カリンガ族の「無形文化」を伝えてゆく、EDAYAの挑戦

 
 

「EDAYA」は、日本人の山下彩香さんとフィリピンの山岳民族カリンガ族のエドガー・バナサンさんが立ち上げたブランドである。フィリピンルソン島北部の山岳地帯に住む少数民族、カリンガ族の伝統文化継承を支援するため、エシカルジュエリーの制作・販売のを行なっている。代表の山下さんがフィリピン北部を訪れた際に、カリンガの伝統楽器演奏者であるバナサンさんに出会ったのが、EDAYAの始まりだ。バナサンさんを通じて、山下さんはカリンガ族の置かれている現状を知ることになる。

 


 かつては自然神を信仰し、田畑を耕し、家畜を飼って自給自足で成り立っていたカリンガの暮らしは、道路や電気、テレビの普及など近代化の波により、大きく変わってきた。伝統の担い手である若者は、金鉱山や海外へ出稼ぎに出ていき、かつては部族の雨乞いや儀式、祭りなどで披露された伝統音楽や踊りも次第に廃れている。また、伝統文化を守ろうという意志があっても、現地ではそのための資金も人力も足りないのが現状だ。

 

 昨年7月、EDAYAは現地法人を立ち上げ、カリンガ族の伝統楽器をモチーフにしたアクセサリーや、オリジナルデザインの楽器の制作を開始した。単なるものづくりにとどまらず、無形の文化を継承する役割を持たせ、無形文化継承の新たなモデルを作りたいという意志を込めている。また現地に雇用を創出するという目的もある。

 

 昨年末から今年初め、2人は17の村を訪れ、伝統文化が予想以上に速いスピードで失われている現状を目の当たりにした。17村のうち、伝統的な楽器や音楽が継承されているのはわずか8村、残りの村ではすでに伝統的な音楽や儀式が途絶えてしまっていたのだ。もともと、カリンガ族とは総称であり、その中には45の部族(sub tribal)がある。かつて部族間には頻繁に戦いがあり、現在でも交流があるわけではない。また各部族の文化は少しずつ異なっている。つまり、部族の儀式や音楽は、途絶えてしまうと二度と取り戻すことはできないのだ。

 

竹楽器を演奏する現地の男性
竹楽器を演奏する現地の男性

楽器制作ワークショップの様子 
楽器制作ワークショップの様子 

 3月20日から10日間、EDAYAでは「EDAYA JOURNY」展と題して、これまでの活動を発表する場を設けた。会場となった東京・六本木のストライプハウスでは、フィリピン現地の様子が写真や映像で紹介され、EDAYAのオリジナルアレンジを施したカリンガ族の竹楽器が展示された。また、楽器制作ワークショップやさまざまなテーマでのトークイベントも行われた。

 


 会場にはさまざまな種類の竹楽器が展示されていたが、どれも素朴で力強いフォルムをしている。バナサンさんによれば、カリンガの部族(sub tribal)同士の戦いの後の「ピース・パクト」(平和協定の儀式)や、雨乞い、悪霊除け、ヒーリングなど、祝祭や儀式、生活の中で欠かせないものだという。また、同じ形の笛であっても、ある部族では悪霊除けに使われるが、他の部族では雨乞いに使われるなど、少しずつ違いがあるという。

 

インスタレーションとともに、作品を発表
インスタレーションとともに、作品を発表

 EDAYAでは、5月から6月にかけて現地でワークショップを行う予定だ。ワークショップでは、長老から子どもたちへと伝統音楽を教える。失われつつある伝統文化が若い世代に伝わる場となるのと同時に、現地の人々にとって、自文化の貴重さを認識してもらう機会にもなれば、と考えている。山下さんによれば、「現地での状況を日本で発表し、その成果を現地に還元してこそ意義がある」とのことだ。より多くの人に知ってもらい、共にプロジェクトに関わってほしいと、現在、クラウドファンディングという形で広く支援を募集中だ。

 

READY FOR? EDAYAページ (クリックで開きます)
READY FOR? EDAYAページ (クリックで開きます)

 EDAYAの竹製アクセサリーや楽器は、土臭くて、強い生命力を放っている。単なる「モノ」ではなく、そのうしろに長い時の中で培われた人々の暮しや知恵、儀式、祈り……など豊かな人の営みがあるからだろう。EDAYAの言う「無形文化」とは、音楽や踊りなどの伝統文化のみならず、その土地の人々の暮らしや考え方など、人の行いすべてを指しているのだ。

 

中・フィリピン・カリンガ族の民族衣装を着た山下彩香さん
中・フィリピン・カリンガ族の民族衣装を着た山下彩香さん

 カリンガ族の暮らす現地の経済環境や、労働問題、ものづくりの技術や音楽の継承――EDAYAの取り組みの背景には、さまざまな要素が絡み合っている。だからこそ、人に伝える難しさもある。でも私個人としては、次回、もし山下さんとバナサンさんが現地の報告をするトークイベントがあれば、ぜひとも参加したい。カリンガ族のことをもっと知りたいと思うし、日本人である山下さんが現地で何を見て何を感じたのか、知りたいと思ったからだ。道のないところに道を切り開いてゆく、山下さんとバナサンさんの強い思いとバイタリティが、現地でも日本でも、少しずつ人を動かしつつある。

 


READY FOR? EDAYAページ 

https://readyfor.jp/projects/edaya

EDAYA

http://edaya-arts.jp

 

遠藤香織 (えんどうかおり)

 

ソニー・ミュージックエンタテインメントに7年勤務の後、中国北京に留学。中国語の通訳・翻訳者として主にエンターテイメント分野で活動。2011年の震災以降、食品やエネルギーなど、自分達を取り巻く環境について、興味を持ち、勉強を始める。

 

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コメント: 1
  • #1

    峙 博恭(ソワ ヒロヤス) (土曜日, 29 3月 2014 22:15)

    昨日(3/28)偶然カリンガの番組を拝聴しました。日本でいう僻地で活躍しておられる山下さん・・・でしたか ? すごいバイタリティーに感銘を受けました。
    私は68才です。今、国際交流基金のプログラムに挑戦予定です。第1希望が叶えば、10月
    から10ケ月フィリピンに、日本語指導で派遣になるかもしれません。竹に触れ約20年、竹の伐採から油抜き・乾燥等、学びたいことがたくさんあります。HPも拝見しました。いい竹の味がでているように感じました。ご縁がありましたら、よろしくお願いします。

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