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森は再生するか

「共有の森ファンド」から見えてくる森林事業の可能性


西粟倉村のブナの木

森林事業のための初めてのファンド

 日本の森林が林業の衰退で危機に瀕していると知っても、私たちの暮らしの中で、ほとんど循環しなくなってしまった日本の森林資源に関心をもつことは難しい。一人ひとりが、もっと具体的に関われるものがあれば...と思っていたところに、「共有の森ファンド」という仕組みが生まれたことを知った。
 「共有の森ファンド」は、今年の4月から始まった日本初の森林・林業支援の事業ファンドだ。いままで日本にあった「森林ファンド」は、調達資金をもとに森林(土地)や林業関連の株式などに投資して、投資家が木材販売などの利益を配当として受け取るという、どちらかというと資産運用を目的とする投資家を対象としたものだった。
 一方、「共有の森ファンド」は、森林保全と林業支援を明確な目的としているので、投資家はもちろんだが、環境や森林保全に資金的なアクションを起こしたいと思っている人にとって興味深い取り組みになっている。
 出資金は1口5万円から(上限は10口50万円)。高性能林業機械の購入費用やFSC森林認証費用など、森林の付加価値化につながる費用などに使われ、配当には、対象となる森林から生産された木材の販売売上や、高性能林業機械のレンタル収入の一定割合が充てられる。運用期間は10年。年1回、計11回の分配を行う予定だ。

 今回、このファンドの対象となっているのは、岡山県にある西粟倉村の森林。同村は、人口約1600人、森林面積1500ヘクタール、面積の90%以上が森林という、かつては林業を生業としてきた村だ。
「共有の森ファンド」を設立したのは、株式会社トビムシ(以下、トビムシ)。このちょっと変わった名前の会社の代表、竹本吉輝さんに話を伺った。

「日本の森林は、いま、植林から40〜50年経ったところで、その多くが放置されている状態にあります。このままでは、森が荒れて、せっかくの資源が消えていきます。森林事業にも長期的な経営の視点に基づく投資が必要ですが、森林を抱える地域にそうした資金はありません。なので、私たちは、客観的に事実を整理してアドバイスするという、いわゆるコンサルティングではなく、主体的に自らもリスクをとって、地域と一緒に森林の再生をやりたいと考えました。そして、こうした森林の現状を都市の人にも広く知ってもらい、少しでも多くの人が村に関わり、応援してもらえるよう、リスクを負いながらも収益性も重視するファンドという仕組みをつくったのです」

責任とリスクの分担

eolfocus20091201_ringyougenba.JPG西粟倉村の森づくりの施業を行うのは、岡山県北東部の美作市、勝央町、西粟倉村を管内とする美作森林組合

 トビムシは、アミタ株式会社(以下、アミタ)の子会社として、2月に設立された。アミタは環境ビジネスで30年以上の実績をもつ会社で、持続可能社会を目指して事業領域を広げ、資源リサイクル、地域再生、第一次産業の再興、FSC(*2)森林認証サービスなどを行ってきた会社だ。

「西粟倉村との出会いは、アミタの事業のなかで、地域再生マネージャー(*1)という、民間の視点で地域再生を支援する事業と、FSC森林認証の審査で関わらせていただいてからです。西粟倉村に関わってきた社員は、村への愛情もありますし、村の森林への想いも知っていたので、こういった取り組みに意欲を示していただけると確信していました。社員6名のうち3名が現地へ行き、村の人たちと信頼関係を築いてきたというのも大きかったと思います。成功している林業経営者にも協力を得て、実際の森林の施業についても専門家の体制を整えました」

 西粟倉村の森林は、作業道もあり、間伐もされて、丁寧に手入れがなされてきたという。森の物質的価値も経済的価値も、そして、人材も他の地域に比べて恵まれた場所であったのに、林業の衰退で、やはり森は放置されつつあった。

「それでも、村長の道上正寿さんは、"林業でやっていくという覚悟"を持っていました。この村長との出会いも大きかったですね。"この森をほかしたらあかん"と、捨ててはいけないと、村長自らが村内の各集落をまわり、森林所有者一人ひとりに説明していったんです」

 西粟倉村も、日本全国の森林がそうであるように、山主が小口で森林を持っている。ファンド設立にあたっては、まず、それらを集約することから始めなければならなかった。事業を説明する役場の責任は大きい。
 森林所有者は自らの財産である森林の管理と、材木を販売する権利を役場に委託する。自分たちで森林を管理するコストがかからない代わりに、利益の半分は村に還元する。そこまでの折衝を役場が行い、実際の施業管理は森林組合が行う。
 一方、トビムシは投資家を募り、預かったお金で高性能林業機械を購入する。それを森林組合にリースし、計画的な施業管理を支援する。また、木材市場に卸すことがほとんどだった材木販売を製材会社などへ直販して付加価値を付け、顧客創りを支援する。
 投資金額には上限を設けることで、投資家にも少しずつリスクを分担して負ってもらう。
 だからこそ、森林保全に関心を持つ投資家を集めるためのファンドでなくてはならない。そこで、トビムシは、すでに小口の事業ファンドを手がけるミュージックセキュリティーズ株式会社と組んだのだ。

