NGOの視点で振り返る「コペンハーゲン会議」

 1月21日(木)、東京都千代田区の総評会館で、WWFジャパン、FoE Japan、気候ネットワークなどの共催により、「コペンハーゲン会議(COP15、CMP5)(*1)報告会」が開催された。

 コペンハーゲンで昨年12月7日から2週間に渡って行われた開催された、気候変動枠組条約第15回締約国会合(COP15)には、今回、日本では初めて、政府代表団に日本のNGOから2名参加することができた。これにより、政府発表では見えて来ないCOP15の様子が明らかにされた。

 参加国194ヵ国。各国の首脳陣110人以上が最終日には顔を揃え、京都議定書の約束期間が終わる2013年以降の枠組みを決め、「ACCORD(合意)」を目指したコペンハーゲン会議だったが、先進国と途上国の溝、さらには、同じ途上国であっても、島嶼(とうしょ)国や低開発途上国と新興途上国間の溝は埋められず、「TAKE NOTE(留意する)」という形で閉幕した。

 

 その内容についてWWFジャパンの小西雅子氏は、いままで事務次官レベルの交渉では入らなかった資金規模(先進国から途上国への資金供与として、2012年までに300億ドル[約3兆円]、2020年には、年1000億ドル[約10兆円]単位で供給することを努力する)が草案の文面に入り、アメリカが中国に強く求めていた"途上国の削減行動の結果を国際的に明らかにする"点について中国側が譲歩し、途上国の削減行動が国際的に協議と分析の対象となることが草案に盛り込まれたことなどを報告。

 

 政府代表団としてNGOから参加した同じくWWFジャパンの山岸尚之氏からは、排出量取引、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)、さらに新しいメカニズムも含めた「カーボン・マーケット・メカニズム」の議論について報告された。既存のメカニズムに反対している国は無いものの、CDMの地理的不均衡、原子力発電所、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)、ベースラインの設定など、各国の立場の違いから様々な議論が紛糾し、核となる議論が絞り込まれないまま、結果的に大きな決定に至らなかったという。

 

 気候ネットワークから政府代表団に参加した平田仁子氏は、「NGOが温暖化の交渉会議で代表団入りできたことは、政権交代の成果の一つ」としたうえで、NGOと日本政府との情報共有はなく、非公式会議などへの参加もなかったことを明かした。また、COP15とCMP5という2つの会議のプロセスが説明され、両会議の交渉が難航し、そもそもプロセスの進め方自体に先進国と途上国間に対立があったという。本来は、この2つの会議で得られた結果を基にコペンハーゲン合意が生まれるはずだったが、最終段階で約30ヵ国という一部の国々だけで合意文案が作られたため、他国から批判が続出して会議が紛糾した経緯が報告された。

 

 一方、政権交代によって25%削減目標を掲げた日本だが、2013年以降の具体案を持って臨まなかったことで存在感を示すことはできなかった。気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏は、「今後は、この目標を国内削減で達成するための政策と制度づくりが急務。(低炭素社会をつくるための)技術力によって存在感を高めていくべき」と語った。

 

 京都議定書を2013年以降も延長することに反対した日本には、交渉進展を阻んだ理由で、NGOから3度目の「化石賞」が贈られたが、反対に、交渉においてヒーローとなった国もある。

 今回から、そうしたヒーロー国には、「宝石賞」が贈られることになり、栄えある第1回目の受賞はツバルに決まった。

 

 島嶼国であるツバルは、温暖化による海面上昇で国土が消滅の危機に瀕している。IPCCによる第4次評価報告では、気候変動の深刻な影響を抑えるためには、気温上昇を産業革命前から2度未満に抑える必要があるとされているが、ツバルは、「1.5度未満を目指すべきだ」と主張する。さらに、この目標を達成するために、コペンハーゲン会議では、新しい議定書の採択を目指して、それを話し合うべきコンタクトグループの設置を提案した。本来「G77+中国」側であり、京都議定書の削減義務を先進国に迫る立場であるツバルが、途上国に新たな義務が課せられる新議定書の誕生を求めるためのコンタクトグループ設置を提案したことに、議会は水を打ったように静まり返ったという。中国、ブラジル、インドなどの大国途上国は、当然のことながら大反対したが、ツバルの有名な交渉官イアン・フレミング氏は、「1.5度でないと我々は生き残ることができない」と切実に訴えた。ツバルの勇気ある発言と真のリーダーシップを讃えて宝石賞の受賞となった。

 

 経済発展と温室効果ガスの増加は、いまのところ切り離すことはできない。だからこそ、歴史的に膨大な温室効果ガスを排出してきた先進国と、これから発展を目指す新興途上国の主張は相容れない。さらに、気候変動により大きな被害がもたらされる危機に瀕している低開発途上国との三つどもえ。それにさえ収まらない各国の思惑が複雑に絡み合い、今後の会議も一筋縄ではいかないだろう。ただ、すべての国が共通して認識しているのは、いま地球全体として削減しなくては間に合わないとういうことだ。

 今年、メキシコで開催されるCOP16で、今度こそ野心的な削減目標の合意が得られることを願う。

 

 (*1)第15回締約国会議(Conference of the Parties)略称COP15と、第5回締約国会合(Conference of the Parties serving as the Meeting of the Parties=締約国会議として機能する締約国会合)略称CMP5が同時に開催された。

 

取材・文:温野 まき

サイト

WWFジャパン

URL: http://www.wwf.or.jp

気候ネットワーク

URL: http://www.kikonet.org

FoE Japan

URL: http://www.foejapan.org

 

«一つ前のページへ戻る