とし、前年比約22%増の割合で市場拡大に向かっているという。イオンや無印良品、タリーズコーヒー、スターバックスコーヒーなどの大手企業で商品として扱うほか、NTTコミュニケーションズ、大日本印刷など職場で社員が飲むコーヒーに採用するなどの動きも少しずつ出てきているのだそうだ。
たしかに、気をつけて見てみると、認証マークのついたコーヒーに出会う機会も増えたように思う。ただ残念なことに、認証商品の認識や流通が進む欧米に比べ、日本での普及はそれでもまだ低迷しているのだという。先進国の中では最下位、もしくはそれに近い成績だとも聞く。日本のメインストリームに浸透する日は来るのだろうか?
いずれにしても、一消費者としてコーヒーを購入する際、いつものコーヒーの隣にある「環境や生産者に配慮したコーヒー」を選ぶことは、それほど難しいことではないはずだ。最後まで読んでくれたアナタ。知ってしまったからには、どちらのコーヒーを選ぶかもう決まったようなものだろう。遠い異国の地に想いをはせながら、ぜひとも、名実共においしいコーヒーを楽しんでもらいたい。
なかじままゆみ
エコロジカルなライフスタイルの提案を中心に、
自然環境保全、循環型社会、環境教育、環境ビジネスなど
幅広い分野で取材・執筆活動を展開中。
「エコは、ムリせず、楽しく、スマートに!」がモットー。
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