サハラ砂漠からのエネルギー供給『DESERTEC』プロジェクト
私個人のブログで「サハラ砂漠からのソーラー電力」に関して記載したところ、そこそこの反響がありました。結構興味深い考察が可能な対象なので、EOLのブログで、少し腰を落ち着けた議論をしてみたいと思います。
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51285640.html
まずは、この議論の対象となる『DESERTEC』と呼ばれるプロジェクトに関して概略を説明しましょう。というか私自身がここで説明しても繰り返しになるので、以下のアドレスでお調べください:
http://www.desertec.org/en/ (英語)
http://www.munichre.co.jp/public/PDF/Topics_DESERTEC_info.pdf (日本語)
簡単に説明すると、欧州と北アフリカ、そして近東をくまなく大容量の電力系統(直流高圧送電網)で結んで、この地域の電力供給を、将来的には自然エネルギーのみによるCO2フリーにしようというプロジェクトです。
私の目から見て、ポイントは3つあります。
1.使用する技術(その1:Concentrating Solar Thermal Power Plants, CSP):サハラ砂漠など、無尽蔵に太陽エネルギーが照り付けているところで、「太陽熱発電所:CSP」を建設し、海沿いの風力発電、分散型の各種の再生可能エネルギー発電と連携で稼動させるというものです。
太陽熱発電とは、数多くのミラーで太陽熱を1箇所に集光し、特殊なオイルや液体などを触媒として、高温・高圧の蒸気を発生させ発電する方式(カリフォルニア、スペインなどですでに稼動しているガンダムのソーラーレイのような施設ですね)や、あるいはパラボラミラーでガラス管に集光し、スターリングエンジン、あるいは蒸気などで発電する(これもアメリカ、スペイン、オーストラリアなどですでに稼動しています)というタイプの発電です。
http://www.youtube.com/watch?v=QXURvISjh2A&eurl=http%3A%2F%2Fwww%2Edesertec%2Eorg%2Fde%2Fstiftung%2F&feature=player_embedded
その熱は、貯蔵しておくことができるのが特徴です。夜間・悪天候など欧州において日射がない時間帯に向けて、塩を触媒にして貯蔵し、任意の時間帯に発電することが可能となります。風車やソーラー(PV)で賄いきれない際に、それを補って供給するわけです。また、この施設では廃熱を利用して、電力と同時に、真水と冷房・冷蔵という能力を提供できるのも利点として挙げられます(いわゆるコージェネとして機能します)。近東や北アフリカでは、エネルギー、とりわけ電力の需要量の急騰傾向が観察されており、かつ、温暖化の影響で降水量が減少していますから、地域のための技術、プロジェクトでもあるのです。
2.使用する技術(その2:高圧直流送電):欧州、北アフリカ、そして近東を直流の高圧送電線網で結ぶ必要があります。このプロジェクトのみそは、まさにこの点にあります。ドイツ企業・シーメンス社などは、この技術に進んでおり、中国、北海などではすでに一部、大掛かりなものが実用されていますし、世界中で技術革新と普及が続いています。
http://www.tdupress.jp/book_da/ISBN4-501-10830-4.html
とりわけ、この送電網を完備した際には、運用の際に送電ロスを10~15%以下に抑えられるであろうというのが利点となります。系統の設置費用やこうしたロスなどを含めると、一昔前に案として浮上していた「サハラで水素を作り、それを欧州に運び、発電する」というものよりも経済性が比べ物にならないほど高いといわれています。
3.政治とお金:電力系統への投資も多大ですし、発電所の建設にもお金がかかります。プロジェクトの総額は今のところ4,000億ユーロ(≒50兆円超)と見積もられています。うち、送電網への投資が450億ユーロです。ただし、金融危機で各国が簡単に銀行や産業に投資した額と比べれば実現不可能であるとは一概に言えません。また、このプロジェクトは30カ国が10年間をかけて実現するものであるため、理論上は平均すると、各国の電力系統に対する負担は毎年1.5億ユーロ(≒200億円)となります。
