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ドイツの未来の都市交通(その1)

さて、5月のドイツは通年も今年も、環境にやさしい交通関連の会議が目白押しです。先週は、ベルリンとヴュルツブルクに出かけて、3つの会議に参加してきましたので、その報告をしたいと思います。また視察も1件行いましたので、その内容も少し報告しましょう。新情報を仕入れすぎて、頭が少しパンクしている状態ですが・・・、整理して報告できるかな?

ドイツの交通・建設・都市発展省(いわゆる国交省です)は、5月4、5日にかけて『アーバンモビリティ研究会議――政と学のダイアローグ(対話)』と題した大掛かりな会議を行いました。これは、現在の大臣の強い希望でもあるこの省のタイトルのうち「都市発展」の部分を強化するために行われたもので、次官による開会のスピーチでもこのことが強調されました。ドイツではこの省のことを通常は「交通省」と呼んでいますんで、そのイメージを少し変えたいということですね。

この会議にはドイツ中の地方自治体の交通計画者などの行政、大学やシンクタンクなど学術関連者、一部の政治家、交通関連企業などが参加しました。総勢250名ほどでしたかね。かなり著名な交通工学者も数多く来ていたので、コーヒーブレイクなどの隙に質問し放題で私は嬉しかったりしたのですが、それはそれとして。

会議も趣旨は、2日間どっかりと腰をすえて将来の都市交通について、最新の研究成果の報告を受けながら、議論してゆこうというものです。そうそう、最近は「都市交通」という言葉は範囲が狭くなるので交通工学や交通行政、交通政策の場面では使われなくなっています。この会議でも広義の「アーバン・モビリティ≒都市における移動)」という言葉が使われていますが、定義に結構大きな違いがあります。

「アーバンモビリティ会議」は、全部で5つの柱で構成されていました。報告や議論された内容を並べ立てるとおそらく皆さん退屈になるので割愛しますが、増加する都市化傾向と加速する少子高齢化、さらに環境への対応を踏まえて、最新技術(主に民)と交通政策(行政と政治)を融合させ、どのように将来を組織してゆこうかというのが話し合いのテーマです。技術に関しては相変わらずのITSによる交通誘導や電気自動車など次世代交通機関、そして次世代の携帯機器を利用した公共交通のEチケット関連の話や利用者への情報提供の話もありました。そうした技術をいかに有効に活用し、技術があるだけではなく、自治体の交通政策にいかに反映させてゆくのかが議論の焦点です。

この会議に参加して最も収穫だったと感じたのは、参加者の意識の高さが反応に見られたことでした。それは、電気自動車に関する最新報告が終わったときの参加者からの質問にも良く表れていました。例えば、ハイデルベルク市の交通計画担当者が主催者の国に浴びせた質問は鋭かったので、少しさわりをここで紹介しましょう:

『私は、この会議に参加することで、将来のアーバンモビリティ問題の解決に関する新たな知識を吸収できるものと考えていました。しかし、ITSや電気自動車などに関する技術ばかりの報告では、まったく益するところがありません。ITSや電気自動車では、現在私たちが抱えている都市交通の問題を解決することありえないからです。電気自動車によって渋滞は解消されません。電気自動車でも都市空間の問題、とりわけ駐車場問題は解決されません。電気自動車でも住居環境を高めることが叶いません。電気自動車を推進しても地方自治体は活性化されません。電気自動車では社会的な経済格差によるモビリティ格差問題の解決に役立たないばかりか、それを一層先鋭化する恐れがあります。

主催者に伺いますが、なぜ、この会議の主題を将来のアーバンモビリティとしているのにもかかわらず、自転車交通や徒歩交通に関する最新の研究成果報告がプログラムに入れられていないのでしょうか? プログラムにあるような自動車交通と公共交通だけでは、現在の都市が抱えているアーバンモビリティの問題解決は図られないと私は認識しています」

イカス質問だと思いませんか? 会場の前方に陣取った交通省の高級官僚相手に、補助金でお世話になっている地方自治体の交通担当者が、このような発言をするわけです。もちろん、会場からは拍手喝采です。というか、ドイツの大学などでは学識レベルの発言に対しては拍手は失礼であり(拍手は芸人や芸術家のためのものです)、同意や賛意を表すときは、机をコンコンと叩く伝統があるのですが、それがこのような趣旨の会場からの質問や意見のときには、数多く聞かれました。交通省の回答は、まあどこの国でもおなじみの、のらりくらりとしたものでしたので、ここでは割愛します。

こうした雰囲気と議論は、会議2日間を通して続けられ、主催者の国+自動車産業やIT産業など大企業+それに群がるコンサルに対して、行政や学識者とシンクタンクは対峙しているという構図が明確に感じられました。こうした雰囲気は10年前にはなかったと参加者は話していました。ドイツはいうまでもなく日本と同じ自動車王国であり、これから先もこの産業が強いことは変らないのでしょうが、地方や知識層からはすでに数多くの別の選択肢が推進されそうなことを予感させた会議になりました。

さて、この会議の後は、すぐに鉄道に飛び乗り、ボーンテ市というところで実施されている「シェアドスペース(Shared Space)」というプロジェクトを視察し、市役所に話を伺ってきました。完成して1年というプロジェクトです。シェアドスペースとはEU主導で行われているパイロットプロジェクトで、道路から標識、信号、横断歩道、歩道、自転車レーン、中央線などのすべての交通インフラを取り除き、まったく平坦な境界の明示のないただの空間(スペース)を造り、交通ルールは譲り合いと各自の注意だけというものにする交通手法です。つまり自動車と自転車、徒歩、車椅子など道路を利用するすべての人が平等にスペースをシェアして道路を利用しようというもので、オランダの交通工学者ハンス・モンダマンが提唱しています。ボーンテ市では、市内中心部を貫く毎日車が1.3万台通過するという結構交通量の多い州道をシェアドスペースに改良しました。これで交通事故を激減させ、交通をスムーズにし、周辺住民の生活環境が向上するというと、信じられますか? 詳しくは次回にレポートしますね。

環境ジャーナリスト 村上 敦
http://murakamiatsushi.de/

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村上 敦
村上 敦
むらかみ あつし

ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い

2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける

専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策

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