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原子力発電所「クルスコ」での事故でEU全土に警報が

6月5日(木)

EU全土で警報が鳴り響きました。スロベニアの原子力発電所「クルスコ」での事故がEUの緊急警報システムで通報されたためです。この事故そのものについて、そしてその後のスロベニア、クロアチアのまずい対応などについては、インターネット上でも各種のメディアが報道していますから、ここではあえて報告しません。今回は少し原子力発電所というものについてドイツにおける議論を記してみることにします。

今の日本社会では残念なことに「反原発」と名乗った段階で完全にメインストリームからはずされる烙印が押されてしまいます。つまりここの部分では日本では完全なる意見の自由が認められていないわけですね。もちろん、どの分野にもそうしたテーマはあるので、原発だけが特異なわけでもありません。テレビや新聞などの大手メディアは、原発事故や事故の隠蔽の際には、広告主の大スポンサーである電力事業者を叩き、より高い安全を要求することは問題なくできますが、本質的な意味でなかなか原子力発電そのものの是非を議論することはできないようです。

ですから往々にして環境関連で原発を取り扱った記事では、「温暖化対策として原発の推進には一定の理解を示すものの、安全性やバックエンドコストなど国民的な議論をし、また自然エネルギーの促進との兼ね合いも考慮する必要がある」といった、何とも複雑なトーンに仕立て上げられる場合が多いですよね。読んでいる人たちは、原発を止めるべきなのか、エネルギー供給の軸足をより原発に頼る国にするべきなのか、よく分かりません。また、反原発の立場を取るメディアからは、原子力の安全性について、とりわけ感情的な描写で書かれることもまま見られます。ですから、天然資源のほとんどを輸入に頼る国のエネルギー政策の議論が、イデオロギーの問題にすりかえられてしまっている場合もあります。

ここではドイツではよく語られている議論が、日本には存在しないため、その議論を紹介してみましょう。とりわけいわゆる大手の成熟した環境保護団体の立場です。

いくら環境保護団体とはいえ、今すぐに原子力発電所を閉鎖せよというものは少なくなりました。およその主張は、「現在手元にある資源と機会を有効利用し、次の世紀であるソーラーエネルギー社会への踏み台にしよう」と取りまとめることができるかと思います。ですから、原発の閉鎖以上に緊急に:
①すべての新築建物は「無暖房住宅」と呼ばれるようなレベルで建設されることを義務付け、省エネ性能の低い既存建物のエネルギーりフォームを推し勧め、
②より効果的な環境税を導入し、化石・原子力エネルギー価格をコントロールしながら上昇させ、同時に自然エネルギーの競争力を向上させ、
③土地利用計画をより厳格化し、核家族化によって人口密度が低下し、郊外大型店の進出なども加わって進展しているスプロール化という問題に対処する。
ここまでが今日すぐにでもはじめなければならない、省エネに関する議論です。そして:
④ドイツで爆発的に自然エネルギーを推進した「フィードインタリフ」という市場原理を含んだ強い法的な枠組みをより幅広い分野に推進し、コージェネ、再生可能なエネルギーからの熱、動力用の燃料をより推進し、
⑤アウトバーンの時速制限をすぐにでも導入、
⑥駐車場を自宅の敷地内に作成することを禁止し、バス停のように住宅地区の駐車場は常に一箇所に束ね、生活と車を分離するような政策も必要です。
といったレベルの話と同様に、
⑦今すぐに原発も他の発電施設と同じように保険に加入しなければならない!
と訴えています。
というところで、皆さんご存知でしたか? ドイツの、日本の、いや世界の原発はその損害を保障する保険に加入していないからこそ、安価な電力を生産できているんです。ここの部分の議論を少し掘り下げてみましょう。

原発が安全なものであるかどうかは、ぶっちゃけた話、私には理解できません。仕組みが複雑すぎます。というよりも、大方の人はそれを判断できるほどの情報を持ち合わせていないでしょうし(賛成でも、反対の立場でも)、それを断定することはほとんどの人ができないことかと思います。もし、できるという人がいても、それは客観的な判断ではなく、自身で危険だと思い込んでいる、あるいは安全だと信じているレベルではないかと感じます。

もちろん専門家の話に耳を傾けるのは重要です。ただし、私は原子力が危険であると口にする専門家と、安全であると発言する専門家のどちらが、より客観的で信用に足るのかを見分けることができません。とりわけ想定以上の地震やテロが絡むとなるともうお手上げです。というよりも、そもそもこの問題は危険・安全という二者選択で決められる問題ではないのです。

