
FM栃木とエコロジーオンラインの連携が5年目を迎えたことを記念して、環境問題に詳しい宇都宮大学所属 髙橋若菜先生にスペシャルインタビュー!
ちょうど偶然来日していた髙橋先生の研究仲間であるラース博士も交えて地球の未来や身近でできる環境対策など様々なことをお話しいただきました!
ゴミ分別と日本の過剰包装

EOL編集部: ありがとうございます。次に、 ゴミの分別やリサイクルについて、特に栃木県民として気を付けた方が良い点などがございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。
高橋先生: 栃木県のゴミ分別・リサイクルについて、全てを網羅しているわけではございませんが、例えば宇都宮市では、確か5分別13品目でしたでしょうか、そのような分別が行われております。
分別やリサイクルに関しましては、日本は世界的に見ても非常によく取り組んでいる国の一つであると認識しております。
ペットボトルや缶、瓶、紙類など、細かく分別されております。
紙類については、もう少し分別を進められる余地があるかもしれませんが、全体としてはよく分別されていると思います。
啓発活動という点で言えば、例えば宇都宮市のもったいない運動など、様々な取り組みがあります。
そのような啓発活動は非常によく行われており、県民の意識も高いと思います。
これは今後も継続していくべき重要なことであると考えております。
一方で、小学校などでの教育は、ご家庭には有効ですが、単身の方や高齢者の方々にとっては、分別が難しくなってきているという側面もあります。
その意味では、むしろ現在、地域での助け合いといったことが求められてきているのではないでしょうか。
そういった取り組みは非常に重要であると思います。
また、政策的な観点から、さらに分別を進める余地があると考えますのは、例えば、茂木町や益子町などで始まっております生ごみの分別です。
これは、さらに多くの自治体で導入できる可能性があると思います。
特に都市部では、コンポストが難しい場合もありますので、そういった地域で生ごみの分別を進めることは有効ではないでしょうか。
それによって、再生可能エネルギーとしての活用も期待できると思います。
ラース博士: 異なる国から来ると、時折自国と訪問国を比較せずにはいられませんね。
そして、日本では包装に非常に重点が置かれており、製品が二重、あるいは三重に包装されていることがよくあります。
しかし、これは文化的な問題でもあると理解しております。
そして、廃棄物管理、廃棄物収集。
これもまた、国によって異なる方法で処理されていますね。
生ゴミを再生可能エネルギーに
EOL編集部:生ごみは日本では分別される地域がありますが、海外では生ごみの分別、あるいは生ごみを収集するということはありますか。
高橋先生: はい、日本では、小規模な自治体で生ごみの分別に取り組んでいるところが増えてきています。
しかしながら、私が研究を進めてきたスウェーデンでは、むしろ大規模な自治体の方が積極的に取り組んでいます。
ストックホルムやヨーテボリ、マルメなどでは、2010年以前より、生ごみ分別収集が義務化されています。
その背景の一つには、再生可能エネルギーとしての活用があります。
生ごみをそのまま埋め立ててしまいますと、悪臭やバイオガスの発生といった問題がありますが、分別して収集し、バイオガス施設で処理することによって、メタンガスを生成し、トラックやバスの燃料として、また残さは土壌改良剤として利用するといった取り組みが進められています。
これはスウェーデンでは一般的な方法ですが、そうでない国も多いですね。
アメリカなどでは、広大な埋め立て地に粉砕して廃棄するか、あるいは下水に流してしまうといった方法(ディスポーザー)が一般的であるようです。
ドイツではいかがでしょうか。

