EU自動車産業の問題点とフィードインタリフ
今回は欧州での車の燃費性能に関する話題の続きです(前回のお話は下記のアドレスで)。
http://www.eco-online.org/german-eco/200811011811.php
EUでは現在、年末までに2012年までOR以降の気候温暖化対策を取りまとめた指針のパッケージを合意しようと交渉が続けられていますが、とりあえず乗用車の新車の部分では一定の決着がつけられました。
まず、2012年までに全体の新車登録台数のうち65%の乗用車がCO2の排出量を137g/km以下に抑えようというのが合意されました(この値はエンジン性能で、そのうちの17g/kmは、追加としてタイヤやエアコンによる改善)。2013年には、この割合は75%となり、2014年に80%、2015年にようやく全車平均でこの値が目標とされることになりました。長期的な目標値としては2020年までに95g/kmが揚げられています。また、違反したメーカーに対しては、その超過分についての罰則金も一応の形で決まりました。
うーん、この金融危機の影響によって、自動車産業にかなり譲歩した形の取り決めです。とりわけ大型車を製造しているドイツでは、この譲歩を引き出すために、メルケル首相以下、全員が自動車ロビーのまわしものかのような振る舞いが行われました。まあ、こうした市場原理を含まない純粋な形の「政治目標」の設定の場面では、これまでにも見受けられた現象ですから驚きもしませんが、これによってドイツの自動車産業は、今まで以上に国際競争に取り残されることになるとの見方も出てきています。
今回のこの妥協案の問題点はいくつかありますが:
1.欧州の自動車産業は、EU指針に頼らなくとも2005年までに平均で140g/kmを達成できると主張してきました。結果は2007年の平均で158g/kmです。つまり強制的な規制なしでは、全く機能しなかったことが証明されています。
2.それにもかかわらず、自動車産業は、急激な目標義務値、および罰則の設定によって、競争力が低下し、雇用を守れないというワンパターンな発言をしています。その結果が、2012年までに全車の平均値で154g/kmという目標値の設定で、これは規制がなくともガソリン価格の動向次第で達成される性格のものです。つまり、今回の規制は、規制という形を取り入れただけで、中身はほとんど何もないというのが実情です。
3.それによって、益々欧州の自動車メーカーの国際競争力が低下するのではないかというのが、最も大きな懸念事項です。日本車メーカーのように意欲的にイノベーションな省エネカーを欧州の自動車メーカーは本気で取り組んできませんでした。この遅れを挽回するのには、まあ、かなりの時間と体質の改善が必要とされるでしょう。
本来、こうした金融危機からはじまった自動車産業の問題は、新しい方向性を示すべき教訓とならなければいけないのでしょうが、どちらにしても、業界を保護するという方向でEUは決議せざるを得なかったわけです。これが吉とでるか、凶とでるか?、あるいはこうした危機からとりわけドイツの自動車産業は何かを学ぶのか?、この結果が鮮明になるのはまだまだ時間がかかるでしょうが、私は個人的には「凶」とでるほうに一票入れておきましょう。まあ、日本のメーカーがこのチャンスをどこまで活用できるのかどうかまでは、分かりませんが。
それから、もう一つ。排出量取引のCAP、燃費規制、省エネハウス規制など、市場原理を含まずに純粋に政治的な目標値と義務、罰則(OR課金)だけで、気候温暖化対策を進めようとすると、新しいイノベーションは生まれませんし、目標としなければならない値に近づくこともありません。もちろん、増加ではなく、減少へという方向性は指し示すことができるのですが、数字まではなかなかコントロールできないことが、世界中の例で証明されています。
社会の仕組み、市場の枠組み、市場競争を取り入れたフィードインタリフのような取り組みを、どの分野でも積極的に取り入れてゆかなければ、持続可能な社会は訪れないということを肝に銘じる必要がありそうです。自動車の分野では、フランスが車両税の分野で小規模ながら行おうとしている取り組みのように、燃費の悪い車の購入・維持コストには、燃費の良い車の購入・維持管理を安価にするための費用が含まれているようなシステムを(自動車メーカー、政府、自治体などは直接的な費用負担をせず、プラスマイナスゼロのゼロサムゲームで、そうした車を選択した消費者同士の間でお金が移動する市場原理システム:図参照)、市場で魅力がある大々的な規模で機能しはじめたときには、○○年に○g/kmという目標値は必要でなくなり、自動的に、瞬間的に自動車産業は体質を変更することでしょう。決定するのは、いくらのお金を移転するのかであって、どれを目標とするのかに主眼を置かないモデルです。

イノベーションのためには、それぞれが環境に優しい行動を選択したときには、お金も儲かるシステムが必要なのです。
想像してみてください。10年前にロードマップを発表し(これ重要!)、5年前から日本で、大型車や低燃費車を購入する人が新車購入時にさらに50万ぐらいの費用負担をして、そうして集められたお金が超低燃費車、電気自動車や天然ガス車、ハイブリッドカーなどの購入費用の補助に使われるような仕組みを採用していたら、今の金融危機後の世界において、ここまで日本の自動車メーカーは苦しんでいたでしょうか? 私には世界で1人勝ちしたであろう日本の自動車メーカーの誇らしげな姿が目に浮かびます。そのときに消費者である私たちは、今以上に低燃費で安価な自動車を手にすることを可能としていたのではないでしょうか? これ、私だけの妄想ですかね。
環境ジャーナリスト 村上 敦
www.murakamiatsushi.de
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むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
www.murakamiatsushi.deフライブルクから地球環境を考える
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