被災乗り越え、省エネ型水耕栽培で農業の再興をはかる

省エネ型水耕栽培技術を活用した植物工場
省エネ型水耕栽培技術を活用した植物工場

 東日本大震災によって発生した大津波は、太平洋沿岸の農地 23600 ha に甚大な被害をもたらした。約1年が経過した現在も、被災地の農業の復旧・復興にはまだまだほど遠い状況にある。震災前から抱えていた高齢化や後継者不足などの課題に加え、行政による農地の復旧工事の遅れ、過去の借金が負担となって再建のための資金調達が難しくなる二重債務など、さまざまな問題が壁となり、営農再開への道のりは険しい。そんななか、これまでとはまったく違う農業経営で再建に踏み出した生産者たちがいる。仙台市宮城野区でそれぞれ農業を行っていた瀬戸誠一さんら3農家が、共同で立ち上げた農業法人「さんいちファーム」だ。

 


省エネ型の植物工場

 さんいちファームが目指すのは、水耕栽培による農業復興。植物工場事業で実績のある環境コンサル会社・リサイクルワンと連携し、今年1月、塩害被害が著しい宮城県名取市の農地で、600坪の水耕栽培プラント3棟の建設がスタートした。同社はプラント建設のほか、出資や国や県への補助金申請、外食産業を中心とした販路の開拓など、さまざまな形でさんいちファームをサポートする。

 

 このプラントの大きな特徴が、省エネ型の栽培システムだ。水耕栽培では植物の根を水に浸して育てるが、水槽の下にコンダクションチューブと呼ばれる熱交換パイプを巡らせることによって、根の部分だけを一定の温度に保つ。これにヒートポンプを組み合わせることによって、建物全体を暖房する通常のハウス栽培と比べて約4割の省エネを実現した。このほかにも、自然光の活用や水の循環利用によって新たな加水を必要としない構造、震災で発生した廃プラスチックごみをリサイクルして栽培用の架台を作るなど、あらゆる部分で無駄なエネルギーとコストを削減。LED照明やクリーンルームといったハイテク技術に頼ることなく、初期投資や運営コストを極力抑えることで、大きな資金の調達が難しい被災農家を後押しする。

 

被災地で回収された廃プラスチックから製造される水耕栽培用樹脂架台
被災地で回収された廃プラスチックから製造される水耕栽培用樹脂架台

水耕栽培で生産実績のある野菜
水耕栽培で生産実績のある野菜

 水耕栽培のメリットとしては次のような点が挙げられる。(1)栽培ベッド(水槽)は腰の高さに設置されるため、作業者の体への負担が小さい。 (2)通年出荷が可能で店側は年間を通じて一定価格で野菜を仕入れられる。農家の収入も安定する。 (3)土からの病害虫の影響を受けないため、無農薬栽培を行いやすい。 (4)レタスなどは丸くならずにリーフ状に育つため、外葉を捨てる必要がなく可食部が多い。

 


 こうした要素に加え、購入すること自体が被災農家の直接支援につながるということもあり、すでに「世界の山ちゃん」を展開するエスワイフードやシダックスといった大手外食チェーンも、次々と導入に名乗りを上げているという。同ファームで栽培する野菜は、市場を介さずに外食産業やスーパー、社員食堂などへ直接販売する6次産業化の形を取る。

 

飲食店やファンドを通じて応援

「現在は、レタスやサンチュ、トマトなど、取り扱いを希望する野菜のヒアリングを進めながら、水耕栽培による農業復興に賛同してくれる飲食店を増やしている段階です。物流コストの問題もあり、小規模や個人経営の飲食店への納入は難しいのですが、商店街単位での共同購入の仕組みも計画しています。消費者のみなさんは、復興野菜を扱うお店を積極的に利用することで、間接的に農家さんを支援できます」

 

 そう話すのは、野菜の販路開拓を支援している「被災農家を応援する会」代表の田宮嘉一さん。我々一人ひとりが「水耕栽培による野菜を食べたい」と声を上げることが、農家の復興への力になるのだという。現状では個人向けの野菜販売はないようだが、被災農家を直接支援できる方法はないのだろうか。

 

セキュリテ被災地応援ファンド(クリックでサイトへジャンプします)
セキュリテ被災地応援ファンド(クリックでサイトへジャンプします)

「ミュージックセキュリティーズが販売する『被災地応援ファンド』を通じて支援することができます。応援ファンドは、投資が半分、寄付が半分という形をとっていて、1口あたり出資金5000円と応援金5000円、手数料500円の10500円から参加できる仕組みです。あくまで投資ですのでリスクはありますが、1000円相当の無農薬野菜や、野菜卸先飲食店のクーポン券といった特典も付きます。被災農家の早期再建をぜひ一緒に応援しましょう」(田宮さん)

 

建設中の水耕栽培ハウス
建設中の水耕栽培ハウス

 植物工場の完成は5月を予定。1棟あたり7~8名の雇用創出を見込んでいるという。被災地の未来を覆う霧はまだ晴れないが、それでも前へ進もうと、水耕栽培という新たな一歩を踏み出したさんいちファーム。「自分たちが成功すれば、若い人たちがやりたいと思うかもしれない」と語る瀬戸誠一社長の表情は明るい。被災地復興ならびに日本の農業再生のモデルとなれるか。そのチャレンジは始まったばかりだ。

 


 

さんいちファーム http://www.sanichifarm.jp/

さんいちファーム野菜ファンド

http://www.musicsecurities.com/communityfund/details.php?st=a&fid=214

みんなで応援!被災農家復興プロジェクト http://ktamiya.posterous.com/73255241

野菜やコム http://yasaiyacom.jp/

 

PROFILE

加藤 聡 (かとう さとし)

 

エコロジーオンライン編集部。埼玉県出身。大学卒業後、編集プロダクション、広告代理店勤務を経てフリーライターに。環境・サステナビリティをメインテーマに、雑誌からWEB、フリーペーパーまで幅広く執筆中。担当書籍に『地域力 渾身ニッポンローカルパワー』(講談社)等。

 

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コメント: 1
  • #1

    児玉 芽 (月曜日, 05 12月 2016 00:14)

    こんばんは。

    実際、土の農業とアクアポニックスでは、始める時の費用はどちらが安いですか?

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