パウンドケーキ作りから学ぶ持続可能な地域づくりとは

太陽の力でふっくらと焼きあがったパウンドケーキ
太陽の力でふっくらと焼きあがったパウンドケーキ

 昨年末の12月14日、群馬県大田市にある「東毛青少年自然の家」で開催された環境イベント「太陽の力でパウンドケーキを作ろう!」。私も参加者の一人として、太陽の大いなる力と可能性を体験してきました。

 

 チャウス自然体験学校の主催で行われた本イベントのサブタイトルは、「楽しみながら、持続可能な地域づくり(ESD)を考えよう!」。ESDとは、社会の課題と身近な暮らしを結びつけ、新たな価値観や行動を生み出すことを目指す学習や活動のこと。世界には、環境破壊や貧困、紛争といったあらゆる問題が起きていますが、これらを解決するためには、私たち一人ひとりが、これらの問題に対して、考え、立ち向かわなければなりません。そのために必要な力を育むESDは、今年11月に日本で国際会議が行われるなど、いま世界から注目を集めている取り組みです。

 

ソーラークッカー。傘のような形をしているのがパラボラ型
ソーラークッカー。傘のような形をしているのがパラボラ型

 この日、太陽の力を集めるために使った道具は、小さなソーラーパネルと充電式バッテリーを組み合わせたナノ発電セットと、太陽熱調理器・ソーラークッカーの2つ。これに、太陽の光で育った樹木から作る薪を加えた3種類の方法で、パウンドケーキとご飯を作ろうという体験プログラムです。

 

 ソーラークッカーの紹介を担当したのが、足利工業大学の中條裕一教授。ソーラークッカーにはさまざまな形がありますが、中条教授が持参したのは、ダンボール製のパラボラ型とパネル型。パラボラ型は、早く高温になるため、短時間での調理が可能な一方で、太陽の動きに合わせて頻繁にクッカーの向きを調整しないとなりません。パネル型クッカーは、その構造がシンプルなため、安価での購入や制作がしやすいという利点があるそうです。

 

ソーラークッカーについて説明する足利工業大学・中條祐一教授(中央)
ソーラークッカーについて説明する足利工業大学・中條祐一教授(中央)

 調理方法は黒い小さな鍋に材料を入れて、鍋をビニール袋に入れて口を結ぶだけと、いたって簡単。あとはそれぞれのソーラークッカーに置いて待っていれば完成です。パウンドケーキが完成するまでの間、ソーラークッカーにまつわるクイズを楽しみました。そこで知ったのが、いまも世界の多くの地域で、煮炊きの燃料として薪が使われ、そのための伐採が深刻な森林破壊の原因となっているという現実。ソーラークッカー1台で年間約1トンの薪を節約できるということから、地球の森林資源を守ることに大きく貢献できることもわかりました。

エコロジーオンライン・上岡裕理事長によるナノ発電所の解説
エコロジーオンライン・上岡裕理事長によるナノ発電所の解説

 続いて、ナノ発電セットの説明を行ったのは、NPO法人エコロジーオンライン・上岡裕理事長。ナノ発電セットは、家庭で簡単に自然エネルギーを利用できる世界一小さな発電所です。太陽光パネルに扇風機を接続してみたところ、太陽の下では羽根が回り、日影に入ると止まることが確認できました。通常の電化製品は電気が安定していないと動かないことから、太陽光パネルで発電した電気はいったんバッテリーに貯めて使います。ナノ発電セットによる調理は、消費電力の少ない炊飯器を利用して行いました。

 

 トリを務めたのは、東毛青少年自然の家の山口智義先生による薪の解説です。かつて薪は、人家に近い里山にある広葉樹を利用していました。主な薪の材料としてはコナラがあり、コナラは人々によって植えられ、木は薪に、落ち葉は畑の肥料として利用されていたそうです。近年、薪があまり利用されなくなった理由としては、木を山から切り出す際の手間や、薪づくりには時間も体力も使うという部分が一番大きいとのことでした。

 

火の着きやすい薪の組み方を学びます
火の着きやすい薪の組み方を学びます

 私自身、3.11以降、これまでの生き方を変えて暮らすようになりました。持続可能な社会の実現のため、自ら行動を実践していきたいと思ったからです。自宅には太陽光発電システムを導入し、仕事は、地域の里山資源を活かした木材製紙パルプチップの製造会社に転職しました。そして今回のプログラムは、いずれ来る首都直下地震の減災に、きっと役立つのではないかとの考えがありました。ただソーラークッカーについては、環境教育で活用されていることこそ知っていましたが、実際のポテンシャルを実感するまでには至っていなかったため、この目で確かめたいと思ったのです。

 

太陽光で発電した電気でご飯が炊けました!
太陽光で発電した電気でご飯が炊けました!

 3種類の太陽の力を体験してみてわかったのは、それぞれ長所と短所があるということです。ソーラークッカーは熱を作るのが得意ですが、太陽が出ていないと調理ができません。ナノ発電所も晴れていないと発電できませんが、電気を貯めておけるので、曇や夜間でも使うことができます。薪は里山にある持続可能なエネルギーですが、日常的に都市部で使うには難しい。調理にはソーラークッカー、携帯電話やラジオなどの情報源の確保にはナノ発電所の電源を。薪では調理と暖を取るというように、それぞれの特徴を活かし、上手に使うトレーニングを行っていけば、いざという時の減災に役立てることができるはずです。効率的な太陽光の当て方や、針葉樹と広葉樹の薪の性質の違いは、普段の勉強で教えてもらうことはできません。そして太陽の活用に加え、かまどやロケットストーブづくりなども、楽しみながら学べる機会があれば、それはまさに「生きる力を育む」というESDの実践そのものでしょう。そういった意味で、今回のようなプログラムでの啓発がますます重要となることを強く感じたのでした。

 

チャウス自然体験学校 「楽しみながら、持続可能な地域づくり(ESD)を考えよう!」

http://www.chaus-neos.com/event/esd/index.htm

 

取材・文/溝越 剛

 

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