山岳地帯が気候変動に直面する種の"安息地"となるかもしれない

Photo by jay8085
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 アルプス山脈の植物種における気候変動の影響について研究しているスイスの研究者たちは、気候変動下において、山岳地帯が植物種の安全な生育場所となる可能性があることを発見した。雑誌「Journal of Biogeography」に掲載された研究によると、山岳地帯における生育地の多様性が、植物種を保全するのに重要な保護生育地となることが明らかとなった。

 バーゼル大学のDaniel Scherrer氏とChristian Körner氏は、中央アルプスの2500メートル地点での調査を2シーズンにわたり実施。彼らは、植物が実際にさらされる温度をモニターするために、高解像度赤外線カメラと何百台もの土壌センサーを使用した。さらには、さまざまな種類の植生と植物が、気温の違う微生息場所(特定の動植物の生活の場となる生息場所の最小単位)に生育するかどうかを調査するため、個体数と種の豊かさ、そして温暖な気候を好むかといった生物指標を用いた。

 

 研究結果では、様々な山の斜面の比較によって、露出面や起伏の激しい地形が、森や海岸地域、平地などでは見られない広範な生育条件をつくり出していることが判明した。「寒暖測定によると、植物と大気の熱がアルプス山脈の環境を実質的に変えていた。各生育場所の気温差が維持されていることに驚いている」とScherrer氏は語る。

 

 太陽が出る時、背丈の低い植物は劇的に暖まる。曇りの天候の下でも暖まった空気は部分的に土壌に残るため、多くの場所に生える植物の根にとって、夜は快適なものとなるというのだ。

 

 Körner氏は、「このことは、起伏の多いアルプス山脈の地形が、狭い範囲で、暖かな土壌を好む小さな植物と寒冷な生育条件を好む動物の両方に保護生息地を提供している、もしくはその足がかりを提供してくれている」と説明する。

 

 気温が2℃温暖化した際の一定区画の個体数をコンピューターでシミュレートした結果、消失するのはわずか3%に過ぎなかった。いくつかの寒冷な生育地は縮小するが、それらが完全に失われることはないのである。今後は温暖な生育地が定着していき、生育場所の多様性は豊かになっていくという。さらに研究は、このような標高の高い環境の動植物の生育条件の将来予測を行うのに、気象観測所のデータは参考にはならないことを示している。

 

「気候変動において、十分な避難所として作用していない平地と比べると、アルプス山脈の地形は大多数の種にとって、ずっと安全な生育地となる」とScherrer氏。

 

 Körner氏は、「氷河期のような時代には、山は常に種が生き残るために重要なものだった。したがって山岳地帯は、気候変動下では生物多様性の保全のために特に重要なエリアであり、保護対象にする価値がある」と結論付けている。

 

翻訳サポート:河合美佳

文:加藤 聡

 

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