お金の問題と同時に大きな障害となるのが、近東、および北アフリカの政治的な安定性、社会の安定性です。これだけの大掛かりでお金の絡むプロジェクトですから、ドイツが声をかけて、すぐに応答し、実現するというシナリオにはならないでしょう。また、実現したとしても、天然ガスパイプラインと同じように、関係諸国の政治的なカードとして使われたり、テロによる欧州のエネルギー安定供給のリスクが高まることは避けられないでしょう。技術的にできることと、政治的に確実なことは違うわけです。
さて、このプロジェクトが公表され以来、ドイツの産業界、政治家、研究者、そして環境保護者の中において多用な議論が噴出しています。自然保護者、環境保護者、温暖化対策推進者の中でも賛否が分かれているのです。ここでは、ProとContra(賛成/反対)という形で、それぞれの論点について取りまとめてみましょう。
1.Contra:分散型で自給型のエネルギー供給という点が再生可能エネルギーの最大の役割であり、利点・特徴であるのに、化石燃料の場合と同じく、北アフリカ、近東という政治的に不安定なところに依存する形態を目指すのは矛盾。
Pro:DESERTECの太陽熱発電施設は、一国だけに設置するわけではなく、他国に設置する。送電網も30カ国で分散して、リスクを回避する。どこかの特定国にすべて依存するわけではないため、その懸念は必要なし。
2.Pro:既存する技術、とりわけドイツが今持っている技術で、論理上はこの大地域の100%再生可能エネルギー社会を構築できるため、直流送電網は少々高くとも推し進めるべきであり、このプロジェクトはグリーンニューディール政策の本筋である。欧州の雇用と経済のためにもなり、同時に北アフリカなどのインフラ整備や生活環境の改善にも役立つ。
Contra:このような政治的な不安定な地域にモンスター事業を推し進めるためには、途方もない時間と費用が必要。もしこれについて本気で議論・検討してゆくと、現在成長中の分散型の再生可能エネルギー推進がおろそかになる可能性がある。今は、既存技術の効率の向上を図り、地域内で取れる再生可能エネルギーの推進という一点に視点を集中すべきで、輸入を前提とする形態を議論すべきではない。
3.Pro:今後5年間でPV電力は半額になる可能性が大きく、一般電力の消費者価格を下回る。したがって分散型のPV発電の推進がおろそかになることはない。その5年後の時点であっても、南ヨーロッパ、北アフリカ、近東での太陽熱発電は、PV発電の半額になる見通しなので、夜間のベースロードとか、PVで不足する分を補うには、海岸線上の風力と並んで(系統させて)、太陽熱発電は理想的。
Contra:大手コンツェルン(ドイツ銀行、電力大手E・ONとRWE、シーメンスなど)の絡んだこのプロジェクトは、小さな分散型発電の一大普及を遅らせるのが目的のようにも見えてくる。再生可能エネルギーを推進することは、地域の中小企業を活性化し、地域で雇用を生み出すことにつながる。こうした配慮のない、巨大プロジェクトは地域経済のためにはならない。また、経済的な波及効果や社会におよぼす影響や価値などを考慮しない、単なる発電単価での議論は意味がない。いくらサハラの太陽電力が半額であっても、地域で生み出される分散型電力の価値とは直接的には比較できない。
3.Contra:政治的に不安定な地域で、この事業が完成するのはいつの時代になるのか。2020~2030年までにドイツ国内でもおよそ半分の電力は分散型の再生可能エネルギーで供給できる可能性がある。こちらのほうが優先順位は高い。また、こうした努力・推進をすばやく進め、ポテンシャルを有効に活用し、省エネを推し進めても、電力が足りないということであれば、その時点で、サハラ電力の輸入を検討し、すばやく実現するほうが得策。今の時点で議論の必要性はない。
Pro:ドイツ国内の自然エネMIX、スマートグリッドなどを活用すれば、民生分野における電力需要は自然エネルギー分散型供給で賄える日が来るかもしれないが、産業におけるピーク時の電力供給をそれで行うことはほぼ不可能だ。DESERTECによって原発や化石燃料に頼らないインフラを整備するためには10~15年という時間もかかる。今のうちから議論し、積極的に推し進めておくことが必要。
というような感じで、同じソーラー推進者であっても、このプロジェクトに対しては、対立する構造となっています。
皆さんは、どう思われますか? ちなみに私は、サハラでの太陽熱発電は、サハラ地区での電力供給に利用すべきで、欧州まで引っ張ってくる必要性を「今のところ」感じません。
ドイツがわずかこの10年間で、すでに電力供給の再生可能エネルギー割合を3%から16%まで上昇させて供給できるようになったのは(分母の電力消費量も急増しているにもかかわらず)、後のことは問題が出てきたときにすばやく対処するという方針で、フィードインタリフという強力な法律で「走りながら考える」という政策の恩恵です。
