EXPO2010上海、グリーンシティ・フライブルクの展示

フライブルク市の「ヴォーバン住宅地」 (出典:フライブルク市、http://www.freiburg.de/servlet/PB/menu/1167123_l1/index.html

 

 いよいよ上海万博がはじまりました。1,000万人規模を誇る大都市上海が、人口22万人の小都市フライブルク市に対し、ここで行なわれている「Better City, Better Life」の事例を紹介してみないかと誘われてから、すでに2年、その後準備を重ねてきたフライブルク市の展示もすでにはじまっています。

 

 この上海万博への展示については、地元では様々な議論が続けられてきました。最も大きな混乱は、行政が先導してこの万博進出プロジェクトを進めてきたのですが、その展示の目玉となるフライブルク市の中で最も有名な「ヴォーバン住宅地」は、当初、行政による都市計画案を市民が覆す形で実現した住宅地計画であり、この展示計画策定の際においても、行政と市民――とりわけヴォーバン住宅地の住人――との間に温度差、そしてコンセプトへの感覚の違いがあったことです。とりわけ滑稽なのは、最終的な完成局面を迎えているヴォーバン住宅地の入り口部分にある商業+住宅の混合ビル計画において、市議会を2分するほど行政案と住民案との間で齟齬が生じていることです。現在も、この入り口部分のビル建設予定地は、移動生活者たちによる占拠が続けられており、当初予定されていた仮設の万博出展記念用の場外パビリオン建設も頓挫しています。

ヴォーバン住宅地の入り口の占拠の状態

(出典:ヴォーバン住民団体(NPO)のホームページ:http://www.stadtteilverein-vauban.de/akt.html

 

 とはいえ、行政側もかなりの譲歩をし、展示ブースのデザインや企画の際には、住民側に近い芸術家なども合わせて採用することで、バランスを取っています。

http://www.expo2010.freiburg.de/

 

 また、展示のアトラクションとして、フライブルク市の立地する黒い森の特産品「カッコウ時計」によるコーラスが採用されました。これも、少し滑稽な感じがしないわけではありませんが、小都市として背伸びしないことは、悪いことではないでしょう。

http://www.dataphonic.de/prod_detail.php?bereich=db&projectnr=1&language=e

 

 どちらにしろ、ベストシティ実践区(万博Eエリア)において世界中から選ばれた55都市は、世界的に有名な大都市や観光名所がほとんどであり、その中でGreenCityコンセプトを主張している小さなフライブルク市のブースに数多くの来場者が訪れることを期待したいと思います。この万博のテーマからも現状が表されているように、中国をはじめとするBRICS諸国ではとりわけ都市住民の生活環境の悪化が著しいわけですから、上海万博がこの分野での改善への契機になれば思います。

http://jp.expo2010.cn/ztbd/ubpa/anliz.htm

 

PROFILE

村上 敦(むらかみ あつし)

ドイツ在住の日本人環境コンサルタント。理系出身

日本でゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、ドイツ・フライブルクへ留学

フライブルク地方市役所・建設局に勤務の後、フリーライターとしてドイツの環境施策を日本に紹介、南ドイツの自治体や環境関連の専門家、研究所、NPOなどとのネットワークも厚い

 

2002年からは、記事やコラム、本の執筆、環境視察のコーディネート、環境関連の調査・報告書の作成、通訳・翻訳、講演活動を続ける

 

専門分野:

1.環境に配慮した自治体の土地利用計画、交通計画、住宅地開発計画

2.自治体レベルのエネルギー政策、気候温暖化対策

 

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