08/5/05

自然エネルギー界、日本の現状!

2月24日(日)
フライブルク市の近郊にシュタウフェンという街があります。
その街である悲劇が発生しました。
環境のためを考慮して古い街並みの中心部にある市役所では、
市役所改装の際に地熱を利用した熱供給を行おうとしたのですが、
ボーリングを行った際に地盤変動を誘発してしまったのです。
そのため、市役所や近隣の住宅地の壁面には亀裂が入り、
それは日に日に大きくなっています。
現在は、誰がこの責任を取るのか?、市役所なのか?、施行業者なのか?、
それとも市役所から調査を委託されたコンサルなのか?、
どうかで、泥仕合の様相となっています。

と、ここまで読まれた方の頭には、
つくば市の学校校舎に設置された小型風車の事件が想い起こされているのではないでしょうか? 
こうした自然エネルギーを巡る事件について、私なりの考えをここではお話したいと思います。

まず、つくば市や日本各地で発生している
風車の想定よりも極端に少ない量しか発電しないというケースについてですが、
プロがプロの仕事をしなかった結果だと一口で説明できるでしょう。
日本では、後述する事情から小型の風力発電(マイクロ風車)が、
あたかも自然エネルギーの一角を占めるような報道、
そして企業の発表などが相次いでいますが、
ドイツをはじめとする欧州ではマイクロ風車はナンセンスとしか扱われていません。
理由は、いかなる形状であっても通常のメガワット出力仕様の風車より
格段に発電効率が悪く、
民家の近くに設置することを前提としていることから騒音や景観の問題があり、
投資コスト対発電効果では全く話にならないからです。


日本における特殊な事情とは、大型の風車を建設した場合に、
そこからの電力を電力事業者が購入しなければならない義務が法律化されていない事を指します。
ドイツをはじめとする世界中の主要な国のほとんどは、
「フェードインタリフ」と呼ばれる法律で、
最低購入価格の定められた購入義務が電力事業者に課されています。
したがって、風力を建設するときには販売先のことを苦慮する必要がなく、
ましてや風力電力の自給自足などは考慮しなくてもよいのです。

しかし、日本はRPS法というほとんど意味のない、
というか逆に自然エネルギーの促進を妨げる法律が施行されていますから、
風車を建設したくとも電力事業者がその電力を思うように購入してくれません。
そこで、電力の自家消費が期待できる効率の悪いマイクロ風車の登場というわけです。

もちろん、離れ小島であるとか、山の頂上や山奥であるとか、
電力のインフラがない第三世界といったところでは、
こうしたマイクロ風力は非常に有効ですが、
つくば市という都市のど真ん中に、
しかも風が吹き続けるはずもない学校の屋上に風車を建設するというのであれば、
目的は発電ではなく、啓蒙活動のためだけでなければなりません。
ですから風力発電や自然エネルギーの仕組みを子供たちに教えるために
風車は簡単な仕組みのもので、
一基あれば充分だったわけです。

そもそものその前提をチェックしなかった自治体、
そのために一旦は補助金を許可した環境省、
そしてそれを計画した大学教授と施工した企業、
すべてがプロとしての仕事をしなかったと言いきることができるでしょう。

こうした愚かな事象と、日本各地でこれまた最近発生している風車の故障、
とりわけ羽の破壊などは、それぞれのケースを考慮して区別しなければなりません。
日本は通常それほど風が強くなく、吹くとなったら勢いが強い、
風向きも頻繁に変わるというユニークな特性を持っているケースが多いので、
それに充分対応できるノウハウや技術力がまだ蓄積されていない場合が多いからです。

ドイツでも八〇年代にはこうした問題は各地で発生していますし、
予測よりも発電できず採算割れした風車も数多くあります。
ただし、そうしたノウハウや経験、技術力は一〇年程度を目安に解消されるはずです。


例えばドイツでは当初、風向きが一定で、
風力も安定している北海・バルト海沿岸部で最初に風車がブームになりましたが、
そうした風車が風向きが安定しない山間部で活躍できるようになるまでには
約一〇年の歳月がかかりました。
また、現在進行中の海の上のオフショア風力への技術とノウハウの集積にも
一〇年程度かかっています。

つまり、もしプロがプロの仕事をしているのであれば、
日本の現在は貧弱で危なっかしいようにも思える風力発電事情でも一〇年後には、
問題があまり発生しない状況に落ち着いていることでしょう。
もちろん、中には風向測定や予測の段階で、
あるいは機種の選定や設置・施工の段階でプロの仕事をしていない人びと、組織、
企業はあるはずですが、そうしたものは自然と淘汰されてゆくはずです。

ここで表現したように「一〇年のノウハウ蓄積期間」というのは、
単に私の感覚で書いているわけですが、
当たらずとも遠からずと言えるのではないでしょうか。
なぜなら、ドイツのPVでも、ソーラー温水器でも問題なく普及するのには、
およそそれぐらいの期間がかかっていますし、
風力でも、そして高断熱・高気密住宅の場合でもそれぐらいかかっているからです。

少し住宅の話をしますと、
ドイツで省エネの必要性から高気密・高断熱という工法が普及しはじめたのは
八〇年代の終わりから九〇年代のはじめです。
九〇年代後半までは、
省エネ住宅や省エネリフォームの件数が増える毎に、
確かに新聞などのメディアでも結露やカビなどの問題が連日取り上げられていたのを
良く記憶しています。
しかし、二〇〇〇年を超えたあたりから、
そうした報道はピタッと少なくなっています。
つまり、こうした省エネ住宅を提供しているハウスメーカーや建築家、
施行業者にノウハウが蓄積されたからです。
日本では、現在であっても結露の問題や、
数多くの工法が乱立している状況なので、
あと数年はこの戦国時代の期間を我慢しなければならないでしょうが、
それを超えると、こうした騒動はピタッと収まり、
高断熱・高気密のネガティブなところは解消されるのではないかと想像します。


さて、話は冒頭に戻って地熱利用についてです。
昨年には、フライブルク市近くのスイス・バーゼル市で
地熱発電(HDR法による)のためのボーリングが開始されましたが、
ボーリング途中で震度3~4の地震(!)が何度も引き起こされ、
この工事はストップしています。
そして、今年の2月になってシュタウフェンという街の報道が入りました。
まだまだ地熱発電や地熱利用については、
技術力やノウハウが蓄積されていないことを証明しています。
でも、これを乗り超えるためにもパイオニアと言われる人びとが、
さらなる地熱利用を推進しないと技術やノウハウは一定レベルに達しません。

シュタウフェン街は、自然エネルギーのパイオニアだったわけですが、
それを決断した市長にも市議会にも残念な結果が発生してしまいました。
ただし、結果論での批判だけではなく、誰が、
どこまでプロの仕事をしなかったのか、
そしてどこまでが現在の技術やノウハウでは
予測できなかった部分であったかといった将来に結びつく議論が期待されます。
もちろん、我が家の壁に亀裂が入ったとなれば、
そうも客観的には言っていられないのでしょうがねえ。

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村上 敦(むらかみ あつし)

1971年生まれ。岐阜高専土木工学課を卒業後、ゼネコンに入社。東京湾埋立工事 などにおいての環境破壊の惨状に疑問を感じ、ドイツ・フライブルクへ留学。フライブルク大学独文科に在籍しつつ、ドイツの環境政治・行政を独学。...全文へ

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