ここが日本の「もし進展・拡張した場合に、系統はどうするの?」「蓄電はどうするの?」というような経済産業省、エネ庁、電事連の思考法という「走り出す前に止まって考える」とは違う最も重要なポイントです。
DERSERTECプロジェクトは、近い将来に省エネを徹底させ、高度なスマートグリッドが導入され、再生可能エネルギー発電を60%前後まで上昇させたその時点で、すばやく検討すべきであり、今の時点でどうのこうの政治的な議論をするべきではないというのが私の考えでもあります。これに対する私見をいくつか述べておきましょう:
1.実現の見通しが10~15年後としているが、これは政治的な観点から、誇張に等しいと主観的に感じます。「50年後にイスラエルの原発電力をイランに送電できる」ということを予測できる人はいません。同じように、この場合、技術的に可能なことと、政治的に可能に「なる」ということは質的に意味が異なります。
2.ドイツでも(日本でも)、こうした際に出てくる「総工費見積もり」で収まった巨大プロジェクトを私は知りません。直接的な工事費ばかりか、政治的な間接費を含めて、金はほぼ無限に近くかかると主観的に感じます。
3.現在の再生可能エネルギーの進展状況(技術・政策・普及・コストダウン)を見ていると、それだけの莫大な金があるのであれば、その一部であってもドイツ国内にインフラ投資したほうが、ずっと早い時点で分散型の自然エネルギー供給が確立するだろうと主観的に感じます。またその際に、省エネを推進することが何よりも必要です。
4.巨大で独占の電力事業者2社、そして原発・兵器大手のシーメンス社が積極的に絡んでいるので、きな臭いと主観的に感じます。今年9月に行われるドイツ総選挙の結果次第で、ドイツの脱原発政策が延長・延期されるようなことがあると、このプロジェクトに対するトーンはもちろん下がると思います。
5.北アフリカ、近東でのエネルギー消費量は急増中であり、これを補うために、化石燃料で、あるいはフランスから技術輸出の原発で賄うことは避けたいと個人的には強く願います。ですから、このエネルギー需要は、DESERTECコンセプトにあるように太陽熱発電で賄うべきでしょう。とりわけ北アフリカに対しては、技術的にも、資金的にも、ドイツや欧州は支援する必要があります。海水の脱塩に関しても緊急になにか対策を行う必要があります。とりわけ温暖化による水不足の原因は、この場合、あくまで欧州であり、アフリカ諸国ではありません。もしDESERTECコンセプトに書いてある綺麗事が、綺麗事でないのであれば、欧州への電力供給という視点はとりあえず棚上げしておき、まず現地のための太陽熱発電所の普及を目指すべきでしょう。
ここにも挙げましたように今年の9月には総選挙があります。保守政党が大勝するならば、脱原発の期限を延長する可能性があります。またCOP15によって出てくるポスト京都での結果にもこのプロジェクトへの熱は変化すると考えられます。どちらにしても、このプロジェクトは、サハラ砂漠だけなく、中国、アメリカなどに応用可能なビジネスモデルとしてもコンセプトが練られています。
今後の進展にも耳を傾けてゆきたいですね。
環境ジャーナリスト 村上 敦
http://murakamiatsushi.de/
環境先進国ドイツから最新のエコ情報を発信!
むらかみ あつし
ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身
日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学
フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介
南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い
2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける
専門分野:
1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画
2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策
オフィシャルサイト
www.murakamiatsushi.deフライブルクから地球環境を考える
〜村上 敦のエコ・エッセイ〜
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/
村上敦氏来日!
全国各地にて講演会開催!
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