豊かな、豊かな 『電気もガスも使わないしあわせレシピ』

 とてもユニークな料理本だ。

 “電気もガスもつかない”という言葉から想像されるのは、簡単なつまみや、サラダや、副菜などなど。ところが本のページを開けると、彩り豊かで実においしそうな主菜が並んでいる。海老フライ、コロッケ、スコッチエッグ、そして日本の食材を使用した和え物や、魚料理の数々。作り方も簡単で、今日からさっそく食卓に加えたい料理ばかり。明るく美しい料理写真を見ているだけでも、食の楽しみがわき上がってくる一冊。

 

 著者がこの本の企画を考えたのは、実は昨年の夏だった。出版社の担当編集と料理本の企画を詰める段階で、「日本の暑い夏に、電気もガスも使わないでおいしい料理を届けられたら」と思ったのがきっかけだった。

 

 しかしその後、別の企画で話しが進み、出版のゴーサインが出たのが今年の3月の頭。それから約10日後、あの大震災が日本を襲った。

 

 日本の様子を心配して担当編集に電話をすると、消え入りそうな声で電話に出たという。「その時に、この企画を思い出して話したんです。去年の夏に出した企画を覚えてますかって。電力問題もある大変な時、あの本を出せたら少しは役に立てたかもしれないですねって」と、著者のいっちゃんは言う。

 

 彼女の提案で、ほどなくしてこの企画が決定。

 編集サイドからのリクエストで、読者を驚かせる揚げものなどのレシピが考案され、本人の中でも次々に新しいアイデアが生まれたという。

 

 電気も火も使わないレシピは、電力問題や日本の暑い夏に適しているだけでなく、子どもでも安全に調理できるため、親子で料理を楽しむのにも絶好だ。日本で出版記念イベントを行った際、デモで作った料理で大好評だったのは『コーンとツナのクリームコロッケ』。このレシピだけ簡単に紹介すると、コーンとツナの缶詰の水気をギュッとしぼり、バジルを加え、クリームチーズと混ぜて固めて、砕いたドリトス(コーンチップ)をまぶして出来上がり。「料理は食感を大切にする」という言葉通り、一口食べればサクサクで具だくさんのコロッケそのもの。この料理は、次回来日時のデモでもすでにリクエストされているそうだ。

 

 本書につけられた帯では、著者の料理ブログの熱心な読者で、家族ぐるみでの親交もあるパリ在住の女優・中山美穂が言葉を寄せている。

 

「いつも元気をくれるいっちゃんのレシピは家族も幸せにしてくれます。食べることは生きること。食とは感謝。そんな大切なことを伝えてくれる一冊です(中略)」。

 

 日本の震災後、すぐに現地で友人たちと募金集めのチャリティを行ったという著者の意向で、この本の印税は全額被災地へ寄付される。

 

「ひとりで出来ることは限られているけど、本の印税となれば、私ひとりじゃないみなさんの思いも入る。それが被災地に届けばいいなと思っています」。

 

取材・文:幸野敦子

 

Profile

いっちゃん

 

本名はエリオット・ゆかり。日本語の流ちょうな英国人のご主人と、長男、長女、フラットコーテッド・レトリバーのスター君と、イギリス、ロンドン郊外のサリー州在住。結婚後、渡英してから始めたケータリング・ビジネスも好調で、「いっちゃん」名で始めた料理ブログは、エキサイトの公認を受けるほどの人気。本作に続き、別の料理本の出版も企画されている。

 

 

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