ラース博士: ドイツではスウェーデンほど有機性廃棄物の収集は一般的ではありません。
しかし、検討はされていると思います。
なぜなら、それは明らかに未利用のバイオガス資源だからです。
スウェーデンはドイツよりもこの分野ではかなり進んでいると思います。
スウェーデンでは、バナナの皮で車が200メートル走れるといった、楽しいキャンペーンがあったのを覚えています。
その利点を説明し、消費者を動機づけるためのものです。
今すぐ出来るエコな工夫~ラストマイル~
EOL編集部:日常の買い物やライフスタイルにおいて、これならすぐに始められるといった、エコな工夫はございますでしょうか。
高橋先生: 今すぐに始められること。
最も簡単なのは、やはりマイバッグやマイボトルを持参することではないでしょうか。
ほとんどの方が既にお持ちかと思いますので、すぐに始められるかと思います。
それによって、プラスチックごみの削減やCO2排出量の削減にも繋がります。
また、先ほど申し上げましたように、旬の食材を選ぶということも、輸送エネルギーの削減といった観点から非常に重要です。
その他、これは日本ではなかなか難しいかもしれませんが、過剰な包装を避けるということも挙げられます。
できるだけ包装の少ない製品を選ぶ、あるいは詰め替え製品を利用するといったことです。
しかし、それ以前に最も大切なのは、そもそもゴミを出さないということです。
今あるものを大切に使い続ける。それが、むしろおしゃれであるという考え方が広まるといいですね。
また環境に良いものを選ぶこと。
エコマークにつきましては、有機JASマークなどはありますが、ヨーロッパほど厳しい認証基準が設けられているわけではございませんので、少々判断が難しい面もあります。
エコウォッシュのようなものも存在いたしますので、その点については、正確な情報を様々なところから得て、リテラシーを高めていくことが重要であると思います。
そういった意味でも、知る、話題にするといったことも大切ですね。
ラース博士: 消費行動に関しましては、常に製品の品質、耐久性のある製品に注目し、それを長く使うことを強調したいと思います。
実際、人々が購入する衣類のかなりの部分が一度も着用されないか、あるいは1、2度しか着用されないという研究結果もあります。
ですから、1、2度で使えなくなってしまうようなものではなく、あるいは安価だからといって安易に購入するのではなく、むしろ質の良いものを購入し、長く大切に使うということが重要なのではないかと思います。
そして、ラストマイルの重要性です。
つまり、中国で生産されたプラスチック製のおもちゃが、1万キロメートルも船でスウェーデンに輸送されるという例を、以前講義で使ったことがあります。
ある家族が店まで5キロメートル車で移動します。
この5キロメートル、つまりラストマイルからの排出量は、流通経路全体の排出量よりも多いのです。
ですから、ラストマイルは環境フットプリントの非常に重要な部分です。
その意味で、私たちは持続可能な選択肢、買い物に行く際の移動手段の選択肢を選ぶべきです。徒歩や自転車です。
しかし、そのためには、店が自宅に近い都市インフラも必要です。
小さなスーパーマーケットがいくつか近くにある方が、人々が車で移動するような非常に大きなスーパーマーケットがあるよりも良いでしょう。
宇都宮では、あちこちに小さなスーパーマーケットがあるのは素晴らしいことだと思います。
その意味でも、良い計画を立てるという視点が必要ですね。
「262の法則」
EOL編集部: では最後の質問になりますが、ご家族や地域社会の中で、気候変動への意識を高め合うためには、どのようにすれば良いとお考えでしょうか。
高橋先生なりのアプローチなどがございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。
高橋先生:そうですね。強いて申し上げるならば、我慢ではなく、むしろ豊かに気候取り組みを進めることは可能、というマインドを醸成することでしょうか。
私は日本とスウェーデンを行き来しておりますが、日本人の意識の高さは素晴らしい美徳である一方で、いわゆる「262の法則」には合っていないと感じています。
このお話は、日本の経営者の方から伺ったのですが、
つまり2割の方々は非常に高い志を持ち、モチベーションも高く取り組むことができますが、
6割の方々はそこまで強い意識はなく、状況が許せば取り組むといった程度で、
残りの2割の方々は、どのような状況であっても取り組まないというものです。
日本の政策の多くは、この2割の真面目な方々をさらに増やそうというものであり、取り組みやすさという点では、あまり考慮されていないように感じます。
正しいことが容易くできる、といったスローガンを持つスウェーデンとは対照的です。
このため、取り組みやすい、あるいは双方に利益のある、Win-Winな解決策があることや、楽しく取り組めること、さらには何らかの良いことがあるといった、コベネフィットを共有できるような形にしていくことが重要ではないかと思います。
そういった意味では、若い方々がゲーム感覚でアプリを開発したり、様々な活動をされたりしているのは、素晴らしいことだと思います。
押し付けるのではなく、やる気を引き出し、モチベーションを高めるような、例えばデータを見える化することによって、節約のためにエネルギー消費を抑えようといった意識が芽生えるといった、実験的に楽しみながら取り組めるような、無理をしないポジティブな体験を積み重ねる機会を作り、その価値を内面化していくことが重要ではないかと、考えます。
ラース博士: 子どもたちを教育し、その子どもたちが親を教育するという方が、変化を促しやすい場合もありますね。
私が高校生の頃、廃棄物問題や分別について学んだ際、それを両親に伝え、新聞紙や瓶などを分別する必要性を説きました。
若い頃に私たちは習慣を身につけますが、ある年齢を過ぎると、習慣や癖を変えることははるかに難しくなります。
ですから、若い世代は非常に重要です。

