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ドイツの未来の都市交通(その3)

さてさて、今回は『国家自転車会議2009』で報告がなされた自転車交通の費用便益比(B/C)に関するお話です。

皆さんは道路がどのように予算を確保して造られてゆくのか知っていますか? 道路を新設したり、拡張する場合、ほとんど例外なく費用便益比(B/C)という数字のマジックで、その計画の妥当性が検証されます。検証されるというと聞えがよいですが、ようは「税金を投入した金額以上に社会的な見返りがありまっせ」という後ろ盾を作って、国交省などの建設関連のお役所は道路建設の予算を確保してゆくわけです。

さて、なぜ私がここで数字のマジックと呼ぶのかについては、2つ理由があります。一つはこの費用便益比(B/C)は数字を任意に操作しやすいこと、そもそもこうした計算にいれるパラメーターが非常にあいまいで、さじ加減次第である程度は融通が利いてしまうことです。でも、まあ、このテーマは少し熱いので、このブログでは詳しく論じません。土木出身のものならたいがい誰でも知っている内部事情については、飲み会などのときにネタとして取っておきましょう

もう一つの大きなポイントですが、それは車交通のインフラに関する費用便益比(B/C)の思想自体、誤っている可能性が非常に高いことです。私自身は誤っていると断言します。

費用と便益を比較するわけですが、分母の費用とは何か、皆さん分かりますよね? 文字通り、投入する税金の金額です。これには毎年発生するランニングコストも含まれます。それでは、分子にあたる便益とはこの場合、何か知っている人はいますか? それは、驚くべきことに「時間」なんですよ。Time is Money。便益は、「走行時間の短縮」「走行経費の減少」「交通事故の減少」という3項目を金額に換算したものが用いられていますが、どれも、その道路ができたことによってルートを通過する時間が短縮される前提で計算されています。

皆さん、この話直感的に正しいものだと感じますか? これは日本だけでなく、世界中で使われている交通計画の手法です。この理論の落とし穴は、道路を作り、区間のスピードを増大させることによって、人の移動行動が変化してしまうことを考慮していない点にあります。というか、そこまでを考慮すると時間の節約がゼロになってしまうので、便益もゼロ。つまり、あえてそれを無視しているといえばよいでしょうか。

ドイツの場合、高規格の道路建設の際の費用便益比(B/C)は、3以上が好ましいと言われています。ですから、この費用便益比があるお陰で、道路はますます高速化する傾向に拍車がかかるわけですね。アウトバーンの時速制限はこれでは導入するわけには行きません。とまあ、なんだか矛盾している話です。

ここ数十年、私たち人類は、生活の中で移動に費やす時間をほぼ変化させていないという事実があります。これは世界中の交通に関する統計調査から明らかだそうです。つまり過去は徒歩での移動でしたから、速度が遅い分、移動範囲は狭かったので、移動に費やしていた時間は今と変らないというわけです。今現在でも、車を持っていない人と持っている人の交通手段はもちろん異なり、スピードも違いますが、一日のうち、移動に費やす時間にはそれほど変化がないことが分かっています。

つまり、道路を作り、もしある区間の移動速度を上げることが可能になると、人は、その分得られた時間を余暇に使うことは考えないで、その浮いた時間を利用してより遠くへ移動するとことを考えます。高速道路やインターが開通したり、例えば最近では「つくばエクスプレス」が開通したりすると、それまでは通勤できなかった人が、通勤が可能となるため、都心部からより外にでてくることは皆さんも理解できるでしょう。新しい道路を作ると、通常は交通の総量が増加することで、その高速化の部分を相殺してしまうのです。

もちろん個人では時間的に得をする人が出てきますが、こうした動きによって、社会的な視点では移動に使われる時間は変化しないというわけです。そればかりか、先進工業国では核家族化が進んだことで、例えば家族の買い物は誰か一人がまとめて行うというような家族間での合理的なロジスティックが機能しなくなったため、生活の中で移動に用いられる時間の割合は年々、微増していると言われています。

時間を節約することが前提で予算を獲得し、道路が造られてゆくのに、移動の時間の総量は増加している・・・とまあ、自動車交通の費用便益計算にはいろいろと問題があるものの、指標としてはあると非常に便利で、政治的には説得力あるものなのです。

そこで、自転車交通の場合も、そうした「あると便利な」指標を作ることができないかということが長年模索され、ようやくドイツ交通省がお金を投入して、研究プロジェクトを行っています。これについては、詳しくは述べませんが、自転車交通にもB/C計算が世界中で適用され、自動車交通のその値と比較できるようになれば、自治体や国も税金を自転車交通のインフラに使いやすくなるというわけですから、今後ともこのテーマに私は注目してゆきます。ちなみにベルリンの自転車レーン新設とハンブルクの駐輪場の新設の事例で行われた自転車交通の費用便益比(B/C)は、2.5~3.5という優れたものでした。ますます、この先のこの分野の研究に期待が持てますね。

さて、この『国家自転車会議2009』の2日目を途中で抜け出し、今度は、ドイツ・カーシェアリング連盟主催の新事例報告会議への参加のためにヴュルツブルク市へ移動しました。ここでは、とりわけウルム市ではじめられた、ダイムラー社(ベンツですね)による新しいカーシェアリング事業の報告を聞いてきました。これは、「Car2Go:カー・トゥー・ゴー」と名付けられたもので、カーシェアリングというよりは、シティカーと定義されるプロジェクトです。乗り捨て可能で、市内にたくさんのハイテク共有車が配置され、新しいアーバンモビリティの柱として将来性が期待されています。これについてのレポートは、EOLニュースの記事で報告していますので、ご参考に。

とまあ、次世代の交通に関してたくさん勉強させていただいた5月のある1週の報告でした。

環境ジャーナリスト 村上 敦
http://murakamiatsushi.de/

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村上 敦
村上 敦
むらかみ あつし

ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い

2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける

専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策

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