全国に広がる自主上映の輪 『モンサントの不自然な食べもの』

 世界のGMO(遺伝子組み換え作物)市場のシェア90%を誇るアグリバイオ企業モンサント。この巨大多国籍企業の実態に迫ったドキュメンタリー『モンサントの不自然な食べもの』が、当初の予定を大幅に超えるロングラン上映となっている。

 

 9月1日に東京・渋谷のアップリンクで公開される前から先行自主上映も全国各地で開催され、その輪は広がる一方だ。

 


 同作品を監督したのは、フランス人女性ジャーナリストで、ドキュメンタリー映像作家でもあるマリー=モニク・ロバン氏。ロバン監督は、インターネット上にある膨大な「モンサント」に関する黒い噂をたどり、裏付けをとるために世界10ヵ国(アメリカ、ベトナム、インド、パラグアイ、メキシコ、イギリス、イタリア、スイス、ノルウェー、フランス)に赴いて証言を集め、撮影を行った。

 

 そこから浮き彫りになったのは、1世紀にわたる輝かしい業績の裏に隠された同社の暗部だった。20世紀最大の化学薬品会社モンサントの製品として知られているものに、枯れ葉剤、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、牛成長ホルモン剤、そしてGMOがある。

 

 ベトナム戦争で撒かれた猛毒のダイオキシンを含む枯れ葉剤は、37年経ったいまもなお環境を蝕み、人々の命を脅かしている。牛成長ホルモン剤やポリ塩化ビフェニル(PCB)は、安全性が十分に確認されないまま市場に送り込まれ、発がん性などの問題が指摘された。

 

 では、いま同社の主力商品として世界中を席巻しつつあるGMOについてはどうなのか。

 

 ロバン監督は、モンサントが国のトップに太いパイプをもち、自社製品に不利となる第三機関の研究報告を圧力でねじ曲げてきたことを関係者の証言をもとに暴露していく。

 

FDAが下した「実質的同等性」という判断

 以下、今年5月にロバン監督が来日した際の合同インタビューから抜粋する。

 

ロバン監督:

問題はこの映画でも語っていますが、モンサントがいかに巧妙にアメリカのFDA(アメリカ食品医薬局)に入り込んで、規制を牛耳っているかということです。


 FDA(アメリカ食品医薬局)とは、アメリカ国内で販売される食品や医療品、化粧品などについて、科学的な検証を行い、安全性や有効性に基づいて販売許可や違反の取り締まりを行う政府機関だ。役割としては日本の厚生労働省に匹敵するが、FDAの場合は世界的な権威といってもいい。

 

 そのFDAがGMOについて下した判断は、“実質的同等性”という原理だった。つまり、「GMOは従来の“品種改良”と同等のものである」という判断である。

 


 ところが当時、FDAの微生物部門のルイス・プリビル博士は「品種改良とGMOには大きな違いがある。リスクも異なる。GMOは危険な結果をもたらす恐れがある」とFDAに報告し、こうした懸念が多くの科学者から出ていたと『モンサントの不自然な食べもの』のなかで証言している。

 

ロバン監督:

こうした科学者たちの意見をまとめた報告書を、当時監視指導官だったリンダ・カール博士はFDAバイオ部門の責任者J・マリアンスキー博士に提出しました。それにもかかわらず FDAは “従来の大豆もGMOの大豆も同じである”と判断しました。このことについて、J・マリアンスキー博士は映画のなかで、「これは科学的な判断ではなくて政治的判断だった」と言っています。なぜかというと、“実質的同等性”と言いきってしまえば、今後はGMOについての実験や研究をする必要性はなくなるからです。それは、モンサントにとって好都合なことでした。

 

FDAがGMOを“実質的同等性”と判断したことによって、ヨーロッパも異議をとなえずに盲目的に受け入れました。フランスの緑の党の党員で、元環境大臣に会ったのですが、その人は98年にGMOの輸入協定にサインしたのです。どうして?と聞いたら、「アメリカのFDAは信頼できる機関なので、そのFDAが実質的同質性というなら、当然サインしてもいいと思っていた」と言っていました。

 

 映画のなかでは、GMOの安全性についての長期間にわたる実験を継続しようとした科学者が、職務を追われた事実が明らかにされる。

 

 さらに、ラムズフェルド元国防長官はモンサント子会社の元社長、通商代表部の元代表ミッキー・カンターはモンサントの役員、最高裁のトーマス判事は元モンサントの弁護士……。環境保護庁からモンサントへ、FDAからモンサントへ、モンサントからホワイトハウスへ……と、国のトップとモンサントとの癒着ぶりはすさまじい。


 これでは、モンサントに不利な試験結果が出たとしても、もみ消されてしまうのでは、と考えるのが普通だろう。

 

ロバン監督:

もし、モンサントがGMOは人体に影響がない、と確信があったのであれば、最も優秀な科学者を揃えて最低2年間は試験を行っていたはずです。そうすれば潔白だということが証明されたわけですが、モンサントは短期間の実験しかしなかった。

 

アメリカの国民たちは、15年間GMOを栽培し続け、食べ続けています。ナタネ油、コーンや大豆などの飼料……。でも、それに関するモニタリングは何もされていません。実質的同等性に基づいてすべてが混在しているので、それぞれの独立した調査結果は出ません。

 

 従来の作物と同じなのだから、「遺伝子組み換え」の表示義務はない。混在させてしまえば、どんな病気が出たとしてもGMOが原因とは判断できない。これもモンサントにとって実に都合がよいことだった。

 

