チョコを選べば、世界が変わる

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チョコレボ実行委員会 発起人・代表の

星野智子さんにお話を伺いました。

 

取材:温野 まき 撮影:織田 紘

星野 智子 (ほしの ともこ)さん

東京生まれ。チョコレボ実行委員会の発起人・代表。環境カウンセラー、株式会社インヴォルブ代表取締役。2001年、夫の転勤に伴い英国在住中に大好きなチョコレートの裏側のビターな現実に出会う。その後の9.11を継起に、持続可能な社会のあり方について考えるようになる。2006年、誰もが少しずつ参加できるような身近なアクション「チョコレボ」をスタート。個人の有志や企業との連携により「チョコを選べば、世界が変わる」を合い言葉に展開中。

 

チョコレートのビターな現実

「チョコレートがあれば幸せ!」という、自称チョコマニアの星野智子さんが、チョコレートの「ビターな現実」を知ったのは、2001年のことだった。

「夫の出張で1年半くらいイギリスに滞在していたのですが、たまたまBBCテレビの特集で、西アフリカで起きているカカオ生産にまつわる児童労働や人身売買の事実を知りました。子どもたちが学校にも行けず、カカオがチョコレートになることも知らずに一日中働かされ、奴隷のように売買されるケースがあるという内容だったんです」

 カカオ農園におけるこうした児童労働者は25万人以上にも及ぶという。思いも寄らなかった現実を知って、自分を幸せにしてくれていたはずのチョコレートへの見方が変わった。さらにその年、9.11の同時多発テロが起こる。

「背景には、貧困や貿易の格差といった問題もあるのではないかと、自分のなかでつながってしまった。何かしなくてはいけないと」

 世界で起きている不平等に目を向け始めた一方で、フェアトレードに出会ったのもその頃だった。フェアトレードとは、貧しい人々から不当な搾取を行わない公平な貿易のこと。イギリスでは、デパートやスーパーでフェアトレード商品を買えるので、途上国への支援をより身近なかたちで行うことができるのだ。

「フェアトレード商品を買うなら、誰でも参加できると思いました。ただ、こうした土壌には、イギリスの市民活動の成熟があります。ごく一般の家でパーティが開かれた場合でも、必ず施設や途上国への寄付が行われるような国ですから」

 ところが、帰国すると、日本では途上国への支援などの社会的な活動は限られた人たちのものだった。

「誰でも参加できる仕掛けがあればいいのに----」と思った星野さんは、チョコレートならそんなきっかけをつくれるのではないかと考え始めた。

 なにしろ日本には、年に一度、みんながチョコレートに目を向ける日がある。そう、バレンタインデーだ。

 

若い人たちがチョコレボの原動力

 まず始めたのは、mixiやメールやブログなどで、なるべく多くの人たちにチョコレートの"裏側"を知ってもらうことだった。星野さん自身も環境関連のセミナーなどで勉強し、社会的な活動に関わった。イギリスに行く前はナレーターや司会の仕事をしていたが、帰国してからは専業主婦としてボランティアに徹し、とにかく体当たり。そんな熱意が少しずつ共感を呼び、協力者が現れ、さらに広がって有志が集まってきた。そして、2006年の春に「チョコレボ」をスタート。

「チョコレート・レボリューションの略なんですけど、チョコレボっていう響きがいいなぁと持っています。スタートした年の秋には、環境省主催のライフタイルフォーラムに、テントひとつ借りて参加しました。これが本格的な活動の始まりでした」

 ライフスタイルフォーラムは、「地球と共生するくらしかた」をテーマに、みんなでライフスタイルを考えていく催しだ。

「フェアトレードチョコに、ブースのテーマをしぼりました。チョコレートの試食会をして、フェアトレードを普及している第3世界ショップ(*1)やピープル・ツリー(*2)、スローウォーターカフェ(*3)などの活動を紹介し、パネル展示やトークセッションをしたんです。この日、大雨が降ってしまって、催しが中止になるかと思ったのですが、開場と同時に人がどんどんやってきて、私たちのテントには傘をさした人たちの立ち見が出るほど。チョコレートに関心がある人たちがこんなにいるのか...と、驚きと同時にとても嬉しかったです」

 2009年4月現在、mixiのチョコレボ・コミュニティには、1300人以上が参加している。チョコレボの中心メンバーには、コピーライターやデザイナー、マーケティングや広報を得意とする人など、それぞれの分野で活躍する人たちが集まっているというのも頼もしい。

