第42回東京モーターショー エコカー最新事情

三菱「MIRAGE」
三菱「MIRAGE」

 12月3日~11日まで、第42回東京モーターショーが開催されている。今回の会場は東京ビッグサイトで、東京都内での開催は実に24年ぶりとなる。リーマンショックの影響などから、海外のメーカーがほとんど出展しなかった前回とは異なり、今回は世界12ヵ国・1地域から合計179の出展者が参加するなど、国際モーターショーにふさわしい規模となった。

 

 一般公開前に設けられたプレスデーに会場を訪ねた。国産メーカーを中心に、目に付いたクルマや技術を筆者目線で紹介しよう。

 

台風の目になりそうな第3のエコカー

マツダ「雄(TAKERI)」
マツダ「雄(TAKERI)」

 ここ数回のモーターショーは、新たなパワーユニットのオンパレードだった。各社が競うように、FCV(燃料電池車)やEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、HV(ハイブリッド車)などをコンセプトカーに採用した。「今年も同じ傾向だろう」と思っていたら、さにあらず。ディーゼルやガソリンエンジンを採用したクルマを、複数のメーカーがメインステージに上げていたのだ。たとえばマツダだ。クリーンディーゼルエンジンを搭載した「雄(TAKERI)」と、ガソリンエンジンを搭載した「靱(SHINARI)」を展示していた。

スズキ「REGINA」
スズキ「REGINA」

 マツダは前回のモーターショーでも、既存エンジンの改良路線を訴求していたが、その流れに合流したメーカーがある。スズキや三菱だ。スズキはガソリンエンジンを搭載したコンセプトカー「REGINA」を、三菱もガソリンエンジンを搭載した「MIRAGE」を出展した。

 

 これらはダイハツの「ミラ e:S」が火をつけた、いわゆる「第3のエコカーと呼ばれるものだ。従来のエンジンをベースとしながらも、エンジンやミッションの改良、車体の軽量化などによって、ハイブリッド車と遜色のない燃費を実現しているのが特徴だ。従来技術の延長線上なので、低価格化が可能であり、国内市場はもちろん、新興国でも受け入れられやすい。

 

多様化の時期を迎えようとしているEV

ホンダ「FIT EV」
ホンダ「FIT EV」

 EVはと言えば、前回のモーターショーで目玉となった三菱の「i-MiEV」と、日産の「LEAF」が、誰もが触れられるフロアーに置かれていたのが印象的だった。また、コンセプトカーや、市販を前提とした参考出品車など、各社から多様なEVが出展されていた。たとえばホンダは、小型でスポーティーなEVコンセプトカー「EV-STER」や、「FIT」をベースにした「FIT EV」などを展示していた。日産も負けてはいない。メインステージで展示していたのはすべてEVだった上に、「LEAF」のパワーユニットをベースにしたレーシングカー「NISSAN LEAF NISNO RC」を展示するほどだった。

 

日産「PIVO 3」
日産「PIVO 3」

 しかし、EVは航続距離の短さがネックになっている。このデメリットを逆手に取るように各社が発表してきたのが、2人~3人乗りのコンパクトなEVだ。日産の「PIVO 3」、ホンダの「MICRO COMMUTOR」、スズキの「Q-concept」 ダイハツの「pico」などで、いずれも少人数での近距離移動にターゲットを絞っている。現在はクルマとしての登録カテゴリーが決まっていないが、軽自動車登録で実証実験がスタートしている例もある。配達や雨の日のこどもの送り迎えなど、活躍の場は広そうだ。

 

様子見のFCV

ダイハツ「FC商CASE」
ダイハツ「FC商CASE」

 EVと同様にゼロ・エミッションカーと期待されながらも、今回、精彩を欠いていたのがFCVだ。ホンダが法人向けのリース販売を開始している「FCX-CLARITY」をフロアーに展示していたものの、その他のメーカーではトヨタとダイハツがコンセプトカーを発表していた程度で、普及の壁を感じた。

 

 とは言え、なすすべがなく足踏みしている状態ではないようだ。ダイハツでは、コンセプトカーの「FC商CASE」を通じて、水加ヒドラジンという新たな液体燃料の使用を提案している。ガソリンと同じ充填方法が使えて、航続距離が長く、常温で引火しないなど、多くのメリットがあるという。開発の進展に期待したい。

