ドイツのこれは真似をしてはいけない!
昨日の新聞報道を見て驚きました。「あちゃー」という感想が第一です。
新聞各社の報道によると、経済産業省は、エコカーの買い替え奨励金(補助金)を総額3700億円、省エネ家電のエコポイント還元金(補助金)として総額2700億円を09年度の補正予算案に新経済対策として盛り込むそうです。補正予算の総額は15兆円規模という想像もつかない「とてつもない金額」ですから、上述の数千億円の話でガタガタ言っても仕方がないのでしょうが、まあそれにもめげず、今回のレポートでは、この補助金の話をしてみたいと思います。
まずはエコカーへの買い替え奨励金について。経済産業省、政府、与党は、新車登録から13年以上経過した車を廃車にして、10年度の燃費基準のエコカーを購入するケースで、軽自動車では12.5万円、普通自動車で25万円、トラックなどでは20~180万円が助成されるとのことです。登録から13年経過していない車であっても、10年度燃費基準より15%以上の低燃費のケースでは、軽で5万円、普通で10万円がもらえるという話です(朝日新聞の報道より)。加えて、省エネのエコカーには、4月から税の減免措置が拡大して与えられるとのことですから、エコカーへの買い替え需要が活性化することが期待されています。これによる経済効果は雇用換算で9万人だそうです。こうした将来の需要を先食いする性格の事業で、どうやって全体を見通して雇用発生数を計算するのでしょうかねえ。短期的に9万人という話でないことを祈ります。
こうしたいわゆる「エコ・スクラップ・プレミアム」という助成制度は、すでに欧州各国では実施されています。そこですでに数ヶ月の実績があるドイツの経験から、これは経済政策として有効かどうかを議論してみましょう。まずは、ドイツの制度を紹介します。
ドイツでは1月末に景気対策の一環で(500億ユーロ≒6.5兆円規模)、この助成金制度を閣議決定し、2月初旬から「エコ・スクラップ・プレミアム」を開始しています。ドイツでは:
- 9年以上前から登録されている個人向けの乗用車で、
- 2009年中に公的に認定された方式でスクラップし、
- スクラップ日より1年以上にわたって助成金申請者がその車を登録していた場合で、
- 排ガス規制EURO4以上の新車購入、および新車リース契約を結ぶ際に、
- 2,500ユーロ≒32万円の「エコ・スクラップ・プレミアム」が支払われることになりました。
この助成措置は、総額15億ユーロ≒2,000億円でしたから、計算の上ではおよそ58万台分の助成申請が受けられる予定でした。しかし、制度が導入されるとドイツでは小型車への買い替えブームが到来し、3月中盤には40万台を超える申請が行われ、駆け込み的な申請もあって、4月9日現在で、保留分も含めて120万台を超える申請が提出されています。
これを受けて、3月後半から自動車関連の産業などからの要望もあり、3月末には申請期間の延長と総額の積み増しを政府は決定し、最終的には4月8日に総額を35億ユーロ≒4,500億円に積み増しし、両方を合わせた総額50億ユーロ≒6,500億円が尽きるか、遅くとも2009年の年末までこの制度を継続することに決まりました。
この制度に対する評価には以下のようなものがあります:
賛成意見(pro):
- 2008年2月と比較して、2009年2月は小型車では21%増の新車登録が記録された。経済危機で最も打撃を受けている産業のひとつである自動車関連産業に対して、この助成措置が発揮する経済効果は明らかである。
- 燃費・排ガスの悪い乗用車が一掃され、環境性能の高い車が普及した。
- 古い車を所有し、通常であれば新車を購入しないと思われる低収入層に主にこの助成措置は行き届いた。
反対意見(contra):
- 貴重な財源を使って、需要を先食いしている。この制度のみで景気回復は起こりえず、助成制度が尽きたときに、新車販売が落ち込むのは目に見えている。
- 景気と見合わない新車販売の急増で、中古車市場は崩壊を引き起こしている。自動車産業と引き換えに中古車産業を破壊してもよいのか。
- この現象は、中古車の価格破壊へと連鎖しはじめている。
- 高級車や大型車に乗る人は、適度な高さに保たれた下取り価格があってはじめて、新車への買い替えを行うことができる。短絡的な新車小型車需要の影響で、中古車業者が痛み、その痛みが下取り価格へ影響し、めぐり巡って、新車高級車市場に波及する。