「20代、30代の働き盛りの超忙しい人たちが、貴重な時間をつくって動いてくださった。若い優秀な人たちに教えてもらうことが本当に多いです。事務所もないので、朝の8時からカフェでミーティングしたりしていました」

 若い人たちは、チョコレボ活動の大きな原動力だ。

「特に学生のみなさんの間でフェアトレードへの問題意識が高まっていて、平日のボランティアスタッフとして力になってくれています。各大学が横つながりになっている『フェアトレード学生ネットワーク』(*4)などもあり、時には主体になって応援してくれているんです」

 

メインストリームが変わっていくことを夢見て

 個人だけでなく、企業もチョコレボに注目し始めている。期間限定で、フェアトレードチョコのセレクトショップのオープンが実現したことが新聞記事になり、バレンタインシーズンには、これまでにもイオン、高島屋などが、チョコレボコーナーを設けてくれたほか、伊勢丹、小田急、阪急百貨店などもさまざまなかたちでフェアトレードチョコの販売を行った。またミニストップは、自社商品の「ベルギーチョコソフト」にフェアトレードチョコを使用する商品販売企画にあたり、チョコレボに協力を求めた。昨年末のエコプロダクツ2008で、「チョコレボ@エコプロ」のブースが多くの来場者を集めたことも話題になった。

「今年の3月に、niftyとのコラボレーションで行われたブロガーズアクション『ブロガー meetsチョコレボ!!』も大盛況でした。お台場の東京カルチャーカルチャーで行われましたが、参加者希望者が多くて抽選になるほどの反響だったんです」

 チョコレートという小さなツールが、「チョコレート大好き」という人たちの賛同とともに大きな動きになっていることを星野さんは感じている。まず、目を向けてもらい、その先にあるさまざまな問題に思いを巡らせてもらいたいという。

「実は、日本で生産されている一般のチョコの原料は70%が西アフリカのガーナ産です。なのに日本で手に入るフェアトレードチョコは中南米産のものがほとんど。私が最初に出会った西アフリカの問題に、日本人としても向き合っていきたいですね」

 安価な原料調達のために、低い賃金で子どもたちが働き、カカオが単一栽培で大量生産される。大量生産を繰り返すと土壌は疲弊し生産性が低下するため、農薬を使用し、森林を伐採しながら新たな畑をつくる。無理な生産にさらに子どもたちがかり出されるという悪循環。私たちが100円で手に入れるチョコレートには様々なプロセスがある。

「コーヒーなどと比べると、チョコレートは加工の行程がいくつもあります。私たち消費者ばかりか、チョコレート産業に関わる人々にも調達の源の情報が見えない。分断されている情報をつなげて、みんなに見えるようにしてく過程は、チョコレートだけでなく、ほかの物にも応用できると思います。みんながこうした問題を知って、それらを解決するハッピーなニーズが広まれば、企業にとっても商品の新たな価値になっていくはずです。それがメインストリームになっていけばいい」

 物があふれているからこそ、企業のフィロソフィー(哲学)ある商品を消費者が選ぶようになっていくと星野さんは考える。ガーナと日本の間に人と地球に優しい調達のパイプをつくることを当面の目標にし、いずれはオリジナル商品の第一次加工を現地で行って雇用を創出するのが夢だ。

 夢の実現には、人、そして企業との連携が欠かせない。

「いまのままのボランティアの任意団体では責任を果たせないことも実感しています。プロフェッショナルであるにも関わらずボランタリーで協力していただいている人たちに引き続き関わってもらうためには、人件費を稼げるくらいのビジネスにはしていかなくてはいけないと思っています。利益を得て、次の活動につなげていく健全な姿を目指したいですね」

 世界的にも国内でも厳しい時代だからこそ、「しかたない」で終わらせず、「チョコのハッピーな革命で、元気のもとをつくりましょうよ」と星野さんは、目を輝かせて語ってくれた。

 

(*1)第3世界ショップ  http://www.p-alt.co.jp/asante

(*2)ピープル・ツリー  http://www.peopletree.co.jp

(*3)スローウォーターカフェ  http://www.slowwatercafe.com

(*4)フェアトレード学生ネットワーク  http://www.ftsnjapan.org

 

サイト

チョコレボ実行委員会

URL: http://www.choco-revo.net

 

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