節電意欲が後押しするウォームビスとクールビス

ウォームビズ主役のカーディガン おしゃれに着こなすのはなかなか・・・ Photo: lhooq38 / CC
ウォームビズ主役のカーディガン おしゃれに着こなすのはなかなか・・・ Photo: lhooq38 / CC

 

 暑ければ脱いで、寒ければ着る――。エアコンの設定温度が、夏に28℃で快適に過ごせる装いが「クールビズ」、冬に20℃でも暖かく過ごせる装いが「ウォームビズ」。環境省が地球温暖化対策の一つとして推進してスタートしたのが2005年だった。昨年までは、「クールビズ」はビジネスシーンに定着しつつある一方、「ウォームビズ」は認知度も低く、「ウォームビズはもう死語に?」(2010年1月29日付 日経新聞)といった新聞の見出しまで見られるほどだった。

 

 

“死語”とまで言われた「ウォームビズ」が、節電で復活!

 この背景には、ジャケットやネクタイなしでもOKの「クールビズ」が、上着を脱ぐことで目立つようになったシャツや小物などの新たな需要を生み出したのに対し、「上に一枚重ねる」をうたっていた「ウォームビズ」は、お手頃な機能性下着の進化で、ニットやカーディガンを着る必要がなくなったという、売り手の計算違いもあった。

 

 こうした流れのなか、今年3月の震災で状況は大きく変化した。節電がテーマとなった2011年夏は、従来の「クールビズ」をさらに軽装化した「スーパークールビズ」まで登場。環境省から出された指針は、かりゆし、ポロシャツ、アロハ、チノパン、スニーカーまでがOKというものだった。よりカジュアルになった服装に対する現場の戸惑いの声は多かったものの、都内百貨店では、「スーパークールビズ」の提唱以降、半袖シャツ関連の売上げが前年比300%という好調な売れ行きだった。

 

 この勢いづいた流れを受け、一時は「死語」とまで言われた「ウォームビズ」にも火がついた。環境省が設定している時期は、11月1日~翌年3月末まで。まだまだ暑さが残る時期から、百貨店では「ウォームビズ」コーナーを設置していた。機能性下着はさらに進化しているのに、売れないはずのセーターやカーディガンまでもが売れている、という。

 

 ここで思うのは、震災の影響で「節電しなければいけない」という人々の意識変化が生んだ、消費の大きさだ。

 「節電」という誰もができる“人の助けになること”を前面に打ち出したことで、売り手側が様々な画策しても売れなかったものが、たった1年でいとも簡単に、180度状況が変化するのだ。

 「暑ければ脱いで、寒ければ着る――」、スタートして5年以上過ぎた今年、初めて人々に定着したともいえるだろう。

 

ポロシャツの裾を入れるか?入れないか?

 2011年にスタートした「スーパークールビズ」を振り返ってみると、ビジネスの現場で、無理なく受け入れられたのが、ポロシャツの着用だ。全社的に“夏の制服”とした企業や自治体もあれば、販売員のユニフォームとした企業もあった。夏の制服とした企業も、形は一緒でも、色を好みで選べる自由度があったことも、受け入れられやすかった理由の一つだろう。

 

 では、このポロシャツが本当に着ていて涼しいのか、というと、素材や生地の厚みによっても違うので、絶対的に「涼しい」とは言い切れない。実際に今年の夏、制服としてポロシャツ着用が認められたという学生からは、「暑いから着ない」という声も少なくなかった。

 

 素材の違いがあることを踏まえた上で、涼しさの決め手となるのは、その着方。つまり、「ポロシャツの裾をズボンから出すか、出さないか」による違いが大きい。襟や裾の風通しを良くすることで体温で暑くなった服の中の空気を換気するため、体の周りの湿度や温度が下がることになる。

 

 本来、ポロシャツは英国のポロ競技で着用されたシャツであるということから、正式な着方は裾をズボンに入れる「イン」という説もある。今年のビジネスシーンでは、有名カジュアルメーカーのクールビズの提案では、「きちんとした印象」にするために、ポロシャツの裾は、ズボンに「イン」したスタイルを前面に出していた。この夏に行われたクールビズ系のイベントで挨拶した主催企業の社長は、ポロシャツを着用していたが、その裾は「イン」であった。

 

 全体の傾向として見ると、高い年代の人は裾を「イン」。30代くらいまでの若手世代では「アウト」。とくに若手世代のおしゃれ心のある人ほど、「アウト」が当然という風潮があり、「イン」にすることには大きな抵抗感があるようだ。会社では上司から「だらしない」と思われないために、本意ではない「イン」にしているけれど、会社から出たら即「アウト」にする。でも、「アウト」にしたときのシワが目立つので困っている、という若手ビジネスマンの話もあった。大きすぎずぴったりすぎない幅で、裾もおしりの半分くらいまでといった、ジャストサイズを選ぶことが前提で、その上で「イン」にするか、「アウト」にするか。

 

 イメージコンサルタントとしての私の個人的な見解は、「クールビズ」のビジネスシーンでは、ポロシャツは「裾出し」もOKではないか、と思う。その理由は、まず、ポロシャツを着た時点で、装いはドレスダウンしている。そこに“きちんと感”を求めるよりも、節電を意識するならば、涼しさを追求した考えを装いで見せることが、一貫性があるように感じるからだ。

 

 電力不安は、今後数年は続くと言われている。来年の「クールビズ」シーズンで、節電を意識してポロシャツを着用している人を見るべきは、その裾。ズボンから出しているからオシャレで、入れているから、“ダサい”ではない。出しているとだらしがなくて、入れているときちんとしているのでもない。ファッションは時代とともに変化し、進化していく一面もある。ポロシャツの裾にはそんなメッセージを込められることも知っておきたい。

 

文:山川碧子(国際イメージコンサルタント)

 

PROFILE

山川碧子(やまかわ みどり)

 

プライムイメージ代表。国際イメージコンサルタント(AICI ニューヨーク支部会員)。雑誌編集者を経て06年アメリカで国際ライセンス取得。 ビジネスパーソンに向けて“仕事の自信を見た目につなげる”外見戦略、身だしなみ、立ち居振る舞いなどのコンサルティングを実施。現場経験を生かしたセミナー・執筆も行う。著書『4分5秒で話は決まる~ビジネス成功のための印象戦略~』(朝日新書)も発売中。

 

プライムイメージ http://www.primeimage.jp/

 

 

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