「世界水の日」
3月17日(月)
3月22日に国連は「世界水の日」というプログラムを行いますが、それに先駆けてフライブルク市の上水道を供給している3セク「Badenova社」が、この地域の水資源に関する情報提供会を催しました。いつものことながら、日常の瑣末事に追われている私は、この会場に赴くことができませんでしたが、フライブルク市の日曜無料新聞『Der Sonntag』の記事とBadenova社のHPから、少しこの辺の事情や数字を拾って、皆さまに報告してみましょう。
https://www.badenova.de/
環境首都と呼ばれるフライブルク市だけあって、さらにお金のない大学生が沢山集まっている街だけあって(?)、ここでの上水道の消費量は、非常に少ないです。1日1人あたり100リットルと、80年代よりも6割の削減、1990年よりも18リットルの削減が行われてます。さらに、ドイツ平均は127リットルですから、フライブルク市の優秀さが分かります。それに比べて、日本の平均値はというと1日1人で約360リットル!
http://www.jwwa.or.jp/shiryou/water/water.html
もちろん産業や気候など同じ条件ではないですから、単純に比較はできませんが、日本人の水の浪費ぶりには目を見張るものがありますよね。理由はもちろんお風呂もあるのでしょうが、1日3度の炊事(ドイツなど欧米では1日1度しか調理しません)、極端なキレイ好き(清潔、衛生というよりもキレイキレイ症候群のように感じます)などの理由がこれに加わるでしょう。
さて、話をフライブルク市に戻します。フライブルク市では上水道の消費量が、新型・高効率の洗濯機の普及、トイレの洗浄能力の向上、食器洗い機の普及(手洗いよりも水の消費量が格段に少ないのです)などの理由から削減され続けていますが、近年では雨水利用が促進されたこともこの傾向に一層の拍車をかけています。
それでは、上水道の消費量がこのように少なくなることは、環境のためには良いことなのでしょうか? これは非常に難しい問題です(英語ではこれをGood questionといい、ドイツ語ではGute Frageといいます。良い質問という意味ではないんですねえ)。まずは、供給サイドの事情です。
①フライブルク市のある南バーデン地方は、降水量も多く、森林面積も豊富であることなどから、欧州でもっとも水資源が豊富な場所の一つです。地下水位は非常に高いため、もし人間がこれ以上水を消費しなくなると、すでに存在する住宅地などで床下浸水の恐れがこれまで以上に大きくなります。つまり、この地域ではある程度の上水道の消費量の増加では、水不足などの悪影響は全く生じません。
②フライブルク市の上水道の供給源は、市内の標高よりも高いところ、河川の上流部の地下水を活用しています。したがって、フライブルク市内に上水道を供給する際は、落差による圧力があるため、ほとんどエネルギーがかかりません。さらに、衛生的な水資源が得られますので(黒い森からの湧き水ですから水道水は美味しいです!)、上水道を準備するためにもほとんどエネルギーがかかりませんし、環境負荷もごく僅かです。
③都市の規模が増大した70年代、80年代に上水道のインフラ整備を精力的に行ったため、当時の予測から、上水道の配管のインフラが、現状の極端に減少した消費量では大きすぎるものになっています。したがって、市内の消費量が少ない時期には、衛生面から定期的に配管の水を勢いよく入れ替えるために、大量の水抜き、つまり、上水道を家庭などで消費しないで下流部で垂れ流しする作業が必要となっています。
④このような理由から上水道の消費量がこれ以上下がると、減額する部分がないに等しいので、単に上水道の単位当たりの料金が上昇します。
それに加えて、雨水利用については以下のようなポイントがあります。
①この地域で雨水を地下のタンクに貯め、トイレの洗浄や洗濯、庭の水遣りなどに活用する場合は、トータルでみると、設備の設置、上水道配管との分離などの理由から、コストが非常に上昇してしまうばかりか(投資コストの償却には100年近くかかるので、現実的ではありません)、ポンプを使用することで、単位水あたりのエネルギー消費量が、上水道よりも逆に増加してしまいます。
②しかし、下水道、下流域の洪水対策というものを考慮するのであれば、また違った見方が発生します。各家庭で一旦雨水を貯蔵することで、大雨時の下流域の洪水の危険性を減少させることが可能になる一方で、雨水処理のための下水道配管インフラの容量を小さなものに抑えることが可能です。
お分かりでしょうか? 経済的、そして環境的にも、社会コストという観点でも、フライブルク市で水を節約することは、良いことだと一口ではいうことができません。もちろん数百キロ離れたボーデン湖から上水をエネルギーを大量に消費しながら引いているシュトゥットガルト市などでは、こうしたフライブルク市のケースのように複雑ではなく、単に上水道の消費量を下げ、雨水利用を行うことは、経済的にも、社会的コストの面でも、環境保護の視点でも優れていることになります。
環境保護って複雑だと思いませんか? 日本の「マイ箸」「再生紙」「ペットボトルのリサイクル」などの議論でも同じことなのですが、そのケース毎に、前提条件やすでに存在するインフラや法的な枠組み、そんなことをすべて考慮してみないことには、何が環境に優しいのかを紋切り型で語ることはできないのです。
丁度、良い機会だったので、長々とした説明を行いました。Aのケースでは環境保護になる事柄でも、ナイーブに盲目的にそれを信仰すると、Bのケースでは逆の行動になってしまう、あるいはBのケースで環境のためにはならないと吹聴しても、Aのケースを検討してみると実は環境に優しい行動だったりする、そんな事象を学ぶためにも、丁度良い事例でしたよね。
環境先進国ドイツから最新のエコ情報を発信!
むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
www.murakamiatsushi.deフライブルクから地球環境を考える
〜村上 敦のエコ・エッセイ〜
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
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