· 

SDGsはいかに政治を変えたのか?科学的エビデンスから考える。

 世界的な科学誌である「Nature Sustainabirity」が6月20日、❝Scientific evidence on the political impact of the Sustainable Development Goals❞という論文を掲載した。

 

 この研究を発表したのはオランダを中心とする61人からなる国際研究チーム。2016年~21年に発表された3,000以上の論文からSDGsが政治に与えた影響のエビデンスを抽出して分析した。

 

 グローバルなガバナンス、国の政治システム、政府機関・政策の統合性・一貫性、地域社会からグローバル社会に至る包摂的なガバナンス、環境・生態系保全の5つが分析の対象となった。その結果、SDGsという概念は散漫に世界に広がり、規範や制度など政治的な変化が一部あったものの、その影響は分散してしまい、大きな変革に至っていない現状が明らかになった。SDGsの影響は限定的であり、いまだに社会を大きく変革するものになっていないのだ。

 

 こうした現状の背景にあるのは法的拘束力のないSDGsの自由さが原因ではないかと分析。多くのステークホルダーが関わりやすいように緩く設計された目標によって自由な解釈が生まれ、しばしば都合のよい使われ方をされているという。企業にとってビジネスを持続可能にする強力なツールであるとともに、これまで通りのビジネスを続け、SDGs に取り組んでいるふりをするだけの「SDGsウォッシュ」につながるとの研究もあった。

 

 多くの研究が指摘したのは行政的な制度の統合と政策の一貫性の確保の難しさだ。はびこる役人根性、政治的関心のなさ、目先のことしか考えない政治、当事者意識の衰えなどがその障害となる。それを乗り越えるには、政治的なリーダシップ、政策担当者の継続的な努力、市民組織からの圧力などが必要となる。

 

 SDGsは地球を持続可能にするためのグローバルな取り組みを下支えし、社会、環境、経済の政策をオーケストラのように統合するものだと期待する研究者や政策担当者もいる。だが、その思いとは裏腹に現在のSDGsは演奏者たちが勝手な解釈で演奏する交響曲のようだと指摘する。指揮者であるはずの国連が演奏者たちに調和したハーモニーを奏でさせ、持続可能な交響曲をリードしているエビデンスが見られないのだ。

 

 かなり手厳しい内容ではあるのだが、アフリカでの研究において貧困や不平等、脆弱性のなかにある人々を動かし、声を集め、特定のSDGsのゴールを動かす役割をする市民社会組織の存在も紹介している。こうした国家を超えた役割を果たすグループの出現によって、SDGsの達成に向けた多様で複合的なアプローチの出現が示唆されていると好意的だ。

 

 この研究が示すようにSDGsはそれ自体では完璧なものではない。多くの人が持続可能な社会を目指し、現状を変える意思を持ち、積み重ねた努力によって達成される。

 

 歩みを止めることなく、アクションを積み重ねていきたい。

 

*詳しくはこちらの研究・記事をお読みください。

Scientific evidence on the political impact of the Sustainable Development Goals

SDGs、制度変革至らず 言及増も「つまみ食い」

翻訳・文 / 上岡 裕

«一つ前のページへ戻る