ヒートポンプ議論の決着!?
今回はドイツでのヒートポンプに関する話題の続きです(前回のお話は下記のアドレスで)。
http://www.eco-online.org/german-eco/2008/03/23-155421.php
12月4日に、欧州で最大のソーラーエネルギーと次世代エネルギーの研究施設「フラウンフォーファー研究所ソーラーエネルギーシステム」がヒートポンプのフィールドテストの結果が取りまとまったとプレス記事が出ました。詳細はドイツ語ですが、下記のサイトでご覧下さい。
http://wp-effizienz.ise.fraunhofer.de/german/index/index.html
このフィールドテストでは、7つのヒートポンプのメーカーのもの合計70箇所で計測した結果を取りまとめたものです(来年初頭までに40ヶ所のデータが追加されます)。プロジェクトの目的は、とりわけ最近の新築建築は高断熱・高気密の省エネ住宅となっていますので、そうした熱エネルギーのそれほど必要でない建物においても小型のヒートポンプが有効かどうか、有効であるならばどのような形で設置や運転の最適化ができるのかを調べるというものでした。データは2006年の夏からはじまり、評価は2007年11月から08年10月までの1年間で行っています。
まずは結果について。庭などの地下に不凍液が循環するパイプを張り巡らし、冬場の地熱をヒートポンプ利用するというタイプでは、平均的なCOPは3.7でした。また地下水の熱を利用するヒートポンプはCOPで3.5が平均値です。どちらも日本では全く普及していないタイプなので、比較が難しいのですが、ドイツでは全室暖房と給湯の両方のエネルギーをヒートポンプから獲得するので、日本のエコキュートなどより大掛かりな施設となります。ドイツの現状の電力事情ではCOPが2.5~2.7以上あるヒートポンプであれば、CO2の排出量を削減し、温暖化対策になるといわれています。ということで、ほとんどのドイツにおけるヒートポンプは、まあ合格点が与えられたわけです。
ただし、データの数は少ないのですが空気の環境熱で稼動するタイプのヒートポンプのCOPの平均値は3.0とそれほど優れないことも分かっています(データは6件の平均値)。多少の温暖化対策にはなるものの、劇的に現状を変えるものではないというレベルでしょうか。エネルギー消費量で変換すると、1割程度は省エネになるものの、日本のテレビコマーシャルでいうほど環境にクリーンではないということですね。
さて、ヒートポンプに限ってはドイツと日本の現状について直接比較することができません。前述したように日本では給湯だけに利用しているのに対し、ドイツでは暖房でも利用されている大掛かりなタイプのものですし、日本人はドイツ人よりもおよそ3倍も水を利用しています。また、平均してドイツの冬は日本のそれよりも格段と寒く、長いからです。ただ、最近日本でも面白いニュース(朝日新聞12月26日)が流れました:
http://www.asahi.com/national/update/1225/TKY200812250293.html
詳細は財団法人建築環境・省エネルギー機構のガイドライン:
http://www.jjj-design.org/guidelines/data/080501p177v2.pdf
エコキュートを利用しても、出荷時の設定のままであるとエネルギー消費量はガス式の湯沸かし器と変わらないという話しです(一次エネルギー投入量で)。つまりお湯の消費量や生活パターンに応じて、こまめに設定を変更しないことには、省エネ効果が得られないということでした。もちろん、そうした状況では、いくら安価な深夜電力を使おうとも100万円単位の投資が回収できるのは、かなり先になってしまいます。
さて、私の個人的なヒートポンプに関する認識ですが、まあ、トヨタのプリウスと同じレベルだというところでしょうか。トヨタのプリウス並みの燃費は、最近の軽自動車でも十分に期待できますし、プリウスで省エネできるエネルギー量は、それよりも燃費の悪い車であっても、車との付き合い方次第で簡単に達成することができます。つまり必要でないときに車に乗らないという行動ほどは、環境に対して効果がないというわけです。さらにプリウスなどのハイブリット車やこれから先に普及するであろう電気自動車には、大量のレアメタルという貴重な資源が使われていますし、そうした資源など製造過程、廃棄過程を含めたLCAで評価すると、プリウスで省エネできるとはっきりいえるようになるには、かなりの走行距離を乗らなければならないからです。
エコキュートなどのヒートポンプも全くそれと同じで、そうした高価な施設を導入しても、それに対して得られる省エネ効果は、普段の生活の少しの配慮で(お湯をあまり贅沢に、無駄に使わない)、得ることができるわけです。さらに、マクロで考えたとき、日本という社会で消費される電力量は、できるかぎり下げるべきです。ますます多くの原発や化石燃料の発電所、あるいはダム式の水力発電を増やしても、環境や将来の世代にとってよいことは何もないからです。
