安全で安心な未来のための節電を!

 いま、日本で発電される電力に占める原子力発電の割合は29.2%に及ぶ。政府は原子力発電について、「供給安定性と経済性に優れた準国産エネルギーであり、発電過程で二酸化炭素を排出しない低炭素電源である」とし、基幹電源に位置づけてきた。2005年10月に閣議決定された原子力政策大綱では、「2030年以降も総発電電力量の30~40%という現状水準か、それ以上の供給割合を原子力発電が担う」こととされている。また、2010年6月に閣議決定された最新のエネルギー基本計画では、「2020 年までに9基の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約85%を目指す(2008年度設備利用率約60%、1998年度約84%)。さらに、2030 年までに、少なくとも14 基以上の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約90%を目指していく」と明記されている。

 

 しかし、このシナリオは破綻した。3月11日に起きた東日本大震災により、福島第一原子力発電所が津波の被害を受け、6基ある原子炉のうち4基が制御不能な状態に陥ったのだ。そして報道されているように、水素爆発事故や燃料棒の溶融、放射性物質による大気や水の汚染事故などを起こし、被災地はもとより全国に不安をまき散らしている。もはや原子力発電は、政府や電力会社が発信していた「安全でクリーン」という形容詞が通用しなくなった。

 

 一方で東京電力は不足電力を補うために、被災した火力発電所の復旧や、長期休止に入っていた火力発電所の運転再開などを進めている。しかし、火力発電所の燃料は化石燃料であり、温室効果ガスの削減が必要ないま、長期的に頼れる発電方法ではない。

 これらの事実は、私たちがこれまでと変わらない、電気に頼った生活を求めたとしたら、安全で安心な暮らしが担保されないことを意味する。従って従来の原子力発電を基幹に据えたエネルギー政策に「NO!」という意志を示すのならば、節電はすべての地域で必要だ。

 

しばらくは両立が困難な利便性と安全性

中部電力 浜岡原子力発電所
中部電力 浜岡原子力発電所

 節電がエネルギー政策への意思表示につながる理由は明確だ。日本では一定量の電気を安定的に供給する電源、つまり「ベース電力」を、主に原子力発電と流込式水力発電(水力の流量をそのまま利用する型式)に頼ってきた。そして時間帯により需要量が変動する「ピーク電力」については、火力発電や揚水式水力発電、一般的な水力発電などの、稼働率が調整しやすい方法で発電してきた。

 

 ところが東電管内では、今回の福島第一原子力発電所の事故で「ベース電力」が著しく不足した。火力発電所の損傷も重なり、暖房等による電力需要が嵩むなかで計画停電もやむを得ない事態に至ったのだ。あまり考えたくないことでが、このようなことは各地でも起こりうる。なぜならば「ベース電力」を原子力発電に頼る電力会社が多いからだ。東京電力は32.1%だが、北陸電力、関西電力、四国電力、九州電力のように、約50%を原子力発電に頼っている地域もある。

 

 このような電力事情の中、「原子力発電に頼りたくない」、「温暖化も進めたくない」と考えるのならば、節電によって「ベース電力」、「ピーク電力」ともに低減させる必要がある。家庭での電力消費量は全体の33%を占める(2009年)から、一人ひとりの節電でも効果はある。節電に励みながら再生可能エネルギーの普及を応援する。こうした行動がエネルギー政策への意思表示になるのだ。

 

節電から電気に頼り切らない生活へ

 節電という言葉の意味合いも変えていく必要がある。電力量が足らないから、仕方なく節約するという受動的な意味ではなく、電気だけに頼らないライフスタイルを選ぶという能動的なイメージだ。電気だけに頼らないライフスタイルに転換することは、そんなに難しくない。下記に掲げる事例のように、使用時間のダイエット、消費電力のダイエット、脱電力の三本柱で考えると取り組みやすい。

 

■ 使用時間のダイエット

電気機器のスイッチをこまめに切ることや、使用していない電気機器のコンセントを抜いて待機電力をカットすることが大切だ。また、テレビの視聴時間を短縮したり、洗髪後にタオルで水分をできるだけ吸い取ってからドライヤーを使うなど、電気機器の使用時間を短縮することも重要となる。生活を朝型に切り替えることにで、夜の消費電力量を減らすことにもつながる。

 

■ 消費電力のダイエット

冷暖房機器の設定温度を控え目に調整する、テレビのディスプレイを暗くして音量を下げる、パソコンの電源オプションをシテスムスタンバイに設定するなど、ちょっとした工夫で消費電力をダイエットすることができる。また、LED電球などの省エネ機器に買い換えることも検討してほしい。

 

■ 脱電力

食器洗い、調理、掃除など、労を惜しまなければ、電気に頼らなくてもいい場合はたくさんある。無理のない範囲で脱電力を考えていこう。

 

 こうした工夫に加えて、発電設備はピーク需要にあわせて建設する必要があることから、電力消費のピーク時間帯に、なるべく電気を使わないようにすることも大切だ。冷暖房がそれほど必要ではない春先なら、8~9時ごろと18時~20時ごろがピークとなる。この時間帯はたとえ短時間でも、消費電力量が大きい電気機器(電子レンジ、掃除機、IHクッキングヒーター、アイロン、ドライヤーなど)は、可能な限り使用を避けよう。

 

 この原稿を書いている最中の3月30日、菅総理大臣は、社民党の福島党首との会談で、エネルギー政策の見直しが必要という認識を示した。再生可能エネルギーへのシフトを推進する好機と言える。電気の使い方を見直す行動を通じて、私たちの意志を政府に届けようではないか。

 

文:岩間敏彦

 

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