省エネ電球は環境に悪い?
皆さま、明けましておめでとうございます。当初、このブログをはじめたときから少し意図が変わってきていますが・・・今年も環境保護の難しい点を、できるかぎりドイツでのトピックスを交えながら整理してお伝えしてゆきたいと思います。
さて、前回告知しましたように、今回はドイツで12月に巻き上がりました「白熱電球VS省エネ電球(電球型蛍光灯)」に関する議論です。なかなか質が高くて面白い議論ですから、皆さん新年早々ではありますが、頭をフル回転させて一緒に考察してみましょうね。
ことの発端は2つの出来事からはじまります。
まず1つ目:EUは、今後4年間で段階的に白熱電球を市場から取り除くことを決議しました。これは2008年1月までに行われたEUの「エコデザイン政令」のための学術的な調査でLCA調査を行った結果、白熱電球と省エネ電球を比較した場合、省エネ電球を使用した方がエネルギー消費量が4分の1となることを受けての決議でした。具体的には2009年からEUでは100W以上の白熱電球の販売が禁止され、2010年からは禁止措置は40W以上となります。そして2012年に全廃へという流れです。
そして2つ目:ドイツで権威があり信頼性も高い雑誌「エコテスト (*1)」は、自社独自に省エネ電球を調査、比較した結果、各製造メーカーが述べているほど「明るくなく」「省エネ効果も見られず」、そして廃棄時の不適切な市民の行動からマクロでは環境や健康に害があるとして、白熱電球より優れているとの一元的な見解を否定した。
http://www.oekotest.de/cgi/nm/nm.cgi?doc=lamp-uebersicht
この2つの事象を受けて、スキャンダル好きな大衆各誌や多くの新聞、テレビなどのマスメディアは、揃ってこの問題を取り上げました。大方のマスコミは、ただ面白おかしく、これまでの常識(=省エネ電球は良い、正義)が覆されたとしか報道しませんでしたが、新聞への投書やインターネット上などの議論を見ると、それぞれ両方の立場から様々な意見が噴出していることが分かりました。まずは前述のエコテストも含めて、白熱電球擁護派の意見を取りまとめてみると以下のようなものがあげられます:
- 省エネ電球は同じソケットに収まるタイプのものを取り付けても、明るさが大きく減少する(例:60Wの白熱電球であれば、通常11Wの省エネ電球を取り付けることで代替されると一般的に言われており、省エネ電球のパッケージから読み取れるが、表示されている明るさの単位=ルーメンは必ずしも同じではない。さらに、安価な省エネ電球はルーメン数が大きく減少している例がある)。もちろん商品のパッケージにはルーメンを表示しなければならないため印刷されてはいるものの、その表示はとても小さく消費者を混乱させる原因となっている。
- 『エコテスト誌』の独自調査では、省エネ電球の多くは表示されたルーメンの数値の明るさを発揮していない。あるいはその明るさに達するまでに、点灯開始から非常に長い時間が必要とされる(省エネ電球の欠点は、明るくなるまである程度の点灯時間がかかることである)。とりわけ低温時の照度が低い。
- 上述のことから通常言われているような75~80%の省エネ効果は期待できず、同じ明るさで比較した場合、省エネ効果は50~70%に留まる。とりわけ安価な省エネ電球ほどその省エネ効果は薄い。
- 省エネ電球のパッケージに表示されている連続点灯時間は、現実の使用では達成できないことが多い(省エネ電球はどれだけ連続で点灯したかではなく、何度点けたり消したりしたかによって寿命が決まる傾向が強い)。一般には白熱電球の10~15倍の寿命があると言われているが、それは最も高性能で高価な省エネ電球に限ってのことであり、現在市場で売られている省エネ電球のほとんどは白熱電球の数倍しか長持ちしない。
- 従って、白熱電球よりも省エネ電球のほうが一般的に数倍高価なため、一般に考えられているほどコスト削減効果は期待できない。
- 白熱電球ほど形状が多様ではなく、用途が限られる。
- 省エネ電球(蛍光灯)の光は、白熱電球とは異なり、点滅を繰り返すため、それが人間に認識される、されないにかかわらず、健康への影響が懸念されている。さらに白熱電球以上に「e-Smog:電気スモッグ」による健康への影響が懸念される。
- 省エネ電球は製造に水銀が利用されている。最近ではEUは厳しい水銀量の上限措置(5mg/個)を設けているが、古いタイプのものはこれ以上使用されており、同時に新しい商品でもこの上限値ギリギリで製造しているのが普通である。従って、家庭内で省エネ電球が破損した時の健康被害、および廃棄時の適正な処理を行わないことから環境中に廃棄される水銀の量は社会全体ではおびただしいものとなる。とりわけドイツでは一般市民の認識不足から、危険ゴミとして特別な回収に寿命を終えた省エネ電球がうまく回収されておらず、販売量のおよそ9割は一般廃棄物に混入しており、通常の焼却炉でその他の廃棄物と同様に焼却処分されている。その際に環境中に飛散する水銀量は無視できないものとなってきており、とりわけ白熱電球を廃止することでこの傾向は加速化する。
以上のとおり数多くの省エネ電球のデメリットがエコテスト誌やその他のメディアで報道されました。これまで環境保護の推進者は(ある部分では盲目的に)省エネ電球の推進を訴えてきたのですが、上述の諸問題に対して、どのような学術的に公平な回答が行えるのでしょうか? 省エネ電球擁護側の意見で私の目から見て納得のできるものを取りまとめてみましょう:
①~⑤の問題に対して:安価な価格帯の省エネ電球では、取り上げられたような問題は事実として発生しています。この場合は、消費者が賢明になり、信頼できるメーカーの信頼できる性能の省エネ電球を取り付ける以外に対策はありません。ただし、すでに市場に出ているもので高価な価格帯の高品質・高技術製品では、①~⑤で示されている問題はすべて解決しています。初期投資は割高になりますが、LCAで見てみると環境のためにも、そして総額コストの面からもそうした商品は割りに合うのです。
⑥に対して:白熱電球が段階的に廃止になるに連れて、とりわけ低出力の省エネ電球の分野においても多様な形状や性能の商品が開発され、市場一般に広がることでしょう。
⑦に対して:省エネ電球が健康上に与える影響に関しては、学術的に証明されたものがまだありません。したがって、より安全側を配慮したい場合は、卓上ランプなどは省エネ型のハゲロンランプ、LED灯などを利用するのがよいでしょう。一般的には、体から50センチ以内で長時間、省エネ電球を点灯させなければ、健康への被害が現れる可能性はほとんどないと思われます。ただし、電磁波過敏症などの特別な体質をもたれる方、あるいは恐れのある方は、ハゲロンランプで代替するのがよいでしょう。
⑧に対して:社会がすべて安価で低性能な省エネ電球を選ばない限り、白熱電球が廃止されることによって得られる電力の省エネ量は莫大です。忘れてはならないのは、私たちの社会の電力の大きな割合は、石炭と褐炭で発電されている点です。石炭発電では、その燃焼時に多量の水銀を含む重金属が環境中へと飛散しています。それに加えて、石炭などの化石燃料資源を採掘したり、精製したりする際には多大な汚染物質が発生しているという事実があります。電力という高価で貴重なエネルギーを、省エネ電球によって節約することで得られるこうした汚染負荷の軽減量は、省エネ電球自体に含まれる水銀が環境や健康に負荷を与える量をはるかに上回ることでしょう。もちろん、啓発などを通じて、一般家庭から使用済みの省エネ電球を危険ゴミとして別回収することは徹底して行われるべきですし、家庭内で省エネ電球が破損した場合の取り扱いについても同様に教育されるべきです。さらに将来的には水銀を使用しない代替タイプの商品の開発も視野に入れるべきでしょう。
皆さん、どうでしょうか? 納得できましたか? ①~⑤に関しては、『安かろう悪かろう』というこの世の中ほとんどに関して当てはまる事柄だと思います。食品から衣類、工業製品までおよそ商品と呼ばれるものにはこの傾向がありますから市民としては非常に気をつけたいところですね。
また、私はジャーナリストという仕事柄、とりわけ⑧について関心があります。この上述の回答はバーデン新聞に掲載されたブッパータール研究所のエネルギー専門家ヴォルフガンク・イレック氏からのコメントを引用していますが、こうした大掛かりな社会的な研究が行われたわけではありません。専門家の感覚+常識によるコメントというわけです。もちろん社会というマクロに対して、どのような効果があるのかを精密に調べるためには時間と多大な費用、そして優秀で中立的な研究機関や研究者を必要とします。ただし現在の地球や人間の経済活動は多様化しているため、何が良いのかを見極めることは素人にはできない状況になっているのも事実です。ですから、複数の専門機関が調査を行い、それを市民に公開するというのは、ぜひとも必要な事柄だと思います。
「環境のため」「環境に優しい」というモノ、サービスが、本当に意味のあることかどうかは、すべての分野において単純に一口に言えない世の中であることを再認識させられたドイツの年の暮れでしたねえ。皆さんもこうした「省エネ電球=環境に優しい」というような対象をナイーブに信用しないで、いろいろ考えてみましょうね。きっと意味のあることだと思いますし、こうした考える力が次のステップを作ってゆくのだと思います。それでは、今年1年もよろしくお願いいたします。
環境ジャーナリスト 村上 敦
www.murakamiatsushi.de
*1 「エコテスト 」
http://www.oekotest.de/index.html
「Oekotest誌」。ドイツで最も中立で権威があると言われているTest財団による生活者のための雑誌「Test誌」は、性能や利便性、価格重視で、環境や健康への影響を十分に評価していないと主張し、そのオルタナティブとして民間企業が設立した生活者雑誌。こちらも「Test」にも劣らないほど企業や政治に左右されない中立性があるとして、市民からの支持を集めている。
環境先進国ドイツから最新のエコ情報を発信!
むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
フライブルクから地球環境を考える
〜村上 敦のエコ・エッセイ〜
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
村上 敦の書籍
日本版グリーン・ニューディールへの提言
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経済を活性化する〜
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