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食べ物のオーガニックは少しずつ広がりを見せている。じゃぁ、私たちの暮らしで一番身近に自然を感じる場所、「庭」はどうだろう。ちょっと見方を変えてみると、庭は思いがけず楽しい場所になる。 自然が息づき循環する、そんな庭づくりを提案している植木屋さん夫婦、曳地義治(ハル)さんとトシさんを訪ねてみた。 |
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オーガニックは断然、おもしろい 「庭のバリアフリーですね」、そう言ってご主人のハルさんが穏やかに話し始めた。 「この木製花壇は、足腰が少し弱い人でも体を支えながら楽に土いじりができるよう、高さは70センチにしてあります。40センチのほうは、お年寄りがイスに腰掛けて作業がしやすい高さ。車いすの方でも作業しやすいんです」。 すると今度はトシさんが、「それは結局、障害のある人やお年寄りじゃなくても、普通の人にも使いやすい庭っていうことなの。気軽に庭に出て、植物に目が行き届いて手入れも楽にできる。こういうことが、オーガニックで庭づくりをする前提条件になってくるのね」とテンポ良く加わる。ハルさんとトシさん、絶妙のコンビネーションだ。 二人の仕事は植木屋さん。それも、農薬や化学肥料を一切使わない庭づくりを提案する、ちょっと珍しい植木屋さんだ。 食のオーガニックはわかるけれど、庭のオーガニックって?と思う人のために、少し説明しよう。自然界には生態系が存在して、生き物はすべてバランスを保ちながら暮らしていることはご存じのとおり。でも、ふと私たちの庭先に目を転じると、虫を全部農薬で殺してしまうから鳥すら訪れてくれない、草花以外の生き物の息吹が感じられない場所になってしまっている。そこで、不自然な人手の介入をさけて、生き物たちのあるがままの姿を身近なところで楽しもうというのが二人の薦める庭づくりというわけだ。それに、実はそのほうが草花も元気になって私たちの目を数倍楽しませてくれたりもする。オーガニック野菜と同じで、オーガニックな庭はずっと味わい深いのだ。 跳び越えてはじめて見えたもの 実は二人のうち、最初から植木屋だったのはハルさんだけ。トシさんのほうは、結婚して、ハルさんの営む植木屋業の掃除から少しずつ手伝うようになっていったのだそうだ。 「最初は掃除すらちゃんとできなくて悔しかったなぁ。虫も怖くてね。でも調べるうちにだんだん好きになっていって、今では専門家並に詳しいわよ」と笑う。 普通の人にとって、虫がいても穏やかでいられるのは大自然の中での話。自分の庭やベランダでイモムシに遭遇したら、やっぱりギョッとしてしまう。退治もしたくなるというものだ。はじめはトシさんもそうだったというが、それが今や、「姿形が気持ち悪いからって害虫扱いされるのはひどすぎる! クサカゲロウやテントウムシはアブラムシを食べるんだけど、幼虫の頃はグロテスクな姿をしているからそれだけで嫌われちゃうの。本当は益虫もたくさんいるのよ」と、まるで虫の弁護士。ともすると一日中虫のことを考えてしまうくらいの惚れ込みぶりだ。これほどまでの虫好きへと変わったのは、普通の植木屋さんからオーガニックな植木屋さんへの転身がきっかけだった。 「ハルが体調を崩して、やっぱり農薬とかって気持ち悪いなって思うようになったの。でもハルは今までの経験に縛られてしまって、農薬を使わない仕事なんて考えてもみなかったのね。私にはそんな固定観念がないから、だったら農薬やめちゃおうか、って」。こうして、悩んでいるハルさんの手を取ってヒラリと垣根を飛び越えてしまった。 農薬をやめてみると草木が元気になった。元気な木には虫も大量発生などしない。もししても、天敵がキチンと食べて上手にバランスをとってくれる。自然の掟をそのまま庭に持ち込んだ結果、気が付けば、思っていた以上の好循環が小さな庭に生まれていた。 だからオーガニックはやめられない 無農薬にこだわってよかったこと、それはやっぱりお客さんが喜んでくれることだとトシさんは言う。「庭の木が元気になった気がする、とか、鳥が来るようになったら虫が減ったみたい、なんて言われると、やってきてよかったってしみじみ思うのよ。なんて言いながら、お客さんの庭で育った恵みを分けていただいたり、珍しい虫を見つけると庭でそのまま激写大会になったり、すっかり自分たちが楽しんでしまっているんだけど」と、トシさんはまた笑う。そんなトシさんを、ときおりうなずきながらハルさんが優しく見守る。 仕事の仕方を180度変えることは簡単なことではなかっただろう。でも二人を見ていると、とても自然体だ。二人に庭の手入れを頼んでいるお客さんにとっても、こんなにおおらかで気持ちのいい植木屋さんが来てくれることは、庭の木が元気になるのと同じくらいうれしいことなのではないかと思う。 気持ちのいい植木屋さんが気持ちのいい庭をつくる。いや、自然のままの気持ちいい庭をつくり続けてきたから気持ちのいい植木屋さんになっていったのか。いずれにしても、農薬や化学肥料を使わない自然な庭づくりというのは、植物、昆虫、鳥、そして私たち人間、全ての生き物にとって健全で心地良いことにかわりはなさそうだ。 「昆虫や鳥は危険なものを本能で感じ取ります。人間は彼らの足もとにも及びません。オーガニックな庭から学ぶことは本当に多いんですよ」。 最後に結んだハルさんの言葉に、今度はトシさんが大きくうなずいた。 文=中島まゆみ 写真=黒須一彦
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![]() ![]() ![]() 曳地義治(ひきちよしはる) 1956年、東京都立川市生まれ。木工業、ログビルダーなどを経て植木職人となる。料理が得意。 曳地トシ(ひきちとし) 1958年、神奈川県真鶴町生まれ。平和・人権・環境に関する市民団体のスタッフを経て植木屋へ。趣味は石けんづくり、裁縫、読書。「NPO法人 日本オーガニック・ガーデン協会」代表理事。 ひきちガーデンサービス
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