ですから、私たち一般人は、まず最初に原発がどれだけ危険なのか、あるいはどれだけ安全なのかという議論を放棄する、というよりも結論付けてしまわないことが肝要だと思います。そうして、まず私たちは安全か危険かの判断は、リスク管理のプロである第三者の民間の保険会社、あるいは再保険会社に任せようではないかとする姿勢はいかがでしょうか? このように考えてみると、そこには大きな問題があることに気がつきます。工業先進国では、人は、車は、企業は、建物は、工場は保険に加入していることを義務付けられていたり、推奨されたりしているのですが、なぜか「原発」だけは特別扱いであることに気がつくからです。分かりやすく言えば、原発は国が背中を押す形でわずかな積み立て方式の基金、あるいは変形した保険にしか加入していません。ドイツの事例を紹介しましょう。

例えばドイツの原発「Biblis」での大災害が発生する確立は、3万年に一度だという研究結果報告があります(つまり0.0033%)。しかし、このほとんど起こらないように見える原発大事故の確立も、ドイツの19基の原発と平均してそれぞれ30年間の稼動機関という物差しで考慮すると、事故の発生する確立は2%近くに上昇してしまいます(0.0033%×19基×30年=1.9%)。つまり、かなり高いポテンシャルを秘めているわけですね。これはもちろん数字のお遊びですが、リスクというものの感じが掴めていただけるでしょうか? 保険とは、そうした事故や補償の発生する確立、つまりリスクとその事故や補償の規模に応じて、掛け金が設定されます。スイスの中立研究所PROGNOS社が試算したところによると、通常の火力発電所の計算方式で、原子力発電所の保険料の掛け金を計算すると、原発電力1kWhあたり50セント~5ユーロの掛け金になると計算されています。つまり保険だけで、一般的な電力価格の2倍から20倍になるわけです。原発電力は安価なものなのでしょうか?

ということで、これまで世界中に一つとして原発を勧誘する保険会社もなかったわけですが、もし保険に加入させてあげましょうという保険会社が現れたとしても、原子力発電はこの時点で採算性が保てず、とても実現することはなかったはずです。したがって、「戦争」の場合と同じように国、政治が登場します。通常の保険会社では手を出せないので、国が担保する形で保険金を積み上げておくスタイルだと考えていただければ、分かりやすいかと思います。その場合、ドイツにおいては補償できる最大金額は、25億ユーロに設定されています。これ以上はビタ一文でてきません。これは充分な補償金額でしょうか?

ちょっとした試算をしてみます。チェルノブイリ事故では合計面積でおよそ1万平方キロメートルの大きさが半永久的な被災地として立ち入りが制限されています。つまり、この範囲に住んでいた人びとは強制的に家を、土地を追われたわけです。この大きさの面積の土地補償代金は、日本やドイツの場合、低めに見積もっても5ユーロ/㎡として、5000億ユーロかかります。チェルノブイリではおよそ50万人が家を追われましたが、ドイツや日本での人口密度は極端にそれ以上に高いため、健康被害が出る、出ないにかかわらず、家を追われる被害者の総数は少なくとも数百万人規模に達するでしょう。そうした人的な被害、建物、土地、農業・産業での被害額を含めるとドイツでチェルノブイリ級の災害が発生した場合には被害総額は2.5兆~5兆ユーロに達すると試算されています。これは人的な健康被害の補償を考慮しない時点での数字です。

そこで適用される保険の補償額を見てみると、その0.1%以下である25億ユーロです。想像してみてください。車の場合、最大で1億円レベルの人身事故の最大補償額が設定されていると思うのですが、原発だけは例外的に、その0.1%以下の補償でOKというわけです。つまり交通事故で誰かが死んでも、補償は10万しかおりないという計算です。これに納得できる人はいるのでしょうか?

もちろん、チェルノブイリは工業先進国では起きないと決め付けてしまうこともできます。しかし、このポイントに関して、もう少し議論があってもよいのではないでしょうか? こうしたことは、電力事業者に勤務している人でも大多数の人は興味を持ちませんし、政治も無関心、国民も無関心な場合が多いのです。ですから、イデオロギー云々の議論は止めにして、この「保険」というテーマで日本も原発を議論してみる必要があると思います。そうそう、ここではドイツの事例ばかりを報告しましたが、日本の原発がどのような積み立て制度に加入していて、どのような補償額を設定しているのでしょうか? ここであっさり報告しても面白くないので、是非、皆さん自身で調べてみて下さい。そしてその結果を車の保険と対比してみると、面白いと思いませんか? 中学生の夏休みの研究課題にぴったり。「なぜそこまで原発のために?」と考えることのできるよい題材になると思います。

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環境先進国ドイツから最新のエコ情報を発信!

村上 敦
村上 敦
むらかみ あつし

ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い

2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける

専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策

http://www.murakamiatsushi.net

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