核産業成長に楽観的なウラン採掘・加工会社

依然として予断を許さない状況が続く福島第一原発3号機(左手前)、4号機   Photo By Globovisión
依然として予断を許さない状況が続く福島第一原発3号機(左手前)、4号機   Photo By Globovisión

 世界シェアの16%を占める、最大手のウラン採掘・加工会社のひとつ、カナダのカメコ社の役員が、「福島第一原発の事故後も原子力発電は申し分のない安全性を保っており、今後も発展する」と発言したと3月25日付のニューヨーク・タイムズ紙は報じた。

 

 カメコ社の最高責任者Grandey氏は大地震と津波が日本の東北地方を襲ったその日、カナダのサスカチュワン州サスカトゥーンにある本社で世界中から集まった役員と戦略会議を開いていた。

 

 発展途上国のエネルギー需要の増加と温室効果ガスへの懸念が原子力発電を後押しするだろうとの予想から、ウラニウム採掘・加工会社は、過去5年間業績を上げ続けており、カメコ社の株は今年2月には史上最高値の43.14ドルを記録したばかり。もっとも、福島第一原発事故以来、一時は30ドルを切るまでに落ち込んでいる。

 

 高価な採掘用ロボットシステムや労働者の人件費、周辺環境を放射線から守る対策のために一般的に費用のかかる業界だが、カメコ社は、サスカチェワンの北部の主要鉱山が非常に豊富なウラン鉱石埋蔵量を保持するため、低価格のウランを提供している。そして、福島第一原発を持つ東京電力を含む日本の電力会社は、カメコ社の長期契約の約20%を占めるお得意先でもある。

 

 福島第一原発事故のあと、世界各国では原発計画を再検討する動きが出ている。ドイツのメルケル首相は7基の原発を一時的にストップさせているほか、老朽化の進む原発の使用延期計画を保留する決定をした。イタリアでは1986年のチェルノブイリ事故以来停止してきた原子力発電プログラムの再開をやはり保留している。

 

 しかし、カメコ社のGrandey氏は、今回の停滞は一時的なもので、長期的には原子力発電の未来を楽観視している。「チェルノブイリやスリーマイル島、そして福島の事故があっても、原子力はまだ申し分のない安全記録を持っている」と言う。「安全性を疑問視する声が大きくなっているのは仕方ないが、このことが原子力に対して大きな変化を象徴しているとは言えない」とも。さらには「福島の教訓から学ぶのに半年から1年かかるだろう。この事故が起きる前の順調な状態になるのに5~7年はかかるが、その後(世界)は再び原発建設の道に戻るだろう」いう見解を示している。

 

 これに対し、カナダのオンタリオ州にあるクイーンズ大学のPearce教授(機械工学)は、そのような分析は大切な要因を排除していると指摘する。1950年代の「石油」対「原発」の時代とは違い、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが急速に発展してきている。Pearce教授は最近発表した学術論文において、米国の原子力発電所の賠償責任限度額を算出し、年間1基あたりの間接補助金額として計算したところ、3300万ドル(約27.7億)に相当すると発表した。今回の事故後、日本政府が保証する賠償額は(まだ計算不可能だが)膨大になることが必至で、再生可能エネルギーに補助金を出す方が得だという見方が出てくる可能性があると述べた。その一方で、再生可能エネルギーのサプライ・チェーンは、まだ十分な容量と絶大なスケールを提供できる段階にないという指摘もある。

 

 教訓というにはあまりにも悲惨で重大な原発事故の渦中にあって、私たちは復興と同時に未来におけるエネルギー問題を考えていかなくてはいけない。世界に君臨する原子力産業からの脱却を図るとすれば、日本から始まらなくて、いったいどこの国から始まるというのだろうか。

 

翻訳サポート:中野よしえ

文:温野まき

 

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