08/5/15

「電力危機」キャンペーン

2月28日(木)

以前このブログで、石炭発電のルネッサンスは到来しないことについて書きました。
さて、原子力発電も2023年までに順次閉鎖し、
地元産である石炭火力もダメとなった状況で、
ドイツの電力産業界は奥の手を使いはじめました。それは「電力危機」のキャンペーンです。


EUの規定によりドイツなど欧州では電力事業が完全に自由化とされていますが、
その熾烈な価格競争など自由化の流れの中で、
吸収・合併が繰り返され、最終的には巨大な電力事業者が4つ誕生しています。
これはドイツの消費者にとっては不幸な自由化の結末なのですが、
この4つの巨大電力事業者は、
口を揃えて「夏場に安定して電力供給できない」ことを言いはじめています。


理由は、とりわけ電力需要が増える夏場に、もし雨があまり降らないと、
発電所の冷却用である河川水の取水が制限され、
発電所の出力を落としたり、最悪は停止しなければならないからで、
2003年の猛暑の際も原発・火力発電所からの電力供給の減少という現象が発生しています。
こうした困難を乗りきるための余裕をもった発電所の数が、
いくつかの原発が廃炉になり、石炭火力も老朽化しているため、
いずれ足りなくなるだろうというのが巨大電力事業者たちの主張です。


本当にドイツでは、夏場に電力が不足してしまうのでしょうか?
1つだけ言えることは、2007年でも、これまででも、
ドイツは自国での消費分以上の発電を行っている電力の輸出国であるという事実です。
とりわけライプチッヒに設置された欧州最大規模の電力市場の恩恵で、
ドイツを介して電力の売り買いをする国が増加し、
その市場のバランスだけを見ていると、
電力が不足するというのは現実的に聞こえてきません。
さらに、ドイツでは1991年からフェードインタリフという自然エネルギーの
購入を電力事業者に義務付けた法律の恩恵で、
また2000年、2004年とその法律がグレードアップしたおかげで、
これまでに閉鎖になった4基の原発分以上の電力を自然エネルギーで発電できるようになっています。

2007年末の時点で、ドイツの自然エネルギーからの発電量は14.2%にも達し、
10年前の2倍を遥かに超えています。



そうそう、どうして日本の環境省は、そこまで踏み込んで発言することや、
こうした自然エネルギー促進のシナリオが描けないのか、ご存知ですか? 
日本の環境省やその職員・官僚は原発を安全・核廃棄物を処理可能なものだと見なしたり、
自然エネルギーはそれほど威力がないものと見なしているのでしょうか?
 いいえ、こうしたテーマは、単に触れてはいけないタブーになっているだけです。


それでは、ドイツではなぜタブーにはなっていないのでしょうか? 
それはドイツの環境省の成り立ちに深く関係があります。
ドイツの環境省は、チェルノブイリ事故を受けて、その直後に誕生しました。
当時の経済省から原子力発電の権限を移転して作られた省庁なのです。
つまり、電力やエネルギー事業は、
経済省と環境省との綱引きで動いているところが日本と大きく違うのです。
原発を管理しているところが、
自身の権限の中で原発を自然エネルギーへと代替してゆく構想をしているからこそ、
ここまではっきりとした国の立場を表明することができるようになっているのです。

それに対して、ドイツでも多くの州の環境省はそこまでの力を持ち合わせておりません。
冒頭でお話した4つの巨大な電力事業者はもともとが公営の企業だったために、
大多数の大株主は「州」であり、
すでにこれらの巨大電力事業者は原発を所有してしまっていることが原因です。
とりわけ南ドイツなどの石炭や褐炭の採掘場所でなかった州では、
原子力発電が旺盛です。
そして同時に重要なことは、石炭や褐炭の炭鉱のある州や地域では、
労働組合からはじまった社会民主党(中道左派)の支持が強く、
そうでない農業や中小企業による工業が盛んな地域(南ドイツなど)では
保守政党の支持基盤が強いという事実です。


さあ、このねじれ現象が少しは理解できたでしょうか? 
国(環境省などの官僚)と中道左派は、
そしてもちろん緑の党などは原発反対の立場が鮮明で脱原発を決めましたが、
保守政党や経済力と政治力のある州は脱・脱原発の立場です。
また、ドイツの参議院は連邦制を取っていることから、日本とは異なり、
州の大きさとそれぞれの州議会の議席配分で代表する議員構成が変わってきます。
うーん、ここまで理解できると本当にドイツの脱原発の議論は面白くなってくるのですが、
皆さん少しはお分かりになりますか?


そうそう冒頭の「電力危機」のキャンペーンですが、
まあ、これは各政治家のリップサービスが入っているケースが多いですから、
なかなかどこまで本当に危険な「危機」なのかが国民の目には写りにくくなっています。
でも、まあ、こうしたことが理解できるようになると、
誰の意見はいわゆる族議員のリップサービスで、誰の意見はそうでないのかは、
良く分かるようになります。であるからこそ、緑の党は以下のような看板で選挙戦を戦い、
背景を理解してイライラしている有権者の憂さを晴らしてくれているというわけです。
もちろんこうしたねじれは複雑ですから、
その場合の「有権者」とは自動的に高学歴層になってしまうわけですが・・・
それが緑の党の最大の弱点ですね。

« カエルとお金のふか~い関係 | メイン | 人口ピラミッドと道路財源 »

村上 敦(むらかみ あつし)

1971年生まれ。岐阜高専土木工学課を卒業後、ゼネコンに入社。東京湾埋立工事 などにおいての環境破壊の惨状に疑問を感じ、ドイツ・フライブルクへ留学。フライブルク大学独文科に在籍しつつ、ドイツの環境政治・行政を独学。...全文へ

CALENDAR

CATEGORY

検索


RSS