ソーシャル・ファームってなんだろう。

 1月30日、国会議事堂に近い全国社会福祉協議会・灘尾ホールで行われた「ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携」と題された国際シンポジウムに参加してきました。財団法人日本障害者リハビリテーション協会の協力のもと国際交流基金が主催したものです。

 

 『「ソーシャル」という言葉が氾濫して、何を意味しているのかよくわからないですよね』

 

 最近、そんな声もよく聞きます。

 そういえばエコロジーオンラインでも、昨年くらいから頻繁に「ソーシャル」という言葉を使うようになりました。私たちの場合、メディア的に「ソーシャル」を使うときは、「社交・交際」という意味、ビジネスの場合は「社会貢献型」といった意味で利用しています。

 今回参加したシンポジウムのテーマは「ソーシャル・ファーム」。ブームと言っても過言ではないくらいに盛り上がっている「ソーシャル・ビジネス」と一線を画す、福祉の現場と直接的につながる事業のシンポジウムでした。

 会議に参加した国際移住機関(IOM)のプログラムマネージャー、ゲーロルド・シュワルツさんが配布した資料にソーシャル・ファームの定義がこんな風に記されています。

 

  • 障害者ないし労働市場において不利な立場にある人々の雇用を創出するためのビジネスである。
  • 市場指向型の製品、サービスの生産を通じて、社会的使命を果たすビジネスである(収入全体の50%以上を商取引により得ていなければならない)。
  • 従業員の多く(30%以上)が、身体障害など労働市場で不利な条件を抱えている人々により構成される。
  • 全ての従業員に対し、各人の生産性の如何を問わず、仕事に応じて市場相場と同等の適切な賃金ないし給与が支払われる。
  • 障害のある従業員と障害のない従業員との機会均等が保証され、全ての従業員が同等の権利および義務を有する。(ソーシャル・ファーム・ヨーロッパによる定義 1997年より)


 これらの条件を見てみると、ソーシャル・ファームがこれまでの障害者施設とくらべて、どう違うのかがわかってきます。これまでの障害者施設であれば、一般の従業員は障害をもった当事者を指導する立場なのだそうですが、ソーシャル・ファームの場合、従業員としてともに働くという立場になります。障害を持った当事者たちが経営にも参画していくことだってできるのです。

 私たちは一般的に、障害をもった人たちだから、政府の援助で支えた方が良いという風に考えがちですよね。でも、障害をもった人たちも、生活保護のみで生かされるのではなく、一般の人とともに働ける社会を望んでいるということなのです。

 シンポジウムで印象深かったのは、ダストレスチョークで国内30%のシェアを持つ日本理化学工業株式会社会長大山泰弘さんのお話でした。同社では、74名の社員中55人が知的障害を持っているそうですが、障害者を積極的に雇用したきっかけは、あるお坊さんのこんな話だったと言います。

 

「人間にとって重要なのはお金ではなく人に必要とされることなのです」

 

  イギリスのソーシャルファームの取り組みでも、これまでのような“障害者”の作業施設ではなく、一般ビジネスの範疇にある事業として、自立する方向で動いているとのことでした。

 このシンポジウムの基調講演を行ったソーシャルファームジャパン理事長の炭谷茂さんはソーシャルファームの取り組みについてこうまとめていました。

 

「ソーシャルファームのスピリットは税に依存せず、自主独立が基本。補助金があるからやるではダメなんですよね。障害を持った当事者と一般の人が一緒になって働くことが重要。そしてソーシャルファームの商品を購入することで消費者のみなさんに応援してもらうんです」

 

 民主党政権で新しい公共のあり方に対する議論が進んでいます。生きづらさを抱えた人たちと、普通の人たちがともに歩むことで成り立つソーシャル・ファームは、その柱の一つとなるかもしれませんね。

レポート:上岡裕

サイト

国際シンポジウム

ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携

http://www.normanet.ne.jp/info/seminar110130.html

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コメント: 2
  • #1

    菊池貞雄 (土曜日, 05 2月 2011 13:16)

    菊池です。ソーシャルファームジャパンの役をしているもので一言。
    私たちは労働市場に参入するにはハンデキャップがある人たち、障害者、引きこもり、母子家庭、刑務所からでてきた方、難病患者など様々な人たちにお仕事を提供しようとしています。でも、なかなか仕事が見つからないので、私はかれらが生産している製品をブラッシュアップして商品にグレードアップすることができないか、それにはデザインと流通の力が不可欠である・・という取り組みをしています。
    武蔵野美術大や無印を立ち上げた流通の専門家など多様なシンクタンク機能をもっているブランドデザイン研究機構で取り組んでいます。
    ちなみに十勝では2006年からとりくんでいました。
    https://picasaweb.google.com/kikusada/20062007#
    当時の議事録や、ソーシャルファームジャパン総会の議事録を当方で作成しているので、よろしければ配布いたします。

    ここに用意しておきます。
    http://www.h-biomass.sakura.ne.jp/pdf/so-syaru-matome.pdf

  • #2

    おふぃすこにた こにたはじめ (木曜日, 16 4月 2015 17:01)

    素晴らしい。

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