 

実用化間近のPHV

トヨタ「Prius Plug-in Hybrid」
トヨタ「Prius Plug-in Hybrid」

 EVとして走れる距離を伸ばすことで、環境性能と、ガソリン車の航続距離を両立させようとしているのがPHVだ。トヨタは市販間近の「Prius Plug-in Hybrid」を出展していた。また、ホンダもコンセプトカーながら、EVモードで50kmが走行できる「AC-X」を、三菱もコンセプトカー「PX-MiEVⅡ」を出展していた。

 

 同じPHVでも、技術的なアプローチが若干異なるクルマも見られた。スズキが参考出品車として出展した「SWIFT EV Hybrid」だ。他社のPHVがモーターとエンジンで駆動するのに対して、スズキはモーターのみで駆動する方式を採用している。エンジンはバッテリー残量が低下したときにのみ、発電用として始動する仕組みだ。強力な発電機を搭載したEVと言えるだろう。

 

百花繚乱のHV

スバル「ADVANCED TOURER CONCEPT」
スバル「ADVANCED TOURER CONCEPT」

 HVは、もはや完全に市民権を得ている。トヨタの「Prius」や、ホンダの「INSIGHT」が有名だが、HVシステムの小型化により、ガソリン車用に設計された車体にHVシステムを搭載したクルマが増えてきた。今回のモーターショーでは、トヨタがコンパクトサイズのHV専用モデル「AQUA」を発表したほか、スバルがHVコンセプトカー「ADVANCED TOURER CONCEPT」を発表している。今後、HVはいかに価格をガソリン車に近づけるかが鍵になりそうだ。

 

 

重みを増すクルマの役割

トヨタスマートモビリティパーク
トヨタスマートモビリティパーク

 第3のエコカー以外は、アシスト比率こそ違うものの、いずれもパワーユニットにモーターを採用している。このことからもわかるように、次世代パワーユニットの本命は、迷うことなくEVと言えるのだが、高い車両価格と、不足気味な充電インフラが普及に歯止めをかけている。車両価格は補助金やエコカー減税などにより、現実的な価格に落ち着いてきた。量産効果が現れれば、実質的な価格も下がってくるだろう。しかし、充電インフラはというと、増えてきたものの、ガソリンスタンドのように気軽に立ち寄れる状況にはほど遠い。また、地域的な偏りも大きい。加えて原発事故以降、電力不足が懸念されているため、持続可能な充電インフラが求められている。このテーマには各社が取り組み始めているが、1歩リードしていると感じたのが、トヨタと日産だ。

 

日産スマートハウス
日産スマートハウス

 トヨタは今回のモーターショーで、「スマートモビリティパーク」という次世代充電ステーションを提案した。太陽光や風力などの発電機能と、蓄電施設を備えており、EVやPHVに充電することができる。また、エネルギー管理システムとの連携により、クルマのエネルギー管理や、カーシェアリングにも対応できるという。

 

 日産は、未来型「スマートハウス」や、「LEAF TO HOME」というシステムを発表した。「スマートハウス」は、ソーラーパネルと燃料電池によって発電する電力供給システムだ。もう一方の「LEAF TO HOME」は、「LEAF」のバッテリーを家庭用電源として使うシステムを指す。「LEAF」のバッテリーには、なんと家庭が2日間に使う電力を蓄えることができるという。「スマートハウス」と「LEAF to Home」を組み合わせれば、天候に左右されることなく、安定した自家発電が維持できるというわけだ。また、夜間、「LEAF」のバッテリーに充電した電力を、需要が高まる昼間に家庭で活用することで節電にも貢献する。

 

 これらのシステム、とりわけ日産のシステムは、エネルギーの安定供給と、環境負荷削減の面で、EVが核になり得ることを意味する。モビリティーとして進化を続けてきたクルマは、新たな役割を担うために走り出そうとしているのだ。

 

PROFILE

岩間 敏彦(いわまとしひこ)

カメラマン&ライターとして、環境、住宅、自動車、地域振興など、さまざまな分野での情報発信に携わる。里山好きが高じて、NPO法人里山保全再生ネットワークの代表も務める。また、環境教育プログラムにも携わっている。

 

NPO法人里山保全再生ネットワーク http://satoyama-saisei.net/


 

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