【イギリス発】気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は変われるか?

 IPCCとパチャウリ議長は、かつて無い危機にさらされている。2035年までにヒマラヤの氷河がすべて溶ける可能性がある、という誤った報告をしたことと、IPCCの科学者達のメールが不正に流出し、気温上昇は人為的原因であるという証拠が意図的に操作されていたと疑われた"クライメートゲート事件"が原因だ。温暖化の主要因は人間活動だという議論を定着させ、アル・ゴア氏と共に2007年のノーベル平和賞を受賞したIPCCが、今後も世界中の政府機関の気候変動に関する政策決定において、中心的役割を果たすためにどうすべきかをイギリスのガーディアン紙がまとめた。

●政治的ミス!?

 あまり知られていないが、IPCCのレポートは科学者がすべてを書くのではない。政治家が最終章「政策決定者向け要約(SPM)」の文章表現を決定している。ガーディアン紙はこの点を疑問視している。かつてIPCCレポートの主筆をしていたアントン・イメソンは「IPCCのレポートは単に出版された論文のレビューに過ぎず、独立した科学者が作成したものではない」という。しかし、英国南極研究所で以前気象予報士をしていたウィリアム・コネリーは、レポート全部を科学者で作成する余裕は無いとも指摘する。

 

●スタッフ増員が急務

 IPCC年間予算(約5億円)は、人口約23万人のサウサンプトン市の道路清掃の年間予算(約11.2億円)の半分以下。つまりIPCCのレポートは何千人もの無償ボランティア科学者達に支えられている。ガーディアン紙は、IPCCのレポート作成プロセスを更に専門的にするために、これでよいのだろうかと問う。パチャウリ議長はIPCCがすでに人員増員によって組織強化に向けての作業を始めているという。2035年氷河問題はプロの編集スタッフがいれば防げた可能性がある、とIPCCの第二次作業部会の新部長クリス・フィールドは指摘する。2007年レポートの主筆を務めたStratusコンサルティングのジョエル・スミスは「IPCCが取り組む議題は政府から来るべきだが、いったん議題が決定したら、IPCCは政府から独立したプロセスで動くべきだ。そのためには常勤の専門スタッフを増員する必要があるかもしれない」という。

 

●構造的問題

 1988年に設立されたIPCCは3つの作業部会から成る。氷河問題は第二作業部会の担当箇所が適切なチェックを受けなかったことが原因だという。より入念な品質コントロール基準が必要なだけでなく、より透明性のあるプロセスが必要だと言うのは、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のジョン・ロビンソン教授。

 

●レポートとタイミング

 IPCCのレポートは6年の歳月をかけ900ページにも及ぶ大作だ。それほど重厚なものが一体必要かとガーディアン紙は問う。更に、気候変動の主要因は人為的だという認識が確立された現在、レポートの主眼を変更すべきではないか? RiskManagementSolutionsのウッドはIPCCのシステムは形骸化しているといい、ウィキペディアのように情報が更新されるスタイルが適していると指摘する。ロビンソン教授は、継続したレビューをするべきで、大事なトピックとそのタイミングとを逃すべきではない、という。

 

 しかし実際の変革は次回の2013年レポート後になりそうだ。イースト・アングリア大学の気象学者のマイク・ハルムは「小さい改良はいくらでも可能だか、政府が振り出しに戻るとは思えない」という。更に今後のレポート内容について、現地の知恵を利用したり、それぞれの地域の反応をもっと細かく区別していくことが望ましいと指摘した。

 

 IPPCのレポートが与える影響は、政治的、経済的にも計り知れない。プロセスの透明性を含む抜本的な改革で失われた信頼を回復して欲しいと思う。

取材・文:温野 まき 翻訳サポート:中野 よしえ

サイト

guardian.co.uk

URL: http://ow.ly/3xPd2

 

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