"未来に残したい"を支援する仕組み

 ミュージックセキュリティーズ株式会社は、レコード会社や芸能プロダクションに迎合せずに、ファンがミュージシャンに投資して支えるファンドをつくったことで知られる。このように、"アーティストをファンが支える"という仕組みを使って、ほかにも、料理家を支えるレストランファンドや、杜氏を支える純米酒ファンドを成功させた。現在は、事業を生み出す小額投資のファンドのプラットホームをつくり、「揺るぎない哲学と一流の技術・経験値を持つ事業者と個人投資家とをつなぐ、新しい資本市場」を提案している。

「ミュージックセキュリティーズが運営するファンドのプラットホーム『セキュリテ』を通じて投資する人たちは、お金がお金を生み出す"利回り"よりは、むしろ、自分が応援したいもの、好きなものに投資することに価値を見出している人が多い。ミュージックセキュリティーズは"未来に残したいもの"への投資を小口のファンドにしているんです。そこにとても共感して、取締役の猪尾愛隆さんと出会って、その場で、この『共有の森ファンド』の立ち上げについて合意を得ました」

 それが昨年12月のことだった。今年の2月にはトビムシを設立し、4月から「共有の森ファンド」の募集を開始するというスピード展開。現在、約200人の投資家を集めている。
 みんなが、それぞれ責任やリスクを負うことで、10年間という長期経営の視点が生まれ始めている。そして、関わる人すべてが目指すのは、自分たちの子や孫たちに、美しい森を残すということ。

過疎地域の先進的なモデルとして

eolfocus20091201_mokkkunkoubou.JPG西和倉村を拠点として活動する「木の里工房 木薫(もっくん)」。木材産出地で木材製品を作っていくことで地域雇用も創出される

 森林の価値を高めるために、森林資源を社会のなかで循環させる具体的な試みも始まっている。トビムシが展開しようとしている間伐材利用事業は住宅用の柱材だけではない。エネルギーとして使うためのチップ・ペレット化、紙にするマテリアル、合板加工の建築材等、多岐にわたっており、それぞれを、大企業や財源的余裕のある自治体等が支援する。
「販売チャネルの開拓は、日本の森の状態に合わせてやっていく必要があります。一定期間以上放置されてきた森は、一旦、強度間伐をしていかなくてはならないのですが、そこから出て来る材は細く、柱材には不向きなものが多くなります。それを補助金が出る範囲で伐って山に捨てておくのではなく、使っていかなくてはいけない。しかも、大量に出るわけですから、相当量を使わなくてはいけません。木の家をつくると言っても、柱になるような木はほとんど出てきませんから、いま出る材をどう使うかということ考えています。森林管理を頑張ると、そこから出た木を使ってもらえる。サポートされるから頑張るというのではなく、頑張っているからみんながサポートしてもらえるというのを可視化していきたい。5年くらいで間伐が一巡できれば、徐々にいい森ができてくるので、そこから出てくる材もいいものになってくる。その頃までに、木そのものの市場価値、森や木と共にある暮らしに対する世の中の価値観を5年、10年かけて丁寧に高めていきたいと考えています」

 森林の価値が高まれば、投資家への分配も多くなる。森林の再生に村の未来をかけた西粟倉村が、「共有の森ファンド」によって、森林資源を循環させる先進的な事業モデルとなっていきそうだ。


(*1)地域再生マネージャー事業・・・財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)による事業。市町村の地域再生を目的として、ふるさと財団が市町村に提供した具体的・実務的ノウハウ等を持つ企業や人材の情報の中から、市町村が「地域再生マネージャー」を選定。地域再生に係る業務を委託する経費の一部をふるさと財団が助成する。

(*2)FSC(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)森林認証・・・適切に管理された木材を育む森林と、その森林から切り出された木材を使って生産・加工を行なっていることを認証する制度の一つ。

温野 まき
おんの まき

1991年から旅行ガイドブックのライター、情報誌、女性誌、料理専門誌、企業のSPコピー、教育書籍などの編集とライターを経て、2009年からエコロジーオンライン、おひさまスタイルの編集長。環境分野の中でも特に興味のあるテーマは森林の保全と資源利用。趣味は風水研究。

http://www.hanulu.com

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