ただし、同じヒートポンプ技術でもエアコン、冷蔵庫となると、あるいはある程度大きな割合で電力を消費しているテレビなどの家電となると話しは変わってきます。もし、自宅に設置してあるものが古く、買い替えを検討しているようなものがあったら、必ず最新式の少し高価でも省エネ性能に優れているものを購入すると、3~6割の省エネがそれだけ実現されます。テレビを観る時間を5割減らすことは、もちろんよいことではあるのでお勧めしますが、それが長続きするかどうかは疑問ですし、生活の豊かさを落とすことにも繋がりかねません。冷房も利用時間を半減させることはなかなか難しいですよね。冷蔵庫なども中身を沢山詰め込まないこと、開け閉めはできるかぎり短く、回数も少なくすることは大切な事ですが、それだけで電気の消費量を半減させることは大変な努力を伴います。ですから、こうした同じ仕事をしても省エネ効果に大幅に優れているものについては、買い替えの時期には積極的に取り入れることが肝要です。
それでは、白熱電球の代わりに省エネ電球は、どうなんでしょうか? 日本でも多くのメーカーが白熱電球の生産から撤退することを決めていますし、オーストラリアやEUでは、白熱電球の販売が禁止されることに決まっています。これについては、次回詳しく紹介しましょう。今年の12月にはドイツで興味深い大きな議論が巻き起こったからです。
さて、最後の取りまとめの部分ですが、ここからが現代の環境保護を難しくしているところです。混乱するでしょうが、皆さんもよく考えてみてください。太陽光発電のパネルが市場で販売されはじめたときには、発電効率は非常に低く、パネル製造のためにも大きなエネルギーがかかっていました。20年稼動しても、LCAで評価すると発電したエネルギー量と製造や設置、廃棄に必要であるエネルギー量は同じ程度にしかならないと言われていました。ただし、現在はそうしたエネルギー回収バランスは飛躍的に向上し、3年前後稼動すれば環境のために効果があがると言われています。つまりこれを可能にしたのは、太陽光発電の製造において技術革新が行われたからです。今後もより優れたソーラーパネルが作られてゆくことでしょう。これが実現された理由は、技術開発や研究に投資が行われたからです。その投資とは、もちろん普及の度合いと関係があります。もし、25年前の段階で太陽光発電を人工衛星などに搭載する以外は意味のないものと誰もが考え、誰一人設置しなかったら、現状はないことになります。
この話しは、エコキュートやプリウスの場合でも同じです。プリウスが世界中で好調に販売され、エコキュートが日本ではすでに150万台(市場占有率5%)販売されているために、こうした技術をさらに良い物にするための投資が行われ、各社は競争し、その結果、技術革新が推進されているのは事実です。ですから、私たちはこうしたものを現状のエコバランスが格段に優れないからといって、すぐに切り捨ててしまうことは得策ではありません。ですが、すべてのこうした技術を推進するために購入したり、普及することをよしとするのでは際限がなくなってしまうのも事実です。
ですから、そのための判断基準というものが必要になります。その基準を議論するために私たちが一番必要としているものは、この先の私たちの社会におけるエネルギー供給戦略です。市場原理だけで電力消費の絶対量を増加に任せるまま放置することは避けなければなりません。どの段階までガソリン車に乗ることができるのか? いつから電気自動車やバイオマスの自動車に乗るべきなのか? いつから、どの程度ガス湯沸かし器ではなくヒートポンプ湯沸し器に、あるいはソーラー温水器に依存するれば良いのか? 今の段階でエコキュートを推進するべきなのか、それほど推進する必要はないのか? この回答は、いつの段階で、どの程度の一次エネルギー資源を、どこから、どれだけ輸入し、どのようなエネルギー供給を日本は行うべきなのかが示されない限り、答えが見つからないことでしょう。もちろん、ここには温暖化対策の議論も含まれます。これが国民的に議論され、そして国の単位で未来を示してはじめて、このヒートポンプ、ハイブリッド車を巡る議論を進展させることが可能となるのです。
はあ、残念ながらこのエネルギー供給戦略は、日本では少しも提示されていません。ですから、いくらこの分野を詳細に調べようとも、いくらフィールド調査を行おうとも、「よい」のか「悪い」のかの評価は出てこないわけです。
「いやー、環境って非常に難しいですね」
環境ジャーナリスト 村上 敦
www.murakamiatsushi.de
環境先進国ドイツから最新のエコ情報を発信!
むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
フライブルクから地球環境を考える
〜村上 敦のエコ・エッセイ〜
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
村上 敦の書籍
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