 人体だけでなく、生態系に与える影響も懸念されている。映画の冒頭に登場するが、モンサントは除草剤ラウンドアップと、ラウンドアップに耐性をもたせたGMOのタネをセットで開発し販売する。ラウンドアップはGMO以外の植物をすべて枯らしてしまう強力な除草剤だ。


 近年、“生物多様性”や“共生”の重要性が言われるようになり、生態系は、微細なものから大きなものまで密接に関わり合ながら成り立たっていることがわかってきた。こうしたなかで、GMOのみを圧倒的に優勢にするバイオテクノロジーは果たして先駆的な技術といえるのだろうか。

 

 そしていま、私たちにとっての最大の脅威となっているのが、GMOのタネによる食糧支配だ。

 

タネを征するものは世界を征す

ロバン監督:

メキシコにトルティーヤというパンがありますよね。2007年に「トルティーヤ危機」がありました。モンサントと提携しているカーギルという穀物商社や多国籍アグロ企業が、トウモロコシに投機をしたのです。値段が上がると思ったので、自分たちの備蓄したトウモロコシを市場に出さなかった。それで危機が起きました。モンサントは食物連鎖をコントロールし、制覇しようというプロジェクトをもっています。なぜなら、タネは食糧の根源だからです。

 

 モンサントに代表されるアグリバイオ企業は、世界各国の種苗会社を買収、または業務提携して傘下に置こうとしている。映画では、こうした動きのなかで、世界第3位のコットン産出国インドで起きている悲惨な現状が映し出される。

 

 1999年、モンサントは、インド最大の種子企業マヒコ社を買収。2年後、インド政府はGMOによるBTコットン(害虫抵抗性綿)「Bollgard」の栽培を許可した。

 


 マヒコ社のサイトには、BTコットンは殺虫剤を78%削減し、収量を30%増やすとあるが、2006年にはBTコットンに病害が発生して大きな被害が出た。これは、リゾクトニア菌によって茎の内部が繊維状になってしまう“立ち枯れ病”だ。2001年に調査を始めたときは、BTコットンの一部のみの被害だったのが、在来種にも広がっているという。しかし、市場にはもはやBTコットンしか売られておらず、価格は在来種の4倍近い。農家はBTコットンのタネを買うために借金をし、不作なら破産だ。インド農村ではコットン栽培農家の自殺者があとを絶たないが、BTコットンの登場で自殺者の数は確実に増加しているという。現在ではインドのコットン栽培面積の90%以上がBTコットン取って代わってしまった。

 

 本来、タネは農家が自家採種できるものだった。しかし、モンサントはタネを“特許化”することで、農家に常にタネを買う契約を結ばせ、自家採種を許さない。

 

ロバン監督:

GMOのタネはすべて特許化されます。GMOを栽培している農家の人たちは、この作物が実を結んでタネを生んでも、それをキープする権利がないのです。否応なしに、来年蒔くタネはモンサントにお金を払って買わなければならない。モンサントはタネを私物化するために特許化しているわけです。

 

モンサントのプロパガンダに対抗するために

 世界制覇をもくろむ巨大多国籍企業の陰謀――。まるでフィクションのような話だが、残念ながらこれはいま起きている現実だ。だが、私たちには対抗する手段がある。

 

ロバン監督:

彼らは、お金を使ってプロパガンダをするわけです。モンサントは自分たちの製品の真実を語らせないがためにジャーナリストや科学者を黙らせるための方法を知っている。ですから、巨大な勢力をもった多国籍企業に立ち向かうためには独立した情報が重要です。

 

フランスでも、私が本を書き、映画を撮るまでは、モンサントについて知っている人は非常に少なかった。ル・モンドという一般紙がありますが、『モンサントの不自然な食べもの』が上映され、本が出版されたあとで、同紙はモンサントやGMOについて書くようになりました。

 

この映画は、モンサントとGMOを理解したいという人に向けて、ミーティングやシンポジウムの道具として使ってもらえるわけです。フランスの国会でも上映され、ほかにも、ケベック、パラグアイ、ブラジル、アルゼンチン、ルクセンブルクなど世界各国で上映されています。

 

役割は消費者にもあると思うのです。もっと自分たちが消費しているモノに対する意識を高めるということ。有機・無農薬の作物を選び、産地直送で買うのもGMOへの対抗手段になります。日本には、生産者と消費者が直接農作物を売り買いする「提携」というシステムがあります。世界の人たちに素晴らしいモデルとしてインスピレーションを与え続けているシステムです。仲介者を入れずに、生産者と消費者の密接な関係を築いていくことが、農家の人たちが多国籍大企業のアグロビジネスの罠に落ちずに威厳をもって農業を続けていける術なのです。

 

 日本でも、加工品の原料や畜産の飼料としてGMOは着々と食卓に上っている。栽培許可の下りている作物は、隔離ほ場での試験栽培を含めると、アルファルファ、イネ、セイヨウナタネ、大豆、テンサイ、トウモロコシ、パパイヤなどに及んでいる。

 

 いまのところ、許可されている作物であっても国内で商業栽培されたものはないが、TPPなどで外圧がかかれば始まる可能性は十分にある。

 

 だが、消費者の“GMOは食べたくない、買わない”と言う声が生産者に届けば、簡単には栽培されないだろう。

 


『モンサントの不自然な食べもの』は、モンサントが何をしてきたか、GMOが世界に何をもたらしているのかを検証したドキュメンタリーだ。この映画は、ロバン監督が言うように、私たちが“知り、考え、広める”ための絶好の資料であり、道具となる。

 

 上映の輪を日本の隅々にまで広げていきたい。

 

取材・文/温野まき

 

『モンサントの不自然な食べもの』

http://www.uplink.co.jp/monsanto/

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