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シェルの和解金、『石油を巡る戦争・太陽による平和』

5月末から6月12日までは日本に滞在し、講演活動をしていました。で、ドイツに戻ってから、ようやく昨日までに、その間に溜まった新聞・雑誌の山に目を通していたわけです。6月7日には、EU議会選挙とフライブルク市議会選挙がありましたから、見逃せない情報も多数ありました。

じゃあ、まずは、ドイツの選挙結果の傾向について。国民政党と呼ばれる保守党(CDU党)と社会民主党(SPD党)の2大政党制が戦後から続けられてきたドイツですが、いよいよ、崩壊に達した感があります。とりわけ自由主義・中道右派のFDP党の躍進は著しく、緑の党も局地的には大政党を凌ぐまでに成長しました。今回、EU議会選と同日に行われた大都市、シュトゥトガルト市の市議会選で、緑の党が第一政党にのし上がったのは、驚愕するべき事実でしょう。これに加えて、5%ハードルを常に超えるようになった左派党があいまって、ドイツの政治図は2大政党制とはいえなくなりました。今後は、各地で3党の連立を組まないと過半数が取れない事態が続出しそうです。

フライブルク市の市議会選挙でも、緑の党が第一政党。ただし、フライブルク市の場合、緑の党が支持率を上げているわけではなく、大政党の支持率低下によるもので、その他の小さな政党の躍進が著しいのが特徴です。

こうした事象は何を示しているのでしょうか? まず考えられることは、多様化する社会情勢は、国民層を複雑化しており、それぞれの意見を代表するのには、2つの大政党では間に合わないことです。従来の「ブルーカラー」「ホワイトカラー」という区分けでは、今の社会は説明がつかなくなったということですね。そして同時に、政党自身も訴えかける政策に、明確なカラーがなくなりつつあることも進行しています。保守党は経済優先、社会民主党は社会福祉優先という単純化した枠では収まりきらないのが、今の世の中です。すべての政党は環境保護を訴えていますし、すべての政党は経済対策も強化し、社会福祉も強化する旨を訴えます。ただし、それに伴う財源がない。そんな実情は、日本も含めて、どの先進工業国でも同じで、難しい局面に来ていることを表しています。

と、選挙の情報をいろいろと読んでいましたが、気になるニュースが一つありました。アメリカで行われたシェルを訴えた裁判で、シェルはナイジェリアのオゴニ族の被害者遺族に和解金として15億円を支払ったというニュースです。

http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2610275/4249854
http://www.cnn.co.jp/business/CNN200906090009.html

私が購読しているドイツの新聞では、裁判再開前と和解後など、何度にも分けて大きく取り上げていましたので、日本語で検索してみると・・・日本ではあまり大きく取り上げられなかったようですね。長年、この件に関して、ニュースを追っている私にとっては、非常に残念なことです。

これについて、私の尊敬するジャーナリスト、フランツ・アルト氏の著書『石油を巡る戦争――太陽による平和』から、一節を簡訳、引用してみましょう。
直訳調で少し読みにくいですが、ご容赦を:
http://www.amazon.co.jp/Krieg-oder-Frieden-durch-Sonne/dp/3570500322/ref=sr_1_44?ie=UTF8&s=english-books&qid=1245404415&sr=8-44


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アフリカの石油のために流れる血

「人権をこれほど侵害している分野は、石油産業以外をおいてありえない。黒い黄金から得られる利益のためならば、いくつかの石油コンツェルンは戦争のために資金を提供し、殺人集団を雇い、ある地域一帯を人が住めないようにしている」。これはオーストリアのクラウス・ヴェルナーとハンス・ヴァイスによる共著、『有名企業の告発――多国籍企業の陰謀』という本からの引用である。

 紛争の大陸アフリカにおいては、「その国に地下資源が豊富にあればあるほど、その国民はより貧しくなっている」といった驚くべき社会的現象を観察することができる。石油産出からの金は、ほんの一握りの、すでに十分にたくさんの金を持っている人びとの懐へと流れる。ナイジェリアとシェルの例である。オランダとイギリスの多国籍企業ロイヤル・ダッチ・シェルは、ナイジェリアにおいてすでに45年間にわたって石油を採掘し続けている。過去30年間、世界で3位にランクする石油企業シェルは、西アフリカの独裁者と共に協力関係を築き、事を運んできた。1993年から98年にかけては最も残酷な独裁者アバチャ将軍による惨状の支配が続けられた。クラウス・ヴェルナーとハンス・ヴァイスの言葉である:

「ナイジェリア人1200万人のうちのほとんどが、食料への、健康への、そして教育への道を閉ざされている間に、数十億ドルといった金がアバチャとその家族の持つ合計19のスイス、フランスの銀行口座に投入された。独立を果たした年、1960年には30%の国民が貧困ラインで生活していたが、その数字は1999年には70%へと増加した」

シェルは明らかに独裁者とその一味と同様に、ナイジェリアにおける社会的な破局について責任がある。ナイジェリアでは「Shell to hell」というスローガンがどこでも通用する。

 1995年にシェルは、130トンの油泥と重金属、放射線物質を積載したオイル・プラットホーム「ブレント・スパー」をこっそりと北海に沈めようとしたため、ヨーロッパ中でのイメージが大きく傷つき、苦しむこととなる。グリーンピースはこの事件に反対する派手なアクションを組織した。ドイツでも74%の消費者が、シェルのガソリンスタンドで購入することをボイコットした。コンツェルンは80%以上の損失に苦しみ、降伏した。結局「ブレント・スパー」は合法的に廃船された。

