フライブルク市の市民予算
4月19日(土)
フライブルク市においては、2007/2008年の予算案作成からは、『市民予算』と呼ばれる制度が導入されています。通常、間接民主主義制度を採用する自治体では、予算案を行政+首長側が作成し、それを議会で議論し、議会が採択、承認するという手順でお金の流れが決まるわけです。この流れの中に住民参加、いわゆる参加民主主義としてのエッセンスを取りいれたものが、市民予算と呼ばれるものです。
注:フライブルク市では、2年に1度、2年分の予算を作成している。もちろん予算案を作成しない年度も補正/追加/修正予算案は立てている。
市民予算は、1989年にブラジルのポルト・アレグレではじまったといわれています。欧州でもローカルアジェンダ21の採択・実行と同時に拡大した市民予算ですが、ポルト・アレグレ式をはじめ、その手法は多様化しています。現在ではこの分野の研究も進み、おおよそ6つのタイプに大別されるとしています。
このブログでは市民予算の手法について詳しくは論じませんが、フライブルク市で採用している市民予算の手法は、次のようなルールで行われています:
- 収入に関する面では住民参加を取り入れない(つまり、市民税や事業税などの率の変更などは、あくまでも市議会の権限で決定する)
- 法的に確定している支出(社会福祉費用や最低限のインフラ供給など)、あるいは自治体の義務として支払わなければならない支出(学校・幼稚園など教育や自治体職員の人件費など)は除いて、残りのいわゆる自治体の裁量で決定できる予算ボリュームについて、市民は口出し、議論をすることができる
- 市民が予算について口出しするときは、何かのポストを予算増したときに、どこかのポストを予算減して、総額を常に均衡させなければならない。つまり、何らかの予算が欲しいというエゴな意見ではダメで、何を削って何をするべきだという建設的な意見を必要とする
- 各種の確立された住民参加の手法を用いて、最終的に取りまとめられた住民の意見は、市議会や行政、市長などに提出され、予算案作成時、および予算案審議の際には考慮されるものの、最終的な決定権は州の法律で定められている通り市議会にある
といった感じでしょうか。それほど市民に権限が与えられたわけではありませんが、これまで発言の権利さえなかった市民にとってみれば、日ごろの考えを予算という具体的、かつ実行力のある場所で発言する良い機会になります。この市民予算については、フライブルク市はまだまだはじめたばかりの新米ですから、市民の様子を見ながら適用範囲を広げてゆくといった状況です。
さて、この住民の意見を吸い上げるというところでは、インターネットによるフォーラムや投票行動など、新しいメディアがフルに活用されています。
http://www.beteiligungshaushalt.freiburg.de/
これは選挙権のないEU外・外国人の私でも参加が可能なものであり、『予算計算器』という面白いものもあったので、私も充分に楽しみながら参加しました。これは、前回の予算と同じ予算項目割合で示されている円グラフをクリックしてゆき、必要と思われる予算項目の金額を好きなように任意で増やし、不必要だと思われるものを減らしてゆき、最終的には均衡予算にするというシンプルなものです。また、そうした増減の際にはコメントをつけることも可能です。
このページでは、どの予算項目が現在までに、どのぐらいの市民によって削減されたり、増加されたりしているのかが集計されています。
http://www.beteiligungshaushalt.freiburg.de/demos.php?page=chart
問題は、この計算器の中間集計報告からはじまりました。こうした住民参加に熱心な人びとの傾向ともいえるかもしれませんが、「社会福祉」や「教育」といった項目では、軒並み予算増を訴える集計結果が出ているのに対して、「文化」「経済」に関しては、軒並み予算削減を求める声が集中したのです。その中でも大きな標的になったのが「市営劇場」、つまりオペラや演劇を行っている部門の予算を減らせという市民の声です。
そこで、市営劇場の支配人を努めるMundel女史が、劇場建物内に「すべての劇場関係者は、この〈市民予算〉に大至急参加し、〈予算計算器〉で劇場関連の予算項目を増加させ、劇場への理性的な予算が割かれるように協力をお願いする」という張り紙をするという異例の事態が発生しました。それを受けて、「市民予算にもロビー活動が導入された」と地域の新聞は書き立てましたし、市と契約している人物のこの行動、そしてその後にそれに従った市の職員である劇場関係者の行動について、理に叶っているか、叶っていないかの議論が、地元新聞の投票欄、インターネットの掲示板、そしてクナイペと呼ばれる居酒屋で盛んに行われたわけです。
皆さんはこの事態をどう解釈しますか? 市民参加においてもロビー活動は許されるのでしょうか? また市の職員や市に関連する人間は、こうした住民参加に参加しても構わないのでしょうか、また個人としてはOKでも、組織としての参加だとNGなのでしょうか? 雇用主やボスが市民参加を指示するというのはありなのでしょうか?
例えばよく住民参加で何か成し遂げられるものに環境保護があります。こうした環境保護に関する住民参加は(例えば請願や住民投票など)、環境NGOやある特定の政党・会派、ある特定の地区の自治会などのロビー活動がなくては組織されませんし、形になりません。当然今回の市民予算においても、単独の個人よりも、特定地区の住民グループや環境保護グループ、教育に関連する関係者やそれにより自身/自社の売り上げに影響する出入り業者など数多くのロビー活動がすでに入りこんでいることは事実です。もちろんインターネットではハンドルネームで参加していますから、それら一つ一つを特定することはできませんし、そのインターネットでの集計が直接予算配分に反映されるわけではありません。あくまでも、参加の過程を市議会は参考にするというものなのです。
ですから、そこに劇場や文化のための予算を増やし、より文化的な都市を実現するために、市内の芸術家や劇場関係者が、こうした機会を集団で利用してもルール違反ではありません。問題は、市の所有である劇場自らが公にこうした行動を起こすことがよいのかどうか、さらに支配人の指示は適当かどうかという問題です。しかし、ルール違反でないのであれば、隠れてやるよりも公にやることに本来は異論がないはずですが、なんとなく後味が悪くなるのも事実です。
今回のこのニュースでは、何も結論を持って書いているわけではありませんので、「おち」はありません。できれば皆さんでこの問題をロールプレイしていただけると幸いです。レベルの高い市民参加において発生する事象、これを面白いと感じてくれる人がいれば、幸いです。
環境先進国ドイツから最新のエコ情報を発信!
むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
フライブルクから地球環境を考える
〜村上 敦のエコ・エッセイ〜
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
村上 敦の書籍
日本版グリーン・ニューディールへの提言
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