高橋先生:本当にそうですね。
これは日本でもスウェーデンでも同様で、多くの小学生は、学校のカリキュラムで、ごみ処理施設やリサイクルプラザに行き、そこでご家庭に持ち帰り、ご両親やご家族に伝えるようです。
ラース博士ご自身が高校生の頃もそうであったように、学校での学びが、家族や社会を変えていくという流れですね。
そしてたしかに、一般的に、年齢を重ねるにつれて変化に対して保守的になりがちですので、そういった意味でも、若い方々が様々な情報を発信していくということは、非常に重要なのではないかと思います。
親から子へ、あるいは年長者から若者へ教えるというだけでなく、双方向の学び合えるという認識も大切ですね。
「正確な情報」をきちんと知り、伝えていく
EOL編集部: ありがとうございます。 その他に何か、メッセージがございましたら。
高橋先生:本日は佐野からお越しいただいたということですが、佐野市は、100年で5.4度温度上昇したというデータが出ており、気候変動の影響を最も受けている地域の一つといえるでしょう。
これで終わりではないのです。気候変動から気候危機という言葉が使われるようになったとおり、深刻度がましていくことは、残念ながら疑いないことです。
にもかかわらず、ロシアによるウクライナ侵攻で大量の兵器が使われ、さらに気候危機を加速させるという悪循環も生まれています。
アメリカでも、トランプ大統領、気候変動に対しても非常に懐疑的で、科学を否定しその営みを止めて、どんどん石油を掘れなど温暖化をむしろ煽っている状況があるのは、強く懸念されます。
しかしながら、そのような時代であるからこそ、正確な情報を可視化し、伝えていくということが非常に重要であると思います。
繰り返しになりますが、我々が、気候危機に直面していることは、残念ながら疑いありません。
一方、気候適応と緩和の両面にかなう、双方に利益のある、Win-Winな取り組みはたくさんある、ということを最後に強調したいと思います。
例えば、緑を増やしたり、断熱を進めたりすることで、小さなエネルギーでゆたかなくらしをすることは可能です。
再エネはもはや主流化してきています。
地産地消は、人々の幸せや健康、地域の活性化など、様々に便益をもたらすものとして、世界中でローカリゼーションも進行中で、グローバルにそうした価値が共有され、ネットワークも広まっていっています。
このような潮流をしっかり見定め、長期的な視点を、この時代だからこそ失わないようにしていくということが、非常に重要であると、心に留めています。

ラース博士:そうですね。 正確な情報は、絶対に不可欠です。
そして、最新の情報も同様です。
太陽光発電部門の例をよく挙げますが、太陽光発電技術はかつて最も高価な再生可能エネルギー技術でした。
今では最も安価です。
コストは90~95%削減され、化石燃料や原子力発電よりも完全に競争力があり、さらに安価です。
しかし、この情報はまだ十分に普及し、主流になっているとは思えません。
人々はしばしば太陽光発電を贅沢品だと考えています。
そしてもちろん、それは旧技術の支持者たちが、それを支持し続けることを容易にしています。
高橋先生:本当にそうですね。多くの方が正確な情報にきちんとアクセスできるということは死活的に重要です。
そういった正確な情報をまとめ、ラース博士がいうように、最新の情報も常にアップデイトしながら、伝えて、社会と対話を続けていくことが、これからの人類の幸福に貢献することとして、我々研究者にも課せられた責務だと考えています。
EOL:はい、高橋先生、ラース博士、本日はお忙しい中、環境についてとてもわかりやすくお答えいただきありがとうございました。これからのご活躍をお祈りしています。
写真 / 神永写真館
文 / EOL編集部


髙橋 若菜 教授 (政治学博士)
宇都宮大学 国際学部教授。多文化公共圏センター長、 地域経営研究会地域CN部会主査。環境政治学を専門とし、地球環境戦略研究機関を経て2003年より現職。中央環境審議会循環型部会委員、NPO法人うつのみや環境行動フォーラム理事長ほか多数。
日本とスウェーデンを中心に、地域からの脱炭素・ 循環型社会形成の政策ガバナンスを研究。
2023年国際共同研究で、 NIKKEI脱炭素アワード研究部門受賞。

ラース ストルーペイト博士(産業環境経済学)
ドイツで電気工学を修学、 実務経験を経て、 スウェーデンルンド大学にて再エネ、エネル ギー効率化、循環型経済を主軸に、技術転換と地域主導のエネルギー移行を研究。
再エネ 事業、国際協力実務経験多数。
2025年4-5月、宇都宮大学国際学部にて外国人研究者。
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