素晴らしい音楽が聴こえる世界が続くように

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ヴァイオリニストの宮本笑里さんに

お話を伺いました。

取材・文:温野 まき 撮影:織田 紘

宮本 笑里 (みやもと えみり)さん

14歳でドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第1位入賞。小澤征爾音楽塾・オペラプロジェクト、NHK交響楽団、東京都交響楽団定期公演等に参加。「のだめカンタービレ」(フジテレビ系)に出演、サッポロビール「ヱビス〈ザ・ホップ〉」CMキャラクターとして、父である元世界的オーボエ奏者宮本文昭と競演するなど、 デビュー前から多数のメディアに出演。2007年に『smile』でアルバムデビューし、今年9月3日には2枚目のアルバム『tears』がリリースされた。10月24日からリサイタルツアー2008"tears"開始。

 

『そらべあ』をひと目見て気に入って...

 8月17日、「そらべあ夏祭りin Smaile Mediage♪」の会場となった、お台場メディアージュの屋内広場に、豊かなヴァイオリンの音色が響いた。

 北極の氷が溶けて、母クマとはぐれてしまったシロクマ兄弟の絵本『そらべあ』に親しんでもらおうというイベントで、絵本の朗読会と、ヴァイオリニストの宮本笑里さんによる演奏会が行われたのだ。

 この日、宮本さんが演奏したのは、9月3日にリリースされたアルバム『tears』にも収録されている「THE世界遺産」(TBS系テレビ)のメインテーマ曲「Les enfants de la Terre〜地球のこどもたち〜」と、そらべあのテーマ曲「そらべあ物語」。

 休日の思いがけない演奏会に、多くの人が足を止めて聴き入っていた。恵まれた容姿と、聴くものを惹き込む確かな力量。"天は二物を与えた"と賞賛されるのもうなずける。

 演奏後、宮本さんに、そらべあとの出会いを聞いてみた。

「自分でも絵を描くのが大好きなので、絵本の『そらべあ』をひと目見て気に入ったんです。短い話ですが、内容が深いし、絵もかわいくて味わいがありますよね。ぜひ、演奏したいとお引き受けしました」

 完成したアニメーションは1分40秒ほどの台詞のない短編作品で、美しい楽曲と、のびやかなヴァイオリンの旋律が物語を彩っている。 

「羽毛田丈史(*1)さんのデモテープを最初に聞いたときに、私がイメージしていたよりすごくドラマチックで素敵な曲にしていただいたという印象でした。大曲が1分ちょっとに凝縮されている感じでしたね。私の夢のひとつとして映画音楽にも携わってみたいと思っていますので、今回のように絵と音楽だけで表現するというのは貴重な体験でした。とても気に入っています」

 

小さなことでもエコにつながれば

 地球温暖化という大きな問題を、特に子どもたちにわかりやすく伝えたいという思いで作られた『そらべあ』だが、今年の夏は猛暑と大雨が続き、誰もがいままでとは違う異変を実感したのではないだろうか。宮本さんも、この夏の猛暑には首を傾げる。

「なんだかおかしいって感じます。去年よりも気温が上昇しているような気がして、数年後にどうなってしまうんだろうと思うと怖いですね」

 実は、宮本さんは幼い頃から、"音楽"と"環境への配慮"を生活のなかで自然に学んできた。オーボエ奏者として活躍されたお父様(*2)の仕事の関係でドイツに滞在することが多かったのだ。ドイツは優れた音楽家を多く輩出しているだけでなく、いまや環境先進国としても知られている。

「中学生くらいになって気づいたことですが、ドイツでは学生の間でもゴミの分別に厳しかったんです。マイバッグを持つのは当たり前で、レジで袋は無料ではもらえませんでした。比べてしまうと、日本の暮らしのなかで、もったいないと思うことはよくありますね」

 買い物だけでなく、家のなかでもなるべく無駄をなくすよう心がけているという。

「私の場合は、小さなことでもエコにつながればと思ってやっています。たとえば、フライパンの底にちょっとでも水滴がついていれば、その分よけいにエネルギーが使われてしまうので、水滴をふきんで拭くというようなことです。もともと母がそういうことにこまめですね。ガスコンロが汚れていると火力が弱まるので、きれいに掃除したり、鍋から火がはみ出さないように...というようなことは普段から気をつけています」

 

ヴァイオリンは生きている

 音楽家としても地球環境は大きな関心ごと。なぜなら、ヴァイオリンのような楽器は木でできており、名器と言われる楽器を作ることのできる木は年々手に入りづらくなっているからだ。

「私にとって木はとても身近で、形を変えても生きているっていう感覚があります。ヴァイオリンも呼吸をしていて、暑すぎても寒すぎても割れてしまいます。だから、大切にしたいですね。いまは、楽器が古ければいいという考えもだんだん変わってきていて、もう1600年代の楽器は使えなくなってきています。楽器に使われる木がどんどん減ってしまうということは、将来、子どもたちが楽器を使いたくても使えなくなってしまうかもしれないということです」

 素晴らしい音や音楽を後世に伝えていくことは、音楽家としての大きな役割のひとつ。だからこそ、日常のなかでも環境への配慮を自然に行えるのかもしれない。

 さて、そんな宮本さんが約1年ぶりにリリースしたアルバム『tears』は、カノンやチャールダーシュといった宮本さんが愛するクラシックの小品や、人気作曲家による書き下ろしオリジナル曲など、クラシック初心者にも十分楽しめる内容となっている。

「自分でも贅沢な1枚になったと思います。私自身、どちらかという小品やわかりやすい曲が好きなんです。聴いていただく方にも、こういった曲を入り口として、クラシックを身近に感じていただけたらうれしいですね」

 シンプルな曲だからこそ、表現したいことはそのまま伝わってくる。そういう意味でも『tears』は、ひとりの音楽家の魅力がいっぱいに収められたアルバムと言っていい。

 今後も宮本さんは、そのピュアな感性のまま、私たちに素晴らしい演奏を聴かせてくれるだろう。彼女が大切にしているヴァイオリンの呼吸に寄り添いながら。

 

(*注釈)

*1

羽毛田丈史...作曲家、編曲家、ピアニスト。ゴンチチ、葉加瀬太郎、元ちとせ等のアレンジ・プロデュースや、数々のテレビ番組に楽曲を提供し、自身もソロアルバム『PRESENTS』をリリースしている。今夏にはアニメーション版「そらべあ」のテーマ曲を手がけた。

*2

 宮本文昭...オーボエのソリストとして世界的に高い評価を得た後、2007年にオーボエ奏者としての活動にピリオドを打つ。東京音楽大学オーボエ専攻の教授として後進の指導に取り組むほか、指揮者としても活躍。著作や講演活動も行っている。

 

サイト

宮本笑里オフィシャルサイト

URL: http://emirimiyamoto.com/

 

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