2011年5月8日 「ロラン島が今、被災地に役立てるとしたら…」

 この度の東北大震災では、多くの方が犠牲になり、今も行方不明の方、長期間に渡る避難生活を強いられている方、不自由な生活を余儀なくされている方がたくさんいらっしゃいます。犠牲になられた方々とご遺族の皆さまに対し、深くお悔やみを申し上げます。また、被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

 

 3月11日の大震災を、私はロラン島でいつものように迎えた朝、ラジオで知りました。直後につけたデンマークのテレビでも、被害の大きさ、深刻さをニュースが24時間態勢で伝え、頭の中が真っ白になりました。日本の家族や友人と連絡を取ろうとしたり、ニュースを見たりしては無力感に苛まれ、泣き暮らす日々を数日間過ごしていました。幸い、その数日間のうちに、家族もほとんどの友人も無事が確認できましたが、このままではいけない、デンマークからでも何らかの形で被災地の役に立てるはずだ、と思い始め、ロラン市をはじめ、デンマークの知り合いに連絡を取り、同時に、日本の被災地の情報を集め始めました。デンマークの多くの友人たちも、日本の未曾有の自然災害と原子力発電所の相次ぐ事故など不穏な状況に、大変心を痛めていましたし、何か役に立てることはないか、と気遣いを見せてくれる人たちもたくさん連絡をくれました。

 先日、ロラン市でずっと環境エネルギー政策の現場で指揮を執ってきている、プロジェクトマネージャーのレオ・クリステンセン氏と会って、日本の被災地の状況などについて意見交換をしました。ロラン島は、自然災害でこれほどの甚大な被害を受けたことはありませんが、以前にこのコラムでも述べたように、80年代の重工業の衰退による失業率の急激な悪化(20%以上)や人口流出を、再生可能エネルギー関連企業の誘致や再生可能エネルギーR&Dを目指すという政策転換で食い止め、自治体を「復興」させた経験を持ち、今もその政策は進化を続けています。大震災発生以来、福島第一原子力発電所の事故もあり、被災地は広範囲に及び、それぞれの地域特性に合った復興プランが求められています。中には、海外からの英知も受け入れたいとする被災地域や自治体もあり、その声に応えるため、現在、ロラン市でも、20年以上に及ぶ持続可能なエネルギー、地域社会づくり政策の実績を活かそうと、これまで培ってきた大学、研究所、企業など国内外の専門家のネットワークも利用しながら、復興プランづくりの支援に乗り出しました。ロラン島が最も得意としてきた風力発電と、藁や木屑、廃材、廃棄物を燃料とするバイオマス、主に家畜の糞尿を燃料とするバイオガスのコージェネレーション設備、波力+風力発電、再生可能エネルギーをムダなくバランスよく使うための、スマートグリッドの構築、送電によるロスをできる限り少なくし、地域に職と労働力を取り戻すための産業の誘致策、食料としての穀物、野菜生産ができない、放射能汚染された土壌の浄化を行うための、ファイトレメディエーションと、そこから生産された植物をバイオマス燃料とするための、汚染物質除去効果のある焼却施設設置のノウハウなど、幅広い支援が期待されています。また、子ども時代から自然に親しみ、自然の摂理や自然エネルギーについて親しんでもらうための、森の幼稚園や学校での環境教育なども、ぜひ被災地の地域復興の参考になればと考えています。

現在のロラン島の再生可能エネルギーへの取り組みの代表的なものは、以下の通りです。

 

●風力発電…多くの市民が風車を個人で、または組合で所有し、自らが発電、売電に関わっている他、2010年にはニュステッド沖のロドサン海上風力発電パークのパート2が稼働を開始し、2003年にオープンしたパート1と合わせると、合計162基の海上風車が、トータル14億kWhのグリーン電力を生産しています。これは、ロラン島と隣のファルスタ島のエネルギー需要の約5倍にあたるため、余剰エネルギーをコペンハーゲンなどの大都市に供給しています。

 

● 水素コミュニティ…ヴェステンスコウにある、世界初の水素コミュニティは、フェイズ2までの実証実験をもとに改良された、第三世代のマイクロCHP(熱電供給)システムの導入が、急ピッチで進められています。まずはヴェステンスコウの町に40軒、さらに、2012年末までに第四世代のマイクロCHPを開発して商品化を目指し、国内1万軒の水素ハウス化を計画しています。

 

● 藻の研究…近い将来のグリーンなエネルギー源、ハイバリュー・コンポーネントの原料として、また食料生産の原料として、グリーンセンターや各大学、アメリカNASAとの共同研究を続けています。

 

 ロラン市のようなデンマークの地方自治体も、日本と同様に都市部にエネルギーを供給する大切な役割を担っていますが、今後は、日本でも原子力発電に頼る仕組みから、電力の供給元の地域、自治体に負担をかけない仕組みが必要になってきます。そのためにも、これまでの、ロラン島やデンマークのグリーンエネルギーに関する知恵を、被災地復興に最大限に活かしてもらえるよう、現在、ロラン市と共同で日本とデンマークとの間でのワークショップなどの企画を進めています。企画の概要が決まり次第、順次、このコラムにてご報告していこうと思っています。

 

お問い合わせは、エコロジーオンラインまでお願いいたします。

PROFILE

ニールセン 北村 朋子(にーるせんきたむらともこ)

デンマーク・ロラン島在住のライター、ジャーナリスト、コーディネーター。再生可能エネルギーの利用などの環境や食など、地球と人にうれしいライフスタイル追求がライフワーク。森の幼稚園の運営委員、ロラン市地域活性化委員、デンマーク・インターナショナル・プレスセンター・メディア代表メンバー。

 

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コメント: 2
  • #1

    岡田 大輔 (木曜日, 18 10月 2012 15:26)

    2012年10月18日 大阪から視察でロラン島にスマートシテイの視察に

  • #2

    岡田 大輔 (木曜日, 18 10月 2012 15:30)

    本日ロラン島に視察に伺います。

    視察のみどころ等御座いましたらご教授願います。


    Mail:daiokada491008@gmail.com

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