クニマスの発見が私たちに教えてくれるもの

クニマスの生息が確認された西湖  photo by gomafringo
クニマスの生息が確認された西湖  photo by gomafringo

 絶滅したと考えられていた生物が生きていた! それはまるで子どもの頃に埋めたタイムカプセルを開ける時のような、時間を超越した興奮を味わえる出来事かもしれない。そんな発見が昨年、日本で報告された。かつて秋田県の田沢湖に生息し、水質の変化などにより約70年前に絶滅したとされていた「クニマス」が種々の経緯を経て、富士五湖の一つ、山梨県の西湖で生息していたことが確認されたのだ。

 

 きっかけは2010年2月、京都大学の中坊徹次教授が、東京海洋大学准教授であるさかなクンにクニマスのイラスト執筆を依頼したことだった。さかなクンは参考のために近縁種の「ヒメマス」をさまざまな場所から取り寄せたところ、西湖から取り寄せた個体がクニマスの特徴に類似していたため、中坊教授にこのことを指摘。それを受けた京大チームによるさまざまな検証の結果、西湖の個体はクニマスであることが判明した。先月の2月22日には、この調査結果をまとめた論文が日本魚類学会英文誌(電子版)に発表されている。

 

 絶滅種の再発見は、自然界が人類にとって、まだ未知・未踏の領域だということの一つの証明といえよう。湖のほかにも、私たちが暮らす地球上は海洋・河川などを含め、その7割が水圏に覆われている。シーラカンスなどの古代魚の姿はすでに報告されているが、今後、海洋探査技術などの発達によりさらなる新種や希少種の生存も確認できるかもしれない。同時に、これらの生物が暮らす水圏環境の分析を通じて、これまでの地球環境の変遷や環境変化が生物に与える影響など、有益な情報や示唆を得ることができる。なぜある種の生物は絶滅したのか。そこに至った原因は何なのか。そして絶滅や個体数の減少を食い止め、生態系を維持するための対策はどうしたらよいのか――。

 

 クニマスの再発見は、生物学的な意義とともに水圏環境や生態系の保全に向けた取り組みの大切さ、そして刻々と変化する環境問題への早急な対応の重要性を私達に投げかけている。

 

文:田中一整

 

田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山梨県西湖での発見

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2010/110222_1.htm

 

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