- スクラップ業者、リサイクル業界は、人為的に作り出された大量の車の廃棄によって、価格が暴落している。
- まだ使えるはずの乗用車が一掃され、燃費など環境性能が高いとはいえ、使用よりも製造に多大な資源とエネルギーを費やす新車製造を推進している。
- この総額分を減税措置に回したほうが、社会的に公平であり、自由取引市場に強引に関与しないため、副作用のない景気向上効果が得られる。
と、いろいろ並べてみましたが、こんな感じである程度はカバーできていると思います。
私は環境保護の原理主義者ではありますが、社会状況に応じた一定のルールのある資本主義経済をも信仰しています。ですから、基本的にはこうした工業製品・工業活動を対象としたあらゆる補助金には反対の立場です。
しかし、補助金には大別して、
1.その助成措置により、社会に必要だと思われる新技術が普及拡大することで低価格化、技術革新が進展する(フォーカスが必要技術の普及)。
2.その助成措置によって、その産業分野が利益を享受する(フォーカスが産業保護)。
という2つのパターンがあると考えています。1のケースは、代表的なところでは太陽光発電などが挙げられるでしょう。この1のケースであれば、条件などがよく考えられて制度設計されているのであれば、私は賛成できます。でも、2のケースではまったく賛成できません。
もちろん、原則的なことを述べるのであれば、例えば太陽光発電に助成措置などはまったく必要ないと考えています。単に、既存の発電施設(原発や化石燃料による火力発電、ダム式水力)が受けている恩恵を完全になくし、内部コストだけではなく、外部コストまで勘考して価格設定をするならば、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーほど安価な電源は他に見当たりません。それを行うのが無理なのであれば、せめて、補助金で価格の不公正分を調整してという程度なのです。
同じような理由で、下記の省エネ家電へのエコポイント制度も馬鹿げていると思います。
経済産業省案(朝日新聞など新聞記事を参考):
テレビ・エアコン・冷蔵庫のそれぞれに設けられた一定の環境基準を満たす製品を購入した場合、販売価格の5%を「エコポイント」として購入者に渡し、別の買い物に使えるようにする助成制度。地デジ対応のテレビでは、ポイントを10%にする。
なんだかビックカメラのようで呆れてしまいますが、これも期限が区切られている以上、将来需要の先食いであり(白物家電を毎年買い換える人はいないでしょう)、期限が切れたときの反動が気になります。私の記憶では、ビックカメラは期限を区切っていないですから、それはそれで正解なのだと思います(というか、最初からその分、価格を下げて提示・販売しろという私の頭の中に反響している声はどうなりもしませんが・・・価格っていったいなんだろう?)。そうそう、省エネ家電を推進するのであれば、外部コストを精密に負担したエネルギー価格を適正化することがまず第一だと思います。そうなれば、多少の初期投資増大なんて、気にもなりませんし、どのメーカーも最高の省エネ性能のモノ以外は売らなくなるでしょう。
とにかく、ドイツで大方の認識ある新聞・メディアなどでは失敗したという評の高いこうした制度を、日本がいまさら真似するべきではないと思うのです。小型車に特化していた自動車メーカーは、世界中でそれほど苦戦していないのですから。日本車としては必要のない高級・大型・過剰設備路線に走って失敗したのだから、その結果は自身で責任を取るべきです。
そうそう、情報をもう一つ。今年の秋には、ドイツで総選挙があります。大連立の両党ともが、国民受けを同じように狙ってできたこの制度と積み増しの決議、選挙前にはお金をばら撒くというどこの国も政治も同じような状況であったことを付け加えておきましょう。
環境ジャーナリスト 村上 敦
http://murakamiatsushi.de/
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むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
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