 その少し後には、さらに大きなイメージの破壊がやってきた。ナイジェリアで有名な詩人ケン・サロウィワと8人のオゴニ族の者達は、世界中での抗議にも関わらず処刑されたのだ。アバチャ政権は、彼らが抗争相手の部族の長を殺害した罪を主張していた。

 実際のところ1993年にケン・サロウィワは、シェルのナイジェリアでの陰謀工作に対する1万人規模の抗議行動を組織していた。石器時代なみの産出方法と漏れ放題のパイプラインによって、オゴニ族の住む地区には農作物が育たなくなり、漁業と農業が破壊され、飲料水と大気を汚染されていたからだ。

 この抗議行動に対する独裁政権の反応は、2000人の命を奪うというものだった。作家ケン・サロウィワは、オルタナティブ・ノーベル賞の受賞者でもある。ニジェールデルタ全域においては、1人として彼を死刑執行するものが現れなかった。そこで、サロウィワの死刑執行人は、数千キロの彼方から空輸されねばならなかった。

 アメリカではケン・サロ・ヴィヴァの家族がシェルに対して訴訟している。訴訟の内容は以下のようなものである。

  • シェルはサロウィワを拷問し、殺害したナイジェリアの軍事政権に寄与した
  • 目撃者、証人を買収した
  • 大気と水源を汚染することによってオゴニ族の生活圏を奪った
  • 土地の住民に対する警察や軍隊を投入した
  • 環境破壊に抗議した国民を排除するため、軍に資金と兵器を与えた

「シェルはナイジェリア国内60箇所以上の石油産出所で、産出時に発生するガスを単に(特別な装置なしで)燃やしている」とグリーンピースは抗議している。それによって世界で最大規模の気候破壊ガスを排出しているのだ。グリーピースの調査は次のような報告をしている。「天然ガスの不完全燃焼によって年間1200万トンのメタンガスが大気に放出されている。これはオランダ全土のメタンガス放出量の11倍にあたる」

 シェルにとってはアメリカにおける訴訟での数百万ドルにおよぶ「慰謝料」など問題としていない――この石油コンツェルンは世界中でのイメージの方が重要なのである。

 石油を巡る戦争はアンゴラでも行われている。南西アフリカのこの国の予算の90%が石油輸出から得られているのだ。この収入のうち年間20億から30億ドルの費用をアンゴラ政府は、25年間続いている市民戦争のために出費している。今日のアンゴラでは、対人地雷の被害により10万人以上の人びとが四肢を切断されている。アンゴラは地下資源の豊富な国である。しかし10人の子供のうち3人までが5歳を迎える前に死亡している。1200万のアンゴラ国民のうち80%は貧困層である。250万の人びとが市民戦争による難民となっている。この国の貧窮の原因は、石油メジャーに直結する。この国のエリート達はオイルダラーによって戦いの資金を得ているからだ。

 アメリカとフランスは抗争し合っている市民戦争の両陣営をそれぞれ支持し、兵器の供給により荒稼ぎしている。シェヴロン、トータル・フィーナ・エルフ、BPアムコ、テキサコ、シェル、アジップ、そしてエクソン・モービルといった石油を産出しているコンツェルンは市民戦争の両陣営に資金を供給し、国民の困窮に寄与している。

 フランスの石油メジャー、トータル・フィーナ・エルフは世界で4番目に巨大なエネルギーコンツェルンである。この企業のモットーは「日頃の生活のパートナー」というものだ。クラウス・ヴェルナーとハンス・ヴァイスからの引用である:

「石油コンツェルンのトータル・フィーナ・エルフは、人権の侵害と石油産出という2つのポイントが重なる至るところで活発に活動している。ミャンマーやスーダン(アフリカ北東部にある共和国、1956年に独立)、ナイジェリアなどがそれにあたる」

 石油のための血はスーダンでも流されている。チャドやカメルーンでも2003年から計画されている石油プロジェクトによって、アンゴラやナイジェリアなどと同様の事態の発生が懸念されている。エッソ、シェヴロン、ペトロナスといった石油コンツェルンが、そこで汚れたビジネスを展開するからである。

 アフリカ諸国のほとんどは、石油メジャーが当地で利益をどんどん増やしている一方、借金の泥沼に沈もうとしている。ロイヤル・ダッチ・シェルのモットーは次のようなものである:「誠実と潔白、そして人権の尊重」・・・

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石油でも、レアメタルでも、限られた土地でしか入手できない天然資源には、常に争いを引き起こす危険性が内包されています。オーストラリアなどを除く南側の天然資源に豊富な諸国は、ほとんどのケースで、皮肉なことに紛争や貧困の割合も高いのです。

自然エネルギー、つまり「太陽による平和」を、先進工業国に住み、平和を享受している私たちこそが率先して全力で世界に普及させるべきではないでしょうか。また、だからこそ、こうしたニュースは取り上げる価値のあるものでしょう。首相の毎日のコメントの掲載以上に重要な問題だと私は思うのです。


環境ジャーナリスト 村上 敦
http://murakamiatsushi.de/

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村上 敦
村上 敦
むらかみ あつし

ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い

2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける

専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策

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