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ヨーロッパの屋根とも呼ばれるアルプス山脈。そこには、何万年もの時間をかけて積み重なってきた青白く輝く氷河がある。しかし今、この壮大な氷の景色が「引き返せない地点(ポイント・オブ・ノーリターン)」を越えてしまったという、静かで切実な警告が発せられている。最新の研究によれば、21世紀の半ばには、多くの氷河が完全に姿を消す「絶滅のピーク」を迎えるというのである。
⏳ 過去のツケが今、氷を溶かす
なぜ「今すぐに温暖化を止めても手遅れ」なのだろうか。それには、氷河という巨大な塊が持つ「時間のずれ」が関係している。氷河は、気温の変化に対して非常にゆっくりと反応する。私たちが現在目にしている氷河の融解は、実は過去数十年の間に私たちが排出してきた温室効果ガスに対する、遅れてやってきた反応なのだ。
スイス連邦工科大学(ETH Zurich)などの研究によれば、たとえ今日この瞬間に二酸化炭素の排出をゼロにしたとしても、アルプスの氷河の約3分の1は2050年までに消えてしまうことが運命づけられている。すでにシステムの中に組み込まれてしまった熱が、これから数十年にわたって氷を削り続けるのである。
🏔️ 小さな氷河から消えていく
特に危機的なのは、比較的小さな氷河たちだ。巨大な氷河はある程度の厚みがあるため持ちこたえることができるが、小さなものは気温上昇の影響をダイレクトに受けてしまう。21世紀の半ば、つまり今からわずか25年後くらいまでの間に、これらの小規模な氷河が次々と消滅していく「ピーク」が訪れると予測されている。
かつては万年雪に覆われていた山肌が、むき出しの岩場へと変わっていく。それは単に景色が変わるというだけでなく、山岳地帯の生態系が根本から崩れることを意味している。
💧 「水の塔」が失われるということ
氷河が消えることは、私たちの生活にどのような影響を与えるのだろうか。氷河は、いわば「天然の貯水池」であり、乾燥する夏場に川へ水を供給し続ける「水の塔」の役割を果たしている。
アルプスの氷河が溶け出す水は、農業用水や飲み水、さらには水力発電の貴重なエネルギー源として、ヨーロッパの多くの国々を支えてきた。氷河が消失すれば、この水の供給が不安定になり、深刻な水不足や、逆に氷河湖が決壊することによる洪水のリスクが高まる。私たちの社会のインフラそのものが、氷河という冷たい恵みの上に成り立っているのである。
🌍 私たちにできる「残り」の守り方
この話を聞くと、絶望的な気持ちになるかもしれない。確かに、2050年までに失われる氷を救うことは、今の私たちにはもうできない。しかし、この研究が伝えているのは諦めのメッセージではない。
今私たちが行動を起こすかどうかで、21世紀の後半に「残りの70パーセント」の氷を救えるかどうかが決まるのだ。21世紀半ばの絶滅ピークを最小限に抑え、大規模な氷河を未来に引き継げるかどうか。それは、私たちが今、地球との向き合い方をどう変えるかにかかっている。アルプスの白い峰々が、ただの岩山として歴史に刻まれることがないよう、私たちは今、この静かな警告を重く受け止める必要がある。
<関連サイト>
Peak glacier extinction
in the mid-twenty-first century
翻訳・文 / エコロジーオンライン編集部(AIを使用)









