
FM栃木とエコロジーオンラインの連携が5年目を迎えたことを記念して、環境問題に詳しい宇都宮大学所属 髙橋若菜先生にスペシャルインタビュー!
ちょうど偶然来日していた髙橋先生の研究仲間であるラース博士も交えて地球の未来や身近でできる環境対策など様々なことをお話しいただきました!
EOL編集部:本日はお忙しい中、お時間をいただき、誠にありがとうございます。
早速ですが、本日は高橋若菜先生に近年の環境問題について詳しくお話を聞いていきたいと思います。
よろしくお願いします。
高橋先生:はい、よろしくお願いします。
EOL編集部:近年における異常気象。
例えば猛暑、大雨、干ばつなどは、気候変動とどのように関連しているのでしょうか。
高橋先生: はい。世界中の研究者が行なっている様々な研究成果を評価する形で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が報告書を定期的に作成しています。
国連気候変動枠組条約でも用いらえる、いわば世界の知見が結集した報告書です。
報告書によれば、気候変動、特に地球温暖化の影響により、異常気象が発生していることは、科学的に明らかにされています。
地域によって、猛暑、大雨、干ばつ、そして大規模な山火事など、世界中で、様々な被害が出ています。
EOL編集部:ありがとうございます。
そういった異常気象を少しでも防ぐ方法の一つとして再生可能エネルギーの導入が考えられると思いますが、導入を進めていくうえで最も重要と考えられる政策や技術革新はどのようなものでしょうか。
具体的なビジョンを描く

高橋先生: とても深い質問ですね。技術革新ももちろん重要であるとは考えておりますが、それと同様に重要と考えられるのは、普及に向けた政策ではないかと。
まず、目標値を設定すること。例えば再生可能エネルギーを何パーセントまで導入するかといった具体的な目標を定めることが肝要です。
その前提として、CO2排出量をどの程度削減するか、カーボンニュートラルを何年までに達成するかといった目標も必要となります。
そして、目標を達成するために、どのようなビジョンや方策を描き、それを実現していくために、炭素税や排出量取引、助成金、固定価格買取制度などをはじめ、様々な政策ツールを組み合わせていくことが求められるでしょう。
EU全体としてもそのような政策が導入されており、私が研究対象としているスウェーデンでは、EUの中でも先進的な取り組みが進められています。
取り組みがすすむ背景には、政策だけでなく、誰がエネルギーを供給しているのか、例えば地域のエネルギー会社が大きな役割を担っているのか、あるいは市民がどのように認識しているのか、といった様々な要因が絡み合っていると観察しています。
この件について、ラース博士は何かご意見はございますか?

ラース博士: あなたがおっしゃった通りだと思います。
地域ごとの目標を設定し、ビジョンを持つこと。
そうすれば、企業、一般市民、そして政策立案者といった様々な関係者が、その目標に向かって協力することができます。
しかし、それは技術の種類や成熟度、市場での準備状況によって異なってきます。
例えば、太陽光発電や風力発電では、固定価格買取制度が非常に普及しており、これらの技術の導入促進に大きな効果を上げています。
研究開発への支援も重要です。ですから、それぞれの技術の成熟度によって、適切な方策は異なってくると言えるでしょう。

高橋先生: ええ。そうですよね。
目標やビジョンを設定し、それに向かって様々な関係者が協力していくこと、固定価格買取制度のような制度や、研究開発に対する支援など、様々な要素を組み合わせて考えていくことが大切ですね。
その他に、ドイツやスウェーデンと違うと感じるのは、例えば日本の場合、太陽光発電で一生懸命発電しても、送電網に接続する際に容量がいっぱいであると断られてしまうケースがあるということです。
スマートグリッドのような電力網の強化は世界的に進んでおり、それも含めて再生可能エネルギーを優先するような政策や、正確な情報を開示するといったことも重要ですね。
現在、炭素税の税率は国際的に見ても非常に低い水準で、石炭火力などに対しては、むしろ電源三法により見えにくい補助が出ているような状況ですが、本来は逆であるべきだと考えています。
すなわち、高炭素な電源には社会的コストを反映した価格付けを行い、低炭素・再生可能エネルギーには制度的な後押しを行うべきです。

EOL編集部:社会が変わるためにも学生や若い世代が気候変動問題に関心を持ち、行動することがポイントになると思いますが、そのためには、何が必要であるとお考えでしょうか。
高橋先生: そうですね、学生の方々でも、気候変動に関心をお持ちの方は少なくないかと思います。
しかしながら、ご自身で何かできることがあると考えていらっしゃる方は、それほど多くないのかもしれません。
ですが、実はできることはたくさんあります。正確なことを知ったり、選択したり、他の方と対話をしたり。
身近な経験を振り返ったり、共有したりする中で、意外なこと、楽しいことが気候対策になっていると気づいた、という声もきいています。
そのような情報交換や、考える機会、あるいは他の人と話し合ったり、政策提言に結びつけたりする機会が、今は非常に大切なのではないかと考えております。
同じ質問をラース博士にも伺ってみましょう。
ラース博士: 教育は非常に重要ですね。
情報に通じた市民を育成することが不可欠です。
それによって、彼らは十分な情報に基づいて意見を持ち、賢明な選択をすることができます。
それはキャリア選択だけでなく、ライフスタイルや消費行動に関する問題にも当てはまります。
グレタ・トゥーンベリのような存在が必ずしも必要というわけではありませんが、情報はごく幼い頃より教育システムからもたらされるべきです。
先週、東京で訪れた『エコルとごし』という環境学習センターは、非常に優れた教育的な方法でそれを行っていました。

髙橋 若菜 教授 (政治学博士)
宇都宮大学 国際学部教授。多文化公共圏センター長、 地域経営研究会地域CN部会主査。環境政治学を専門とし、地球環境戦略研究機関を経て2003年より現職。中央環境審議会循環型部会委員、NPO法人うつのみや環境行動フォーラム理事長ほか多数。
日本とスウェーデンを中心に、地域からの脱炭素・ 循環型社会形成の政策ガバナンスを研究。
2023年国際共同研究で、 NIKKEI脱炭素アワード研究部門受賞。

ラース ストルーペイト博士(産業環境経済学)
ドイツで電気工学を修学、 実務経験を経て、 スウェーデンルンド大学にて再エネ、エネル ギー効率化、循環型経済を主軸に、技術転換と地域主導のエネルギー移行を研究。
再エネ 事業、国際協力実務経験多数。
2025年4-5月、宇都宮大学国際学部にて外国人研究者。
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