捨てられていた「振動」で発電。日常はエネルギーに満ちている。

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歩くだけで発電する「発電床®」の生みの親、株式会社音力発電 代表取締役の速水浩平さんにお話を伺いました。

 

取材・文/中島まゆみ

撮影/小林伸司(神永写真館) 

速水 浩平(はやみず こうへい)さん

1981年栃木県生まれ。慶應大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科に進学。在学中に音の振動で発電する仕組みの基礎研究を開始、大学院1年目の2006年9月に株式会社音力発電を設立して起業した。その後、ビジネスコンテストでの表彰や新エネルギー賞など数々の賞を受賞、「発電床®」を代表とする数々の製品開発を手がけてきた。現在は、5名のメンバー(役員、従業員等含む)とともに、音力・振動力のみならずエネルギーハーベスティング全般の研究開発に取り組んでいる。

 

株式会社音力発電 http://www.soundpower.co.jp/

逆転の発想で開発した、歩くエネルギーで発電する「発電床®」

 つるりとした50cm四方の床板。その上で足踏みすると、つながれた小さなLEDのイルミネーションが緑色に灯る。手品のような仕組みに、思わず心がおどる。名前は「発電床®」。開発をしたのは、新進気鋭のベンチャー企業、株式会社音力発電 代表取締役の速水浩平さんだ。

 

 「弊社の社名にもなっている”音力発電”という技術は、電気で音を鳴らすスピーカーの原理を逆手にとって、音や振動から電気をつくり出せないかと思ったことが開発のきっかけです。使っているのは、100円ライターにも使われている圧電素子(ピエゾ素子)で、100円ライターはパチンという一瞬の大きな力で発電するのに対し、発電床®ではそれより大きな複数の圧電素子を使ってシンバルのように振動を共振させ発電しているのが特徴です。エネルギーとしては非常に小さなものですが、それでも、真っ暗では危なくて歩けないような道路や階段にフットライトの明かりを灯すくらいにはなります。小さなエネルギーで事足りる場所や動作は意外に多いんです」

 そういって速水さんが差し出したのは、ボタンを押す振動で無線を飛ばせる電池レスリモコン。ファミリーレストランなどで利用しているコールボタンには乾電池が使われている。乾電池は残量にかかわらず約1年間で交換され廃棄量もランニングコストもばかにならないが、この電池レスリモコンなら不要だ。工場で動く機械の振動も、エネルギーに変換すれば異常を感知するセンサーの動力などに利用することが可能になる。

 

 どうやら速水さんの手にかかると、常人では発想し得ない場所にエネルギーを見い出し、電気という形に変えてしまうことができるようだ。

子ども時代の発明メモが、ベンチャー企業設立の布石に

 聞けば、幼少の頃からユニークな発想の持ち主だったという速水さん。先の発電床®も、小学校の理科の授業で思いついた、音のエネルギーを使用して発電させる技術「音力発電」を応用して開発したものだという。

 

  「当時も、音という振動を使えば電気がつくれることまでは理論的にわかったのですが、開発がうまくいく年齢ではありませんでしたから、日々いろいろと思いつくものを発明ノートのようなものに書き溜めるようにしていました。1日に1~2個のペースで数千に達したと思います。その中からおもしろいと思ったものを心に留めておき、大学に入ったとき、誰も成功していないオリジナルの研究対象を、と手がけたものが発電床®だったのです」

 

 高校2年のとき、アメリカで先行していた大学発ベンチャーに興味をもった。ベンチャーの起業を念頭に、日本で当時先駆的にベンチャー創出支援をしていた慶應大学に進学。大学2年生で基礎研究をはじめ、大学院1年目に起業して研究を確立させた。

 

 「起業してみてわかったのは、研究開発と実際のものづくりとの大きな違いです。耐久性や信頼性、生産効率など手法も常識も全く違うなかで、お互いに時間をかけてやり取りしながら信頼を築いていくしかありません。ベンチャーならではの大変さかもしれませんが、今では非常に良い付き合いができています」

 

 開発した商品のなかには、レンタル用となり普及の一貫に活用されるもののほか、既に製品化されているものもある。発電床®も順調に開発が進み、昨年からは、床材最大手企業を介してカーペットタイプやエンビタイル版などの量産が始まっている。

 

“エネルギーハーベスティング”で適材適所のエネルギー利用が始まる

 「音を出したり無線を飛ばしたりする程度のエネルギーは、身の回りのどこでも収穫することができます。組み合わせ次第でいろいろな利用法を生み出すことも可能です。使われずに捨てられていたエネルギーを収穫して使うという考え方は“エネルギーハーベスティング”と呼ばれ、欧州では約10年も前からいわれていることです。エネルギー密度が濃い火力発電のような大型発電設備に対して、風力や太陽光は少し薄くなり、エネルギーハーベスティングとなるとさらに密度は薄まります。しかし今後は、大規模発電一辺倒ではない、薄いエネルギーでも十分な、ちょっとした発電需要が確実に増えていくと見ています」

 

 その最たるものの一つが「水」だと速水さんは指摘する。日本には、水路という小さなエネルギーが多数存在する。しかし、落差や水利権、コストなどの問題が壁になり有効活用しきれていない。速水さんは現在、こうしたエネルギーを利用するため、「従来のダムや小水力発電とは違う発電手法の研究開発を手がけている」と明かす。

 

 「落差がないところでも、ある程度の流量さえあれば小さな電力が得られます。規模は1~10kW程度ですが、使いようによっては十分です。既存の技術の積み重ねは大切ですが、固定観念にとらわれすぎると新しいものも生まれません。これからは、スマートグリッドや電力の分散化、地産地消の発電などがさらに注目されるようになり、エネルギーハーベスティングも大きな流れのひとつとして社会に役立つ技術になっていくでしょう。株式会社音力発電でも、新しいライフスタイルの提案を含めた開発や普及の手伝いをしていきたいと思っています」

 

 現在手がけている新手法の小水力発電をはじめ、常時、多くの開発が併走しているという速水さん。きっと近いうちに、発電床®のように周囲をあっと驚かせる技術を披露してくれるにちがいない。

 

 エネルギーいうと、つい大きな問題と捉えがちだ。そのため、電力会社まかせ、国まかせになり、自ら遠いものにしてしまっている。しかし、日常を見ればエネルギーはそこかしこにあふれている。従来のエネルギー社会にパラダイムシフトを起こす呼び水として、速水さんの発明にかかる期待は